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韓国が月面経済基地を2045年建設計画 – 火星着陸も同年実現、アジア宇宙開発競争が激化

韓国が月面経済基地を2045年建設計画 - 火星着陸も同年実現、アジア宇宙開発競争が激化 - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年7月17日、韓国研究財団で韓国航空宇宙庁(KASA)が2045年までに月面経済基地を建設するロードマップを公表した。

計画は2032年にロボット月着陸機を送り、2040年に高性能着陸機を投入し、2045年に基地を完成させる。同年には火星モジュール着陸も目指す。2022年8月4日にSpaceXのFalcon 9で打ち上げられた月探査機「ダヌリ」は現在も月周回中で、2032年以降の打ち上げには国産KSLV-IIIロケットを用い、ナロ宇宙センターから発射する計画である。

さらに2035年までにL4ラグランジュ点へ太陽観測衛星を配置する構想も示された。

From: 文献リンクSouth Korea Plans to Build a Base on the Moon

【編集部解説】

韓国の月面基地建設計画は、確かに野心的な目標ですが、その背景には同国の戦略的な宇宙政策転換があります。2024年5月に設立されたKASAは、従来の韓国航空宇宙研究院(KARI)を統括する上位機関として、米国のNASAをモデルに創設されました。これは韓国が宇宙開発を国家安全保障と経済競争力の中核に位置づけたことを意味しています。

L4ラグランジュ点への太陽観測衛星配備計画は、特に注目すべき技術的挑戦です。ラグランジュ点とは、太陽と地球の重力が釣り合う宇宙空間の安定した位置で、ここに衛星を配置することで燃料消費を最小限に抑えながら長期間の観測が可能になります。この技術は宇宙天気予報の精度向上に直結し、地球上の通信インフラや衛星システムの保護に重要な役割を果たします。

現在進行中の準備作業として、韓国地質資源研究院が廃炭鉱を活用してプロトタイプ月面ローバーのテストを実施している点は興味深い取り組みです。炭鉱内部の暗闇、粉塵、不整地という環境は、確かに月面の過酷な条件を模擬するのに適しており、限られた予算内で効果的な技術検証を行う韓国らしいアプローチと言えるでしょう。

しかし、韓国の宇宙計画には構造的な課題も存在します。地理的制約として、韓国の高緯度に位置する発射場は赤道近くの国々が享受する地球の自転による燃料効率のメリットを得られません。さらに、中国、日本、フィリピンなど人口密集地域に囲まれているため、ロケットの打ち上げ軌道が制限され、精密な軌道計画が必要となります。

資金面でも課題があります。韓国の宇宙予算は2025年で約9,649億ウォン(約964億円)と、主要宇宙大国と比較すると相対的に小規模です。月面経済基地の建設には推進システム、生命維持システム、ロボット技術への大規模投資が必要で、予算制約が計画実現の鍵を握ることになります。

国際競争の観点では、韓国の2045年目標は中国・ロシアの共同月面基地計画やインドの2047年計画と同時期に集中しています。これは月面資源、特に水氷の採掘権や戦略的拠点の確保を巡る激しい競争を意味します。月の南極地域に存在する水氷は、飲料水、酸素、ロケット燃料として活用可能で、持続可能な月面経済の基盤となる重要な資源です。

技術開発面では、韓国が独自のKSLV-IIIロケット開発を進めていることが重要なポイントです。これまでSpaceXのFalcon 9に依存していた状況から脱却し、自主的な宇宙アクセス能力を獲得することで、地政学的リスクを軽減できます。特にロシア・ウクライナ戦争によりロシアとの技術協力が中断された経験は、自主技術開発の重要性を韓国に痛感させました。

長期的な視点では、韓国の月面基地計画は単なる宇宙探査を超えた意味を持ちます。月面での資源採掘技術は地球上の深海採掘や極地開発にも応用可能で、韓国の製造業と造船業の競争力向上に寄与する可能性があります。また、宇宙技術の民間移転により、衛星通信、地球観測、宇宙旅行といった新産業の創出も期待されます。

ただし、技術的な不確実性も無視できません。現在のヌリロケット(KSLV-II)の打ち上げ間隔が2.5年と長く、技術的専門知識の維持が困難になっているという指摘もあります。月面基地建設に向けては、より頻繁な打ち上げ実績と技術の蓄積が不可欠です。

韓国のアプローチで注目すべきは、既存の宇宙大国の後発参入という立場を逆に活用している点です。レガシーシステムに縛られることなく、最新技術を導入し、他国の経験から学ぶことで効率的な開発が可能になります。この「リープフロッグ効果」が、韓国の宇宙計画成功の鍵となるかもしれません。

【用語解説】

L4ラグランジュ点
太陽と地球の重力が釣り合う位置の一つ。地球の公転軌道を60°先行するため、少ない燃料で長期観測ができる。

月面経済基地
科学研究に加え資源採掘や物資輸送のハブを担う恒久施設。水氷を電気分解して酸素・水素を生成し、燃料補給拠点となる構想がある。

ナロ宇宙センター
全羅南道高興郡にある韓国唯一のロケット発射場。KSLV-II「ヌリ」、次世代KSLV-IIIの打ち上げ拠点となる。

宇宙天気
太陽フレアやコロナ質量放出などが地球近傍で引き起こす磁気嵐・放射線環境の変動。通信、電力網、衛星運用に影響する。

【参考リンク】

韓国航空宇宙庁(KASA)(外部)
2024年設立の韓国国家宇宙機関。月・火星探査と宇宙産業育成を統括する。

韓国航空宇宙研究院(KARI)(外部)
1989年設立。ダヌリ探査機やKSLVシリーズロケットを開発・運用する研究機関。

NASA Artemis Program(外部)
2020年代後半に人類を月へ再着陸させ、恒常的な月面活動を目指す米国主導計画。

KPLO (Danuri) Mission – NASA(外部)
2022年8月4日打ち上げの韓国初の月探査機。月資源探査と試験通信を実施中。

韓国地質資源研究院(KIGAM)(外部)
地質・鉱物資源研究機関。廃炭鉱を使った月面ローバー試験に協力する。

【参考記事】

韓国、2045年までに月面基地を建設–ロードマップを発表(外部)
韓国公聴会で示されたミッション段階と産業支援策を解説。

Hanwha to Lead Korea’s Next-Generation Space Rocket Project(外部)
KSLV-IIIの開発体制と再使用技術への投資を説明。

韓国 火星着陸を計画 2045年に宇宙機関が発足(外部)
未来宇宙経済ロードマップ全体と資金計画を俯瞰。

【編集部後記】

韓国が2045年に月面基地を建設するという野心的な計画を見て、皆さんはどう感じられたでしょうか。実は今、月面は新たな「大航海時代」の舞台になろうとしています。

日本はJAXAが2025年に月面着陸機SLIM(スリム)の成功を受けて、2029年には有人月面探査への参加を表明していますが、独自の月面基地計画はまだ明確化されていません。一方、アメリカのArtemis計画は2026年の有人月面着陸を皮切りに2030年代の基地建設を目指し、中国とロシアは2030年代前半の共同月面基地「国際月面研究基地」の完成を計画しています。インドも2047年までの月面基地建設を宣言しており、まさに「月面ゴールドラッシュ」の様相を呈しています。

注目すべきは、これが単なる科学探査競争ではないことです。月の南極に眠る推定10億トンの水氷は、宇宙開発における「石油」とも言える戦略資源です。これを燃料や酸素に変換できれば、火星探査の中継基地として、また地球近傍小惑星の採掘拠点として、計り知れない経済価値を生み出します。

では、これは新たな「宇宙戦争」の前兆なのでしょうか?むしろ逆かもしれません。月面という極限環境では、どの国も単独では持続可能な活動は困難です。技術的な相互補完、リスク分散、コスト削減のため、競争しながらも協調する「競争的協調」の時代が始まるのではないでしょうか。

皆さんは、この月面競争において日本がどのような独自性を発揮すべきだと思いますか?そして20年後、月から地球を眺める日常が訪れたとき、人類はどう変わっているのでしょう。ぜひご意見をお聞かせください。

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TaTsu
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