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米中宇宙開発競争、次の舞台は月へ。中国の月着陸船「攬月」が試験成功、その先の狙いとは

米中宇宙開発競争、次の舞台は月へ。中国の月着陸船「攬月」が試験成功、その先の狙いとは - innovaTopia - (イノベトピア)

中国の月着陸船「攬月」が地上試験に成功。2030年の有人月面着陸へ、米アルテミス計画を追う

中国有人宇宙工程弁公室(CMS)は、2030年までの自国民による初の月面着陸を目指し、2025年8月7日に月着陸船「攬月(ランユエ)」の初の試験を実施したと発表した。

試験は河北省の月面模擬施設で行われ、着陸船の上昇・下降システムが検証された。「攬月」は宇宙飛行士の輸送に加え、着陸後は居住空間、電源、データセンターとして機能する設計である。

一方、米国のNASAはアルテミス計画により、2026年4月に有人月周回飛行を、その1年後に月面着陸を計画している。中国は過去5年で月の表側と裏側からサンプルを回収しており、2035年までにはロシアと共同で国際月面研究ステーションの基本モデルを建設することも計画している。

From: 文献リンクChina tests spacecraft it hopes will put first Chinese on the moon

【編集部解説】

今回報じられた中国の月着陸船「攬月(ランユエ)」の試験成功のニュースは、単なる一回の宇宙開発イベントではありません。これは、21世紀の新たな宇宙開発競争が、具体的なマイルストーンを刻んだ瞬間であり、人類の活動領域が月へと本格的に拡大していく未来を指し示す、重要な出来事と言えるでしょう。

今回試験が行われた「攬月」は、その名の通り「月を抱く」という壮大な意志を体現した宇宙船です。特筆すべきは、この着陸船が単に宇宙飛行士を月面へ運ぶだけの輸送機ではない点です。2名の宇宙飛行士と月面探査車(ローバー)を輸送する能力に加え、着陸後は月面での居住空間、電力供給源、さらにはデータセンターとしても機能する、多目的拠点として設計されています。これは、一過性の探査ではなく、月面での持続的な活動を初期段階から視野に入れていることを強く示唆しています。

この試験の技術的な核心は、河北省の施設で、いかに月面環境を忠実に再現したかにあります。月の重力を擬似的に作り出し、特殊なコーティングで月の土壌(レゴリス)の光の反射率を模倣、クレーターや岩石まで配置した地上試験場は、このミッションの成功に万全を期す中国の周到さを物語っています。特に、複数のエンジンを冗長構成とし、万が一1基が故障しても安全に月周回軌道へ帰還できる設計は、人命を最優先する思想の表れです。

この動きを理解する上で欠かせないのが、米国が主導する「アルテミス計画」の存在です。NASAは2026年にも宇宙飛行士による月周回飛行を行い、翌年には月面着陸を目指しています。中国が「2030年までの有人月面着陸」を国家目標として掲げ、着実に歩を進めていることは、かつての米ソの宇宙開発競争とは異なる、新たな国際競争の構図が鮮明になったことを意味します。どちらが先に恒久的な拠点を築くかが、今後の宇宙における主導権を左右するかもしれません。

そして、このニュースの最も重要な点は、月面着陸が最終ゴールではないという事実です。中国の長期的な目標は、ロシアなどと協力し、2035年までに月面に「国際月面研究ステーション(ILRS)」の基本モデルを建設することにあります。これは、月の南極域に計画され、将来的にはエネルギー源として原子炉の設置も構想に含まれる、壮大な有人基地計画です。

今回の「攬月」の試験成功は、その巨大な構想の実現に向けた、具体的かつ不可欠な一歩です。テクノロジーが進化の先に見据えるのは、地球外での人類の持続的な活動であり、フロンティアの拡大です。我々innovaTopiaは、この歴史的な潮流が人類全体の進化(Human Evolution)にどう貢献していくのか、引き続き注意深く見守り、報じていきます。

【用語解説】

攬月(ランユエ)
中国が開発中の有人月着陸船の名称である。「月を抱く」という意味を持つ。宇宙飛行士2名と月面探査車1台を月周回軌道から月面へ輸送する能力に加え、月面着陸後は、飛行士の居住空間、電源、データセンターとしての機能も担う多目的拠点として設計されている。

レゴリス
月や惑星などの天体の表面に存在する、岩石が細かく砕かれた砂や塵の層のことである。今回の「攬月」の地上試験では、このレゴリスの光の反射率などを特殊なコーティングで再現し、より本番に近い環境での検証が行われた。

国際月面研究ステーション(ILRS)
中国とロシアが主導して月面に建設を計画している大規模な科学研究基地である。月の探査・利用、月からの観測、基礎科学実験、技術検証などを多角的に行うことを目的とする。計画では2035年までに基本モデルを完成させ、将来的にはエネルギー源として原子炉の設置も構想に含まれている。

【参考リンク】

China Manned Space(外部)
中国の有人宇宙計画を管理・実行するCMSAの公式サイト。ミッション情報や計画概要を公開。

中国国家航天局(CNSA)(外部)
中国の国家宇宙機関。「嫦娥」計画等の月探査計画を管轄し、国際協力も推進している。

NASA アルテミス計画(外部)
NASA主導の国際有人月探査計画。アポロ計画以来の月面着陸と持続的な活動を目指す。

【参考記事】

China completes key lander test…(外部)
「攬月」着陸船の試験完了を詳述。月面重力の模擬や多目的設計であることを伝えている。

China’s lunar lander aces touchdown…(外部)
「攬月」の着陸・離陸試験成功を伝え、有人月探査計画の大きな前進であると評価している。

China’s manned lunar exploration…(外部)
中国の有人月探査計画全体の進捗状況をまとめた政府公式記事。主要機器の開発状況を報告。

【編集部後記】

今回お伝えした中国の「攬月」のニュースは、米中による月開発競争の激化を象徴しています。しかし、この新たな大航海時代、主役は二大国だけではありません。

JAXAの「SLIM」が見せた世界初のピンポイント着陸の神業、そしてispace社が果敢に挑み続ける民間主導の月輸送サービス。日本もまた、独自の技術とスタイルで、このフロンティアに確かな存在感を示しています。

国家の威信をかけた巨大プロジェクトと、民間の活力が切り開く新たな宇宙経済圏。多様なアクターが織りなす月の未来を、皆さんはどのように描きますか?技術の進化が人類にどんな可能性をもたらすのか、ぜひあなたの視点をお聞かせください。私たちも皆さんと共に、この物語の続きを追い続けたいと願っています。

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TaTsu
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