ISRO(インド宇宙研究機関)のV. Narayananが、オスマニア大学の卒業式で祝辞を述べた。Narayananは、ISROが40階建て相当の高さのロケット開発に取り組んでおり、このロケットは75トンのペイロードを宇宙に投入する能力を持つと発表した。
また、2025年にNAVIC(Navigation with Indian Constellation)衛星とN1ロケットのプロジェクトを予定していることも明らかにした。
From: ISRO working on 40-storey-tall rocket to place 75-tonne payload in space: Narayanan
【編集部解説】
ISROが発表した40階建て相当の巨大ロケット開発は、インドの宇宙戦略における歴史的な転換点を意味します。1960年代にDr. A.P.J.アブドル・カラムが開発した最初のロケットが17トンの総重量で35kgのペイロードしか運べなかった時代から、今回発表された75,000kgという数値は実に2,142倍の能力向上を表しています。
この巨大ロケットの技術的意義を理解するには、現在の世界の超重量級ロケット競争の文脈で捉える必要があります。SpaceXのStarship、NASAのSpace Launch System、中国のLong March 9といった競合と肩を並べる能力を持つことで、インドは「ロケット大国」としての地位を確立しようとしています。
75トンという積載能力が実現すれば、インドの宇宙開発における可能性は劇的に拡大します。現在計画中のBharatiya Antariksh Station(52トンの宇宙ステーション)の打ち上げが単発で可能になり、2040年までに予定されている有人月面探査計画も現実的なものとなります。
さらに注目すべきは、ISROが現在55基の衛星を軌道上に保有していますが、これを3-4年以内に3倍の165基まで増加させる計画です。この急速な衛星展開には大型ロケットが不可欠であり、今回の開発発表と密接に関連しています。
一方で、技術的なリスクも存在します。ISROは過去にGSLVロケットで複数回の失敗を経験しており、40階建て相当の巨大ロケットの開発には前例のない技術的挑戦が伴います。特に推進システムの安全性確保と、打ち上げコストの競争力維持が重要な課題となるでしょう。
規制面では、インドの宇宙政策が商業化に向けて大きく舵を切っていることも重要です。ISROは開発当初から産業界との連携を重視し、この巨大ロケットプロジェクトも民間企業の参画を前提としています。これにより、インドの宇宙産業全体の競争力向上が期待されます。
長期的な視点では、この技術開発により、インドは宇宙資源探査、深宇宙探査、さらには宇宙太陽光発電システムの展開といった次世代宇宙事業への参入が可能となります。75トンという積載能力は、これらの大規模インフラ構築に必要な基盤技術と言えるでしょう。
【用語解説】
NAVIC(Navigation with Indian Constellation)
インドが独自開発した衛星測位システムで、GPSのインド版である。7基の衛星で構成され、インド本土周辺2,000km範囲での高精度測位サービスを提供している。
GSLV(Geosynchronous Satellite Launch Vehicle)
ISROが開発した静止軌道投入用ロケット。中重量級の衛星を静止軌道まで打ち上げる能力を持つ。
低軌道(Low Earth Orbit/LEO)
地上から160-2,000km上空の軌道で、国際宇宙ステーションなどが周回する軌道である。通信衛星や観測衛星の多くがこの軌道に配置される。
ペイロード
ロケットが宇宙空間に運ぶ実際の貨物や衛星のことで、ロケット全体の重量から推進剤や構体重量を除いた有効積載量を指す。
【参考リンク】
【参考記事】
ISRO making a 40-storey high rocket to carry 75000 kg payload to orbit(外部)
ISRO会長が発表した75,000kg積載能力の超大型ロケット開発計画について詳細報告
Ready, set, liftoff! How ISRO’s most powerful 40-Storey mega rocket aims to send 75,000 kg payload in one go(外部)
40階建て相当メガロケットの技術仕様とSpaceXのStarshipとの競合分析
ISRO plans rocket for 75-tonne payload – The New Indian Express(外部)
オスマニア大学での会長講演報告。52トン宇宙ステーション、2040年有人月面ミッション含む
Isro: How calculated risks have translated into more frequent and sophisticated launches(外部)
ISROの過去の技術的失敗とGSLVロケットでの複数回失敗経験から得られた教訓
【編集部後記】
宇宙開発の世界では、今まさに「大型化」と「低コスト化」の両立が最重要テーマとなっています。ISROの75トン級メガロケットは、この課題にどのようなアプローチで挑むのでしょうか。
日本でも同様に、H3ロケットで「約半額」のコスト削減を実現し、次世代宇宙輸送システムでは再使用化・大型化を同時に目指す技術開発が進んでいます。宇宙戦略基金を活用した固体モータの量産化技術や統合航法装置の開発など、日本独自の堅実なアプローチが特徴的です。
インドが宇宙ステーション建設や有人月面探査を実現すれば、日本の宇宙開発戦略にも大きな影響を与えるでしょう。皆さんは、アジアの宇宙技術競争をどのように捉えますか?日印の協力関係や技術的な棲み分けについて、ご意見をお聞かせください。