SpaceXは8月21日、テキサス州ボカチカのStarbase施設で第1段ロケットSuper Heavyブースターを発射台に移動し、Starshipロケットの第10回テスト飛行に向けた準備を進めた。同社は木曜日にXアカウントでSuper Heavyブースターの画像を公開した。このブースターには33基のRaptorエンジンが搭載され、打ち上げ時に約1,600万ポンドの推力を生成する。上段のStarship宇宙船はまだSuper Heavyの上に配置されていない。SpaceXは8月24日日曜日にStarshipの第10回テスト飛行を予定している。今回の飛行は5月27日以来初めてのStarship打ち上げとなる。以前の計画は、Starbaseで発生したStarship宇宙船の爆発により中止された。調査の結果、爆発は宇宙船内部の損傷した高圧窒素タンクの技術的欠陥が原因と判明した。今回のテストでは、高さ71メートルのブースターはStarbaseに着陸せず、外洋での制御された着陸を試みる。NASAはStarship宇宙船の改良版をArtemis IIIミッションで使用し、2027年を目標に1972年以来初の有人月面着陸を計画している。
From: SpaceX takes big step toward next Starship rocket launch
【編集部解説】
SpaceXのStarship第10回テストフライトは、単なる次回打ち上げの準備ではなく、宇宙開発における重要な転換点を意味しています。このミッションが注目される理由について、複数の視点から解説します。
技術的な挫折からの復活
2025年前半、Starshipプログラムは連続した失敗に直面していました。第7回、8回、9回テストフライトでは全て上段機が失われ、6月には静的燃焼試験中にShip 36が爆発する事故も発生しています。これらの失敗により、一部の専門家からはStarshipのアーキテクチャそのものに対する疑問の声も上がっていました。
今回の第10回テストでは、Ship 37とBooster 16という新しい組み合わせが使用されます。特に注目すべきは、過去の失敗から学んだ技術改良が施されている点です。第9回テストの失敗原因とされた燃料タンク加圧システムの拡散装置については、設計が見直され、構造負荷を軽減する改良が加えられています。
完全再利用ロケットへの道のり
Starshipの最大の革新性は、完全再利用可能な設計にあります。従来のロケットが使い捨てで数億ドルのコストがかかるのに対し、Starshipは航空機のように繰り返し使用することで、打ち上げコストを劇的に削減することを目指しています。
今回のテストでは、Booster 16が海上への制御着水を試みます。これは最終的に発射台での回収につながる重要なステップです。SpaceXは既に第5回テストでブースター回収に成功していますが、継続的な成功が完全再利用システムの実現には不可欠です。
NASA Artemisプログラムへの影響
このテストの成功は、NASAのArtemis III月面着陸ミッション(2027年予定)にも直接的な影響を与えます。SpaceXは月面着陸船としてStarshipの改良版を提供する契約を結んでおり、基本システムの信頼性確立が急務となっています。
月面ミッションには軌道上での燃料補給が必要で、これはStarshipが初めて実用化を目指す革新的な技術です。複数のタンカー機による燃料補給を短期間で連続実行する必要があり、システム全体の成熟度が問われています。
商業宇宙産業への波及効果
Starshipの成功は、宇宙産業全体のコスト構造を変革する可能性があります。現在1kgあたり数千ドルの軌道投入コストが、将来的には数十ドルまで下がる可能性が指摘されています。これにより、大型宇宙ステーションの建設、月面基地の建設、さらには火星植民地計画といった、これまで経済的に困難だったプロジェクトが現実的になります。
技術仕様の革新性
今回使用されるSuper Heavyブースターは、33基のRaptorエンジンを搭載し、約1,600万ポンドの推力を発生します。これは史上最強のロケットエンジン構成であり、NASAのサターンVロケットの2倍以上の推力を誇ります。この圧倒的なパワーにより、100トン以上のペイロードを低軌道に投入することが可能となります。
リスクと課題
一方で、いくつかの懸念も存在します。連続した失敗により、SpaceXの開発アプローチに対する批判も出ています。MIT の専門家は「モグラ叩き」的な問題解決により、新たな問題が次々と発生する状況を指摘しています。
また、急速な開発ペースが安全性に与える影響や、メキシコ政府が懸念する破片による環境汚染問題なども、今後解決すべき課題として残されています。
長期的な展望
Starshipは単なる輸送手段を超えて、人類の宇宙進出における基盤技術となる可能性を秘めています。火星への有人ミッション、月面都市の建設、さらには太陽系内での人類の活動範囲拡大といった、SF的な構想を現実に変える鍵となるでしょう。
第10回テストの成功如何によって、これらの壮大な計画の実現性が大きく左右されることになります。
【用語解説】
Starship: SpaceXが開発中の完全再利用型超大型ロケットシステム。Super Heavy(第1段)とStarship(第2段)で構成され、高さ121.3メートル、直径9メートル。月や火星への有人ミッションを目的とする。
Super Heavy: Starshipの第1段ブースター。33基のRaptorエンジンを搭載し、約1,600万ポンドの推力を発生。高さ71メートルで、打ち上げ後は発射台に戻って回収される設計。
Raptorエンジン: SpaceXが開発したメタン燃料ロケットエンジン。液体メタンと液体酸素を推進剤とし、従来のケロシン燃料より高性能で再利用に適している。
Starbase: テキサス州ボカチカにあるSpaceXの製造・試験・打ち上げ施設。Starship専用の開発拠点として機能している。
軌道上燃料補給: 宇宙空間で複数の宇宙船間で燃料を移送する技術。月や火星への長距離ミッションに必要不可欠な革新的システム。
Block 2/Block 3: Starshipの開発バージョン。Block 2は現在使用中の改良型、Block 3は将来計画される大型化バージョンで高さ150メートルを予定。
制御着水: ロケットが海面に軟着陸する技術。完全回収の前段階として重要な技術実証項目。
【参考リンク】
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【編集部後記】
SpaceXのStarshipが目指す「完全再利用ロケット」は、私たちが想像する以上に日常生活を変える可能性を秘めています。打ち上げコストが劇的に下がれば、宇宙旅行はもちろん、衛星インターネットや宇宙での製造業まで現実的になるかもしれません。
今回の第10回テストは技術的な成功だけでなく、人類の宇宙進出における重要な分岐点となりそうです。