中国の宇宙航空会社Geespaceが8月上旬に11基の衛星を軌道に投入したと発表した。Geespaceは2022年以来4度目のロケット打ち上げを行い、同社のIoTコンステレーションの総数を30基から41基に拡大した。
同社は2025年末までに72基の衛星を配備し、極地域を除く世界規模のデータカバレッジを提供する予定である。
Geespaceは中国第2位の自動車メーカーGeelyの親会社が所有しており、20カ国以上の電気通信会社と関係を築いている。今年前半にはモロッコ、マレーシア、サウジアラビアの企業と新たな契約を締結した。衛星は乗用車と商用車の先進運転支援システムをサポートし、移動の安全性と利便性を向上させるとしている。
Geelyは独自の専用衛星インターネットコンステレーションを持つ唯一のグローバル自動車メーカーとなった。同社の親会社はVolvo CarsとLotusの過半数、EV企業Polestarの半分近く、Aston Martinの17パーセントを所有している。2018年にはGeely創設者の李書福氏がMercedes-Benzの約10パーセントの株式を購入した。
BYDは今年Teslaを抜いて世界最大のニューエネルギー車販売業者となり、中国の自動車輸出は2021年から2024年にかけて300パーセント増加した。
From: Automaker Geely Launched Its Own Satellites Into Space, Highlighting China’s Ambitions
【編集部解説】
この記事で注目すべきは、自動車メーカーが単なる「乗り物」の製造者から脱却し、宇宙インフラまで手がける総合モビリティ企業に変貌しているという点です。
Geelyの衛星計画「Future Mobility Constellation」は3段階で構成されており、現在進行中の第1段階では72基の衛星で世界規模のリアルタイム通信を実現します。第2段階では268基の衛星でスマートフォンへの直接接続を提供し、最終的に第3段階では5,676基の衛星で全世界的なブロードバンドサービスを目指すとされています。
この衛星ネットワークが実現する技術的価値は、センチメートル級の精密測位にあります。現在のGPSが数メートルの誤差を持つのに対し、Geelyの衛星は自動運転に必要な高精度な位置情報を提供できます。これにより、車線維持や障害物回避といった安全機能の精度が飛躍的に向上します。
ビジネス戦略の観点から見ると、Geelyは中国国内の激しい価格競争から脱却するための戦略として衛星技術を位置づけています。中国の自動車輸出は2021年から2024年にかけて300%増加しており、独自の衛星ネットワークは海外展開における差別化要因となりえます。
しかし、この取り組みには複数のリスクも存在します。衛星アンテナの車両搭載は製造コストを押し上げ、自動車業界の薄い利益率を更に圧迫する可能性があります。実際、TeslaとSpaceXが同じ経営陣でありながら、Tesla車にStarlinkが標準搭載されていない現状からも、コスト対効果の難しさが伺えます。
規制面での影響も見逃せません。各国政府は安全保障の観点から中国製の通信機器への規制を強化しており、衛星通信機能を持つ車両の国境を越えた移動には新たな規制が課される可能性があります。
長期的には、この動きは自動車産業全体にパラダイムシフトをもたらす可能性があります。車両が宇宙と常時通信できる環境が実現すれば、リアルタイムの交通最適化やV2X(Vehicle to Everything)通信の高度化が進み、都市全体のスマート化が加速するでしょう。
【用語解説】
低軌道衛星(LEO:Low Earth Orbit)
地上高度160~2,000km程度の軌道を周回する衛星である。従来の静止軌道衛星より地球に近いため、通信遅延が少なく高精度なサービスを提供可能。
IoTコンステレーション
Internet of Things(モノのインターネット)機器同士を衛星ネットワークで接続する衛星群である。センサーや機器が地球上のあらゆる場所でデータ通信を行える環境を構築する。
ADAS(Advanced Driver Assistance Systems)
先進運転支援システムの略称である。レーダーやカメラなどのセンサーを用いて、車線維持支援や自動ブレーキなどの安全機能を提供する技術。
センチメートル級測位
従来のGPSが数メートルの誤差を持つのに対し、誤差を数センチメートル以内に抑える高精度測位技術である。自動運転に必要な精密な位置情報を提供する。
V2X通信
Vehicle to Everything通信の略である。車両と他の車両、インフラ、歩行者などあらゆるものとの間で行われるリアルタイム通信技術。
【参考リンク】
Geely Official Website(外部)
中国の自動車メーカーGeelyの公式サイト。企業概要、製品情報、ESGレポートなどを掲載している。
Geespace(時空道宇科技)(外部)
Geelyの子会社である宇宙航空企業。低軌道衛星コンステレーション事業を展開し、IoT通信サービスを提供している。
【参考動画】
【参考記事】
Geespace’s Geely Constellation Reaches 41 Satellites(外部)
GeespaceのGEESATCOM衛星ネットワークが41基に達し、グローバルなIoT接続性を強化している現状を分析した記事。
China’s Geespace launches next batch of LEO satellites(外部)
Geespaceの低軌道衛星が自動車の接続性向上にどのように貢献するかを技術面から詳述した記事。
Satellite Connectivity: Transforming Vehicles Beyond Cellular Limits(外部)
自動車業界における衛星接続技術の変革的影響と、セルラー網の限界を超える可能性について分析した専門記事。
China launches 10 satellites for global communication network(外部)
中国が打ち上げたGeespace衛星10基の詳細と、Long March-6ロケットによる534回目のミッション成功について報告した記事。
【編集部後記】
自動車メーカーが宇宙に挑む時代がいよいよ本格化していますが、これは自動運転や電動化に続く次の技術的転換点なのでしょうか。皆さんは将来、愛車が宇宙と常時通信している世界をどう想像されますか?
Geelyのような先駆的な取り組みが他の自動車メーカーにも波及し、やがて日本のトヨタやホンダも独自の衛星網構築に乗り出すかもしれません。そうなれば、車選びの基準にも「どの衛星サービスに対応しているか」という項目が加わるかもしれませんね。
一方で、宇宙からの常時監視に対するプライバシーの懸念や、衛星通信コストが車両価格に与える影響など、私たちが考えるべき課題も多そうです。この変革の波をどう受け止めていけばよいのか、ぜひ皆さんのご意見をお聞かせください。