JAXA、ESAのアポフィス探査ミッション「Ramses」参加を政府に要請 H3ロケット提供で国際協力

JAXA、ESAのアポフィス探査ミッション「Ramses」参加を政府に要求 H3ロケット提供で国際協力 - innovaTopia - (イノベトピア)

日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、欧州宇宙機関(ESA)の「宇宙安全のための迅速アポフィス・ミッション(Ramses)」への参加資金を日本政府に要請した。

Ramsesは直径375メートルの小惑星アポフィスとランデブーし、2029年の地球への接近飛行に同行するESAの提案ミッションである。欧州の宇宙担当大臣は2025年11月のESA閣僚理事会でRamsesの支援可否を決定する。

宇宙船は2028年に打ち上げる必要があるため、予備作業が進行中である。JAXAは現在小惑星ディディモスに向かっているESAの惑星防衛ミッション「Hera」にも参加している。

RamsesへのJAXAの貢献は宇宙船の太陽電池パネルと赤外線撮像装置の提供、日本のH3ロケットでの相乗り打ち上げを含む。

Ramsesミッション・マネージャーのパオロ・マルティーノ氏とESA宇宙安全プログラム責任者のホルガー・クラーグ氏が両機関の協力について言及した。

From: 文献リンクESA and JAXA advance potential Apophis mission collaboration

【編集部解説】

この国際協力プロジェクトが持つ科学的意義について解説します。直径375メートルの小惑星アポフィスは、2029年4月13日に地球から約32,000キロメートル(31,600キロメートル)の距離を通過します。これは地上からの高度が静止軌道衛星よりも近く、文字通り5000年から10000年に一度の観測機会となります。

注目すべきは、地球の重力がアポフィスに与える影響の研究価値です。接近時に地球の重力場によってアポフィスの自転状態が変化し、地震や地滑りが発生する可能性があり、さらに小さな岩石が表面から浮遊する現象も予想されています。これらの変化を詳細に観測することで、小惑星の内部構造や組成、密度といった重要な物理特性を解明できます。

惑星防衛の観点から見ると、このミッションは将来の脅威に対する準備として極めて重要です。万が一地球に衝突軌道を取る小惑星が発見された場合、その軌道を変更する最適な方法を決定するには、対象天体の物理特性を正確に把握する必要があります。Ramsesが収集するデータは、そのような緊急事態における対応戦略の基盤となるでしょう。

技術的な挑戦も見逃せません。2028年4月の打ち上げから2029年2月のアポフィス到達まで、わずか4年という異例の短期間でミッションを完遂する必要があります。通常のESAミッションは計画から実行まで数年を要するため、この時間的制約は技術開発チームにとって大きなプレッシャーとなっています。

国際宇宙協力の新たな局面も注目に値します。NASAの独自ミッション「OSIRIS-APEX」が予算削減の影響で不透明な状況にある中、ESAとJAXAの連携強化は、宇宙開発における地政学的な変化を反映しています。JAXAの藤本正樹副理事長が「人類全体を代表してアポフィスを調査する」と表明した背景には、こうした国際情勢の変化があります。

リスクとしては、打ち上げスケジュールの遅延が致命的となる点が挙げられます。アポフィスとの会合に間に合わなければ、次の機会は遠い将来となってしまいます。しかし、このプロジェクトが成功すれば、人類の宇宙における安全保障能力が飛躍的に向上することになります。

【用語解説】

小惑星アポフィス(99942 Apophis) – 2004年に発見された直径約375メートルの地球近傍小惑星である。エジプト神話の混沌の神「アポフィス」から名前が付けられた。

ランデブー(Rendezvous) – 宇宙機が他の天体や宇宙機と軌道上で合流・接近することを指す宇宙工学用語である。

惑星防衛(Planetary Defence) – 地球に衝突する可能性がある小惑星や彗星などの天体から地球を守るための科学技術分野である。

閣僚理事会(Ministerial Council) – ESAの最高意思決定機関で、各加盟国の宇宙担当大臣が参加し、予算配分や新規ミッションの承認を行う。

相乗り打ち上げ(Rideshare Launch) – 複数の衛星や宇宙機を一つのロケットで同時に打ち上げることで、コストを削減する手法である。

H3ロケット – JAXAが開発した新世代の主力ロケットで、2023年に初号機が打ち上げられた日本の最新型基幹ロケットである。

【参考リンク】

欧州宇宙機関(ESA)(外部)
欧州22カ国が参加する宇宙機関で、科学探査、地球観測、宇宙安全などの分野で活動している。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)(外部)
日本の国立研究開発法人で、宇宙科学研究、宇宙探査、衛星開発・運用を担当している。

【参考動画】

【参考記事】

Japan to provide H3 rocket for Europe’s mission to observe Apophis asteroid(外部)
ロイター通信の報道で、JAXA副理事長藤本正樹氏の発言とNASA予算削減の影響を詳述。

Ramses: A new mission racing to land on asteroid Apophis(外部)
惑星協会による詳細記事で、7500万ユーロの予算と4年という開発期間について解説。

Ramses: ESA’s mission to asteroid Apophis(外部)
ESA公式サイトの技術仕様記事で、32,000キロメートルという接近距離を明記。

【編集部後記】

この国際協力ミッションを通じて、皆さんに一つ考えていただきたいことがあります。もし家族や友人から「小惑星って本当に危険なの?」と聞かれたとき、どのように説明されるでしょうか。恐竜絶滅の話は知っていても、現代の私たちがどう備えているかは意外と知られていません。

今回のアポフィス観測は、映画のような「爆破」ではなく、科学的な観測と国際協力によって未来の脅威に備える、まさに現実的なアプローチです。宇宙技術が私たちの生活をどう守っているか、改めて考える機会になればと思います。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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