宇宙ごみを「袋詰め」で捕獲:TransAstra膨張式デブリ除去システム、9月14日ISS打上げ

宇宙ごみを「袋詰め」で捕獲:TransAstra膨張式デブリ除去システム、9月14日ISS打上げ - innovaTopia - (イノベトピア)

航空宇宙スタートアップのTransAstra Corporationは、宇宙ごみ除去技術「Capture Bag」システムを開発した。2025年9月10日、同社はこのシステムをISS国際宇宙ステーションで試験すると発表した。

同システムは膨張式・加圧構造で設計されており、異なる形状や大きさの物体、回転中の物体も捕獲できる。

実験では、Voyager Technologies社のBishopエアロック内でCapture Bagを膨張させ、4台のカメラで観察する。

主任エンジニアのThibaud Talon氏とCEOのJoel Sercel氏が技術的詳細を説明している。軌道上デブリは秒速約5マイルで移動し、高性能ライフル弾の約10倍の速度である。TransAstra社によると、デブリの再利用施設への移送は軌道離脱と比べてコストが6分の1、推進剤消費が80%減、軌道清掃が40%高速になる。

Capture Bagはコーヒーカップサイズから10,000トンの小惑星まで対応し、両分野の市場規模は2030年までに年間10億ドル以上と見込まれる。

Northrop Grumman社の次回NASA商業補給ミッションは2025年9月14日午後6時11分(米東部標準時)にケープカナベラル・スペース・フォース基地から打ち上げ予定である。

From: 文献リンクBagging Space Junk: TransAstra’s Inflatable Tech Takes Aim at Orbital Debris

【編集部解説】

TransAstra社のCapture Bagシステムについて、宇宙デブリ除去技術の専門的視点から解説いたします。

このプロジェクトが注目される背景には、現在の軌道環境の深刻な状況があります。ESAの2024年宇宙環境報告書によると、追跡されている軌道上物体は35,000個に達し、そのうち約34,000個がデブリで、10cm以上の物体が約26,000個です。さらに重要なのは、1cm以上の破片が100万個以上存在することで、これらは衛星に致命的な損傷を与える可能性があります。

特に問題となっているのが、高度500-600kmの低軌道帯域です。現在、全活動衛星の3分の2にあたる6,000機以上がこの高度に集中しており、衛星は年間約30回の接近遭遇に直面しています。この状況は「ケスラー症候群」と呼ばれる連鎖的衝突リスクを高めており、NASA科学者ドナルド・ケスラーが1978年に提唱したこの理論は、現在現実的な脅威となっています。

TransAstra社のCapture Bagの技術的革新性は、従来のロボットアーム方式と比較して明確です。膨張式構造により、回転する不規則な形状の物体も捕獲可能で、制御の簡素化とコスト削減を実現しています。元記事によると、軌道上デブリは秒速約5マイル(約8km)で移動し、高性能ライフル弾(秒速約0.5マイル)の約10倍の速度に達します。わずか0.85グラム程度の破片でも非常に危険とされています。

同社の試算では、デブリを軌道離脱させる代わりに再利用施設へ移送することで、コストを6分の1に削減し、推進剤使用量を80%削減できるとしています。

市場的観点から見ると、宇宙デブリ除去技術市場は急成長している分野です。2024年の市場規模は約10.5億ドルで、2033年までに20億ドルに達すると予測されており、年平均成長率は7.8-9.7%とされています。TransAstra社が見込む年間10億ドル超の市場規模は、デブリ除去と小惑星採掘の両分野を合わせた2030年時点での推定値です。

技術面での課題として、微小重力環境でのバッグの挙動予測があります。地上テストでは重力の影響を完全に除去できないため、ISSでの実証実験が不可欠です。今回の実験結果は、将来の商業運用における成功確率を大きく左右する重要なマイルストーンとなるでしょう。

潜在的なリスクとしては、捕獲作業中の予期しない相互作用や、バッグシステム自体がデブリ化する可能性が考えられます。また、現在の国際宇宙法では、他国の宇宙物体を除去する際の法的責任や補償に関する明確な枠組みが不十分な点も課題として残されています。

長期的には、このような技術の成熟により、軌道の持続可能な利用が可能となり、将来の大規模宇宙開発の基盤が築かれることが期待されます。特に小惑星採掘への応用は、宇宙資源利用という新たな経済圏の創出につながる可能性を秘めています。

【用語解説】

微小重力環境:重力が地球の100万分の1程度になる状態。物体が自由落下している状況で生じ、ISSでは地球周回軌道により実現される。

軌道離脱(デオービット):人工衛星や宇宙ごみを地球大気圏に再突入させ、燃焼・消滅させる処理方法。従来のデブリ処理の主流手法である。

ケスラー症候群:1978年にNASA科学者ドナルド・ケスラーが提唱した理論。宇宙ごみ同士の衝突が連鎖反応を起こし、軌道環境が使用不能になる現象を指す。

低軌道(LEO):地表から高度2,000km以下の軌道領域。現在多くの衛星やISSが運用されており、宇宙ごみが集中している問題領域でもある。

墓場軌道:運用終了した衛星を移動させる高高度軌道。地球から36,000km離れた静止軌道より数百km高い位置に設定される。

Mini Bee Capture Bag (MBCB):TransAstra社が開発中の小型版捕獲バッグ。直径10cm程度のデブリから大型物体まで対応可能にスケール設計されている。

【参考リンク】

TransAstra Corporation(外部)
宇宙物流と小惑星資源開発技術を手がける航空宇宙スタートアップ企業の公式サイト

ISS National Laboratory(外部)
国際宇宙ステーション上の国立研究所。NASA以外の機関による宇宙研究を支援

Voyager Technologies Bishop Airlock(外部)
ISS初の商業エアロック施設。従来エアロックの5倍の容積を提供している

【参考動画】

【参考記事】

ESA Space Environment Report 2024(外部)
追跡されている軌道上物体35,000個、10cm以上のデブリ26,000個などの最新統計データを提供

Space Debris and Kessler Syndrome: Mitigating the Risks of Spaceflight(外部)
ケスラー症候群の詳細解説と宇宙飛行リスク軽減策。1cm以上の破片100万個以上の存在について言及

NASA SBIR Award: Mini Bee Capture Bag for Active Debris Remediation(外部)
TransAstra社が2023年にNASAから獲得した849,318ドルの研究開発契約詳細

TransAstra Space Debris Removal Technology Overview(外部)
Mini Bee Capture Bagの商業開発状況とSutter望遠鏡システムによるデブリ探知技術について詳述

【編集部後記】

宇宙デブリ除去技術の進歩を見ていると、まさに私たちが「宇宙時代」の転換点にいることを実感します。TransAstra社のCapture Bagのような技術が実用化されれば、これまで手をつけることができなかった軌道上のごみを「資源」として活用する道が開けるかもしれません。

興味深いのは、同じ宇宙デブリ除去分野でも、先日当サイトで取り上げたアストロスケール社の磁気ドッキング技術と、今回のTransAstra社の膨張式バッグ技術が、全く異なるアプローチを採用していることです。アストロスケール社が実際のH-IIAロケット上段デブリに15メートルまで接近した実績を持つ一方で、TransAstra社は「何でも捕まえる」万能性を追求しています。この技術的多様性こそが、複雑化する宇宙環境問題に対する解決策の幅を広げているのではないでしょうか。

みなさんは、宇宙ごみが実は私たちの日常生活に密接に関わっていることをご存じでしょうか?GPS、天気予報、インターネット通信など、現代社会を支える衛星サービスがデブリ衝突により影響を受ける可能性があります。日本発とアメリカ発、それぞれの技術革新が、将来の宇宙利用にどのような変化をもたらすのか、一緒に考えてみませんか?

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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