オハイオ州立大学がNASAの支援を受けて開発した遠心核熱ロケット(CNTR)が火星への移動時間を大幅に短縮する可能性を示している。
この新しい核推進システムは液体ウラン燃料を使用してロケット推進剤を直接加熱し、従来の核推進方法の2倍の効率を実現する。
CNTRは火星への往復時間を420日未満に短縮できるとされる。化学エンジンの比推力が450秒であるのに対し、CNTRは1800秒を達成する。推進剤としてアンモニア、メタン、プロパン、ヒドラジンなど複数の選択肢を使用できる柔軟性を持つ。
PhD学生のスペンサー・クリスチャンがプロトタイプ構築を主導し、研究者ディーン・ワンが技術成熟の重要性を指摘している。システムの安定した始動と停止、ウラン燃料損失の最小化などの技術的課題が残る。
研究チームは5年以内の完全運用設計完成を目指している。
From: NASA’s New Nuclear Propulsion System Could Get Us to Mars in Just 6 Months!
【編集部解説】
今回発表されたオハイオ州立大学の遠心核熱ロケット(CNTR)は、単なる推進技術の改良を超えた革新的な概念です。従来の核熱推進が固体燃料を使用していたのに対し、CNTRは液体ウラン燃料を採用することで効率を2倍に向上させました。
この技術の核心は比推力の圧倒的な向上にあります。現在の化学ロケットが450秒の比推力に留まる中、CNTRは1800秒を実現する可能性を示しています。これは単純計算で4倍の効率向上を意味し、同じ燃料でより長距離の移動が可能になります。
特に注目すべきは推進剤の多様性です。アンモニア、メタン、プロパン、ヒドラジンといった複数の選択肢を持つことで、宇宙空間での燃料調達という新たな可能性が開けます。小惑星や他の天体から資源を採取して燃料として活用できれば、地球からの補給に依存しない長期ミッションが実現するでしょう。
一方で、核技術を宇宙で使用することの安全性やリスク管理は慎重な検討が必要です。打ち上げ時の事故リスクや軌道上での核燃料管理など、従来の化学推進では存在しなかった課題があります。
技術的な実現性については、5年以内の完全運用設計完成という目標設定から、まだ基礎研究段階にあることが伺えます。ウラン燃料の損失最小化や安定した運転制御など、克服すべき工学的課題は数多く残されているのが現実です。
しかし成功すれば、火星探査だけでなく外惑星への有人ミッションも視野に入ってきます。現在9ヶ月を要する火星への片道旅行が3ヶ月程度まで短縮されれば、宇宙飛行士の健康リスクは大幅に軽減されるでしょう。
【用語解説】
核熱推進(Nuclear Thermal Propulsion): 核反応で発生する熱エネルギーを利用して推進剤を加熱し、ノズルから噴射して推力を得る推進方式である。化学推進に比べて高い比推力を実現できる。
比推力(Specific Impulse): ロケットエンジンの効率を示す指標で、単位重量の推進剤で得られる推力の持続時間を表す。秒で表され、数値が高いほど燃料効率が良い。
CNTR(Centrifugal Nuclear Thermal Rocket): オハイオ州立大学が開発中の遠心核熱ロケット技術。液体ウラン燃料を使用し、遠心力を利用して効率的な核熱推進を実現する新しいコンセプトである。
カイパーベルト: 海王星軌道の外側に位置する、小天体が密集している領域。冥王星もこの領域に含まれ、太陽系形成初期の物質が保存されていると考えられている。
【参考リンク】
オハイオ州立大学(外部)
米国オハイオ州コロンバスに本部を置く州立大学。工学部や航空宇宙工学分野で高い研究実績を持つ
NASA(アメリカ航空宇宙局)(外部)
米国の宇宙開発を担う政府機関。火星探査や深宇宙ミッションを推進している
ScienceDirect(外部)
エルゼビア社が運営する科学技術文献データベース。核推進技術に関する学術論文を収録
【編集部後記】
核推進技術による火星への6ヶ月到達というニュースを目にして、どのように感じられたでしょうか。私自身、デザイナーとして「美しい未来」を描く仕事をしていますが、この技術が実現する宇宙への扉は、まさに人類の新しいキャンバスのように思えます。
みなさんは、もし火星への旅行時間が大幅に短縮されたら、宇宙での暮らしや働き方はどう変化すると思われますか?また、この技術が他の分野にもたらす革新について、ご自身の専門領域ではどんな応用が考えられるでしょうか。ぜひSNSで教えていただければと思います。