日本のはやぶさ2探査機の次のターゲット小惑星1998 KY26について、新たな測定により当初の推定より大幅に小さく、回転も速いことが判明した。
欧州南天天文台(ESO)がチリのアタカマ砂漠にある超大型望遠鏡(VLT)と世界各地の天文台のデータに基づいて観測結果を発表した。小惑星の大きさは当初推定の30メートルから11メートルに修正され、回転周期も10分から5分に短縮された。
はやぶさ2は2018年に小惑星162173リュウグウから物質を採取し、2020年に地球へ帰還した後、延長ミッションとして1998 KY26への旅を開始した。2031年に到達予定である。途中で小惑星98943トリフネの高速フライバイも予定されている。ランデブー計画にはタンタル弾の発射なども検討されているが、新発見により計画修正が必要となる可能性がある。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測は2028年まで実行困難とされる。
この研究はスペインのアリカンテ大学の天文学者トニ・サンタナ・ロス氏が主導し、ネイチャー・コミュニケーションズ誌に論文が掲載された。
From: Hayabusa2’s next asteroid isn’t much bigger than the probe
【編集部解説】
はやぶさ2の延長ミッションは、小惑星探査技術の新たな地平を切り開こうとしています。今回の発見は、宇宙探査における測定精度の重要性を改めて浮き彫りにしました。
地上からの観測技術の限界が明らかになった一方で、チリのアタカマ砂漠にある超大型望遠鏡をはじめとする国際的な観測網の連携により、これほど小さな天体の詳細な特性を把握できたことは技術的な進歩といえるでしょう。
小惑星1998 KY26の実際のサイズが11メートルということは、探査機自体とほぼ同じ大きさの天体へのランデブーという前例のない挑戦になります。これまでの小惑星探査では、ターゲットは探査機よりもはるかに大きな天体でした。
5分という高速回転は、探査機の接近と着陸をより困難にします。重力が極めて弱い小天体において、この回転速度は表面物質の飛散や探査機の制御に大きな影響を与える可能性があります。
この発見は惑星防衛の観点からも重要な意味を持ちます。2013年にロシアのチェリャビンスク上空で爆発した隕石(約17メートル)よりは小さいものの、地球に衝突すれば深刻な被害をもたらし得る天体を詳細に観測できることは、将来的な地球接近天体の脅威評価能力の向上につながります。
技術的な挑戦が増した一方で、2031年の到達まで約6年間の準備期間があることは幸いです。JAXAのエンジニアたちは、タンタル弾による表面観測計画の見直しや、新たな接近手順の検討を進めることになるでしょう。
小惑星採鉱への応用可能性も示唆されており、将来の宇宙資源利用において重要な技術実証の場となる可能性があります。
【用語解説】
はやぶさ2
日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した小惑星探査機。2014年に打ち上げられ、小惑星リュウグウからサンプルを採取して2020年に地球へ帰還した。
1998 KY26
地球近傍小惑星の一つ。1998年に発見されたアポロ群小惑星で、直径約11メートルの小さな天体。はやぶさ2の延長ミッションのターゲット。
98943トリフネ
はやぶさ2が1998 KY26へ向かう途中で高速フライバイを行う予定の小惑星。探査機の固定カメラは高速通過での観測用に設計されていない。
超大型望遠鏡(VLT)
チリのアタカマ砂漠にある欧州南天天文台の大型光学望遠鏡システム。4台の8.2メートル望遠鏡から構成される。
タンタル弾
はやぶさ2が小惑星表面に発射する予定の金属製弾丸。表面物質を舞い上がらせてサンプル採取や表面観測を行うために使用される。
惑星防衛
地球に衝突する可能性のある小惑星や彗星などの天体を監視し、必要に応じて軌道変更や破壊を行う概念。
【参考リンク】
JAXA(宇宙航空研究開発機構)(外部)
日本の宇宙開発を担う国立研究開発法人。はやぶさ2プロジェクトを主導している組織である。
欧州南天天文台(ESO)(外部)
ヨーロッパ16カ国が参加する天文学研究機関。チリに世界最先端の天文台を運営し、今回の小惑星観測を実施した。
Nature Communications(外部)
ネイチャー・ポートフォリオが発行する査読付きオープンアクセス科学誌。今回の研究成果が掲載された学術誌である。
【参考記事】
NASA Planetary Defense Coordination Office(外部)
NASAの惑星防衛調整室の公式サイト。地球近傍小惑星の監視と防衛技術について詳細な情報を提供している。
NASA JPL Asteroid Watch(外部)
NASAジェット推進研究所による小惑星監視プログラム。地球近傍天体の発見と追跡技術の最新情報を提供している。
【編集部後記】
はやぶさ2が直面するこの予想外の挑戦を見ていると、宇宙探査の醍醐味を感じませんか?当初の計画から大きく変わってしまった小惑星の姿は、私たちがまだ宇宙について知らないことがいかに多いかを物語っています。
探査機とほぼ同じサイズの天体へのランデブーという前例のないミッションが、6年後にどのような結果をもたらすのでしょうか。また、この技術進歩が将来の小惑星採鉱や地球防衛にどう活かされるか、皆さんはどうお考えでしょうか?宇宙開発の最前線で起きているこうした挑戦について、ぜひ一緒に見守っていきましょう。