中国研究チームが月面で41の地すべりを発見、月震が原因と判明|将来の月基地計画に影響

[更新]2025年9月25日07:26

中国研究チームが月面で41の地すべりを発見、月震が原因と判明|将来の月基地計画に影響 - innovaTopia - (イノベトピア)

中山大学、福州大学、上海師範大学の中国研究チームが、2009年以降に月面で形成された41の新しい地すべりを発見したとNational Science Review誌で発表した。

研究チームは500組以上の衛星画像を分析し、地質学的に不安定な74地域の前後比較を行った。地すべりの主要原因は隕石衝突ではなく、月内部から発生する月震であることが判明した。新しい地すべりの30%未満のみが可視的な衝突クレーターと関連していた。地すべりの多くは24度から42度の傾斜で発生し、東部イムブリウム海に集中している。月は水分がないため地震波が遠くまで伝わり、数時間続くことがある。

中国は2035年までに月南極付近に恒久的研究ステーションを建設予定で、2028~2029年打ち上げ予定の嫦娥8号ミッションには月の内部活動監視用地震計を搭載する計画である。

From: 文献リンクA Chinese Team Has Found Evidence Of 41 Landslides Unfolding On The Moon Itself

【編集部解説】

この研究は月探査における従来の常識を根本から覆す発見と言えるでしょう。これまで月は「地質学的に死んだ天体」とされ、数十億年前から変化のない静的な存在として扱われてきました。しかし今回の中国チームによる発見は、月が現在進行形で活動している動的な天体である可能性を示しています。

特に注目すべきは、地すべりの原因が外部からの隕石衝突ではなく、月内部から発生する月震である点です。これは月の内部構造が我々の想像以上に複雑で、未だに熱エネルギーを保持していることを意味します。アポロ計画時代から月震の存在は知られていましたが、それが実際に地表の地形変化を引き起こしているという広範囲かつ新しい証拠が得られたのは大きな成果といえます。

この発見が持つ最も重大な影響は、将来の月面基地建設計画への直接的な影響でしょう。中国が2035年に建設予定の月面研究ステーションをはじめ、各国が計画する月面施設の立地選定において、地質学的安定性の評価が不可欠となります。24度から42度の傾斜地で地すべりが頻発するという事実は、月面建築における新たな安全基準の策定を促すことになるはずです。

また、月の水分不足による地震波の長時間継続という特性も重要な要素です。地球では水分が地震波を吸収しますが、月では数時間にわたって振動が続くため、月面構造物の耐震設計には地球とは全く異なるアプローチが求められるでしょう。

長期的な視点で見ると、この研究は惑星科学全体に新たな知見をもたらします。月の内部活動メカニズムの解明は、他の天体の地質学的進化過程の理解にも貢献し、太陽系形成史の再構築につながる可能性があります。2029年の嫦娥8号による詳細な地震観測データは、この分野の研究を大きく前進させることが期待されます。

【用語解説】

月震(Moonquake)
月の内部で発生する地震活動。地球の地震と異なり、月には水分がないため地震波が長時間継続し、数時間にわたって振動が続くことがある。

イムブリウム海(Mare Imbrium)
月の表側にある巨大な平原状の地域。約39億年前の巨大隕石衝突によって形成されたとされる月の海の一つで、複雑な地質構造を持つ。

嫦娥計画(Chang’e Program)
中国の月探査計画。2007年から継続されており、嫦娥8号は2028~2029年に打ち上げ予定で、月面での長期観測とサンプルリターンを目的とする。

National Science Review
中国科学院が発行する多分野にわたる科学ジャーナル。2014年創刊で、中国発の重要な科学研究成果を国際的に発信している。

【参考リンク】

中山大学(Sun Yat-sen University)(外部)
中国広東省広州市に本部を置く総合大学で、宇宙科学や地球科学分野での研究が盛ん

中国国家航天局(外部)
中国の宇宙開発を統括する政府機関で、嫦娥計画などの月探査を推進

【参考記事】

Chinese team finds lunar landslides taking place, triggered by moonquakes(外部)
研究論文を掲載した学術誌を監督する機関に近い、香港の大手メディアによる詳細な報道。研究チームの所属や論文の核心に触れており、一次情報に最も近い内容と言えます。

Chinese Scientists Discover Moonquakes Triggering Landslides On Lunar Body(外部)
インドの主要メディアによる同内容の記事。41箇所の新たな地滑りの発見を報じ、月震が数時間続く可能性など、地球の地震との違いも解説しており、国際的な関心の高さがうかがえます。

The Shaking Moon: Moonquake Triggered Landslides and Boulder Falls(外部)
アポロ計画で得られたデータから、過去に月震が地滑りを引き起こしたことを分析したスミソニアン博物館の研究記事。今回の発見の科学的な背景を深く理解するのに役立ちます。

Humanoid robot may fly on China’s Chang’e 8 moon mission in 2028(外部)
中国の次期月探査計画「嫦娥8号」に関する記事。このミッションには、今回の研究で重要性が示された月震をさらに詳しく調査するための地震計が搭載される予定であることがわかります。

【編集部後記】

月が「死んだ天体」ではなく、今この瞬間も変化し続けているという発見は、私たちの宇宙観を根本から見直すきっかけになりそうです。特に興味深いのは、将来の月面基地建設において地質学的安定性が重要な要素となることです。

皆さんは、もし月面に住むとしたら、どのような場所を選びますか?また、月の内部活動が解明されることで、他の惑星や衛星の理解も深まる可能性があります。火星移住計画なども現実味を帯びる中、天体の地質学的特性を理解することの重要性について、一緒に考えてみませんか?宇宙開発の未来について、皆さんの思いもお聞かせください。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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