宇宙が製造拠点に:ISS半導体実験Ekran-M始動、超薄型材料生成の可能性探る

[更新]2025年10月20日08:37

宇宙が製造拠点に:ISS半導体実験Ekran-M始動、超薄型材料生成の可能性探る - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年10月16日、ロシアの宇宙飛行士セルゲイ・リジコフとアレクセイ・ズブリツキーが国際宇宙ステーション(ISS)外で6時間以上の船外活動を実施した。

主な任務は先端半導体材料実験装置「Ekran-M」をNauka多目的実験モジュールに設置することであった。この実験装置は微小重力環境を活用し、地球上では重力の制約により製造が困難な超薄型半導体材料の生成を目指している。

リジコフは欧州ロボットアーム(ERA)を使用して装置を運搬し、電源ケーブルと交換可能なカセットを接続した。また、ズブリツキーは不要になった180ポンド(約82kg)のHDTVカメラを宇宙空間へ投棄した。このカメラは大気圏再突入時に燃え尽きる。

今回はズブリツキーにとって初の船外活動、リジコフには2回目の船外活動となった。

From: 文献リンクRussian Cosmonauts Successfully Install Semiconductor Experiment During Spacewalk Outside the ISS

【編集部解説】

今回のミッションで注目すべきは、宇宙空間が「製造拠点」として機能し始めている点です。地上では重力が常に材料に作用するため、原子レベルで均一な超薄型半導体の製造には限界がありました。Ekran-M実験装置はこの物理的制約を回避し、次世代エレクトロニクスに不可欠な新材料の可能性を探ります。

微小重力環境での半導体製造は理論上、結晶構造の欠陥を減らし、より高性能なチップの開発につながります。これは量子コンピューティングや高速通信デバイスなど、地上技術の限界を超える製品開発への道を開くでしょう。宇宙での材料科学実験は、単なる研究ではなく将来の産業基盤を築く試みと言えます。

一方、180ポンドのカメラ投棄は計画的なデブリ管理の一例です。大気圏で完全燃焼する軌道に投入されるため、スペースデブリ問題を悪化させることはありません。ISSでは定期的にこうした機材更新が行われ、老朽化した設備を安全に処分しながら最新技術を導入しています。

この船外活動はロスコスモスとNASAの協力関係が継続していることを示す一例と言えます。政治的緊張が続く中でも、ISSでの科学協力は継続されており、宇宙開発における国際連携の重要性を改めて示しました。欧州ロボットアーム(ERA)の活用も、多国籍技術の統合による効率的なオペレーションの実現例と言えるでしょう。

【用語解説】

微小重力環境
宇宙ステーションのような軌道上の施設で体験される、ほぼ無重力に近い状態を指す。厳密にはわずかな重力が存在するため「微小重力」と呼ばれる。この環境では物質の挙動が地上と異なり、結晶成長や材料製造に独特の特性が現れる。

Nauka多目的実験モジュール
2021年7月にISSのロシア区画に追加された実験モジュールである。科学実験用の設備や宇宙飛行士の居住スペース、ロボットアームのドッキングポートなどを備えている。

欧州ロボットアーム(ERA)
欧州宇宙機関(ESA)が開発した11メートルの多関節ロボットアームである。ISSのロシア区画に設置され、船外活動の支援や機器の移動、精密作業を行う。両端にグラップル装置を持ち、ステーション外を「歩く」ように移動できる特徴がある。

【参考リンク】

NASA – International Space Station(外部)
NASAの公式ISS情報ページ。ミッション詳細、ライブ映像、船外活動のスケジュールなど国際宇宙ステーションに関する最新情報を提供

Roscosmos State Corporation(外部)
ロシア連邦宇宙局の公式サイト。ロシアの宇宙開発プログラム、宇宙飛行士の活動、ISS関連の最新ニュースを発信している

European Space Agency – European Robotic Arm(外部)
ESAによる欧州ロボットアームの詳細ページ。技術仕様、運用方法、ISSでの活用事例などが解説されている

【参考記事】

Russian cosmonauts install semiconductor experiment, jettison old HDTV camera during spacewalk outside ISS(外部)
宇宙専門ニュースサイト「space.com」による、今回の船外活動に関する詳細なレポート。

Russian cosmonauts complete first 2025 spacewalk(外部)
半導体実験装置「Ekran-M」や最新の宇宙服「Orlan-MKS」に関する詳細情報。

Russia, US extend joint ISS flights to 2025: Roscosmos(外部)
記事のテーマである国際協力の背景となる、ロシアとアメリカによるISS共同飛行の2025年までの延長合意。

【編集部後記】

宇宙が「工場」になる時代が、もう目の前まで来ているのかもしれません。地球の重力という制約から解放された環境で作られる半導体は、私たちが手にするスマートフォンやコンピューターの性能を根本から変える可能性を秘めています。

皆さんは、宇宙で製造された部品が組み込まれた製品を使ってみたいと思いますか?それとも、地上技術の進化で十分だと感じるでしょうか。製造拠点としての宇宙利用について、ぜひご意見をお聞かせください。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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