ユナイテッド航空機に「スペースデブリ」衝突か―高度36,000フィートで謎の物体がフロントガラス損傷、NTSBが調査

ユナイテッド航空機に「宇宙ゴミ」衝突か―高度36,000フィートで謎の物体がフロントガラス損傷、NTSBが調査 - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年10月16日木曜日、デンバーからロサンゼルスへ向かうユナイテッド航空の737 MAX機がユタ州上空の高度約36,000フィート付近を飛行中、フロントガラスに正体不明の物体が衝突した。

衝突により窓の右上部付近に著しいひび割れが生じ、パイロットの腕には小さなガラスの破片による複数の切り傷が発生した。機体はソルトレイクシティ国際空港に進路を変更し安全に着陸した。

機長は物体を「スペースデブリ(宇宙ゴミ)」と表現したと報じられているが、正体は未確認である。国家運輸安全委員会は10月19日に調査開始を確認し、レーダー、気象、フライトレコーダーのデータを収集中である。フロントガラスはNTSBの研究所に送られ検査が行われる。

学術誌Geologyの研究によると年間約17,000個の隕石が地球に落下しており、スペースデブリよりも隕石である可能性が高いとされる。

From: 文献リンクSomething from “space” may have just struck a United Airlines flight over Utah

Photo NOT confirmed Hearing there were scorch-marks, so space-debris or meteorite. THOSE ARE TWO THEORIES

JonNYC (@xjonnyc.bsky.social) 2025-10-17T18:39:04.745Z

【編集部解説】

今回の事案は、商用航空の安全性に関わる極めて稀有なケースです。高度36,000フィート(約11,000メートル)という巡航高度で飛行中の旅客機に何らかの物体が衝突し、コックピットのフロントガラスを損傷させたという事実そのものが、航空史においても特筆すべき出来事と言えます。

最も注目すべき点は、物体の正体が依然として不明である点です。機長は物体を「スペースデブリ」と表現したと報じられていますが、NTSBの科学的調査が完了するまで断定できません。この高度では鳥類の飛行は極めて限定的であり、世界最高高度を飛ぶリュッペルハゲワシでさえアフリカ大陸に生息する種です。気象観測用気球や雹の可能性も指摘されていますが、窓の損傷パターンから判断すると相当な運動エネルギーを持った物体であったことは間違いありません。

一方で、宇宙由来の物体である可能性も排除できません。学術誌Geologyの研究データによれば、年間約17,000個の隕石が地球に落下しており、これは大気圏再突入時に燃え尽きずに地表まで到達する人工衛星やロケットの破片よりも1桁以上多い数値です。つまり統計的には、隕石である可能性の方が高いと考えられます。

この事案が航空業界に投げかける問いは重要です。宇宙空間の混雑化が進む現代において、低軌道上の人工衛星やスペースデブリは増加の一途を辿っています。SpaceXのStarlinkをはじめとする大規模衛星コンステレーションの展開により、今後さらにスペースデブリのリスクは高まる可能性があります。

ただし、仮に今回の物体が宇宙由来であったとしても、その確率は極めて低いものです。2023年のFAA報告書によれば、年間に世界で少なくとも1機の航空機にスペースデブリが衝突する確率は、およそ0.007%とされています。

毎日世界中で数万便のフライトが運航されていますが、このような事案は極めて稀です。とはいえ、NTSBによるガラスと金属フレームの科学的分析により、物体の組成や起源が明らかになれば、将来的な航空安全基準やリスク評価の見直しにつながる可能性もあります。

幸いにも今回は多層構造のフロントガラスが完全破損を防ぎ、機内の気圧も維持されました。パイロットは軽傷を負ったものの、航空機は安全に緊急着陸を果たしています。この事実は、現代の航空機設計がいかに堅牢であるかを示す事例とも言えるでしょう。

【用語解説】

NTSB(国家運輸安全委員会)
National Transportation Safety Boardの略称で、アメリカ合衆国における航空、鉄道、道路、海上、パイプラインなどあらゆる輸送分野の事故調査を行う独立した連邦政府機関である。事故原因の究明と安全性向上のための勧告を行う権限を持つ。

737 MAX
ボーイング社が製造する単通路型ジェット旅客機737シリーズの最新世代機である。燃費効率の向上を目的に開発され、MAX 7、MAX 8、MAX 9、MAX 10の4つのバリエーションが存在する。2018年と2019年に2度の墜落事故を起こし、世界的な運航停止措置を受けた後、安全性の改善を経て運航を再開している。

スペースデブリ(宇宙ゴミ)
地球軌道上に存在する、運用を終えた人工衛星、ロケットの破片、衛星同士の衝突で発生した破片など、機能を失った人工物の総称である。秒速数キロメートルという高速で周回しており、運用中の衛星や国際宇宙ステーションに衝突したり、大気圏内に突入してくるリスクがある。

巡航高度
旅客機が長距離飛行において最も効率的に飛行できる高度である。一般的にジェット旅客機は30,000~40,000フィート(約9,000~12,000メートル)の高度で巡航する。この高度では空気抵抗が少なく燃費が良い。

リュッペルハゲワシ
アフリカに生息する大型の猛禽類で、世界で最も高い高度を飛ぶ鳥として知られている。1973年に西アフリカ上空11,300メートル(37,000フィート)で航空機と衝突した記録があり、これが鳥類の飛行高度の最高記録とされている。

FAA(連邦航空局)
Federal Aviation Administrationの略称で、アメリカ合衆国運輸省に属し、民間航空の安全規制、航空管制、航空機の認証などを担当する連邦機関である。

【参考リンク】

Boeing(ボーイング社)公式サイト(外部)
737 MAXシリーズをはじめとする民間航空機や軍用機、宇宙機器を製造する世界最大級の航空宇宙企業の公式サイト

NTSB(国家運輸安全委員会)公式サイト(外部)
航空事故をはじめとするあらゆる輸送事故の調査を行う連邦機関。事故報告書や安全勧告、調査の進捗状況を公開

United Airlines(ユナイテッド航空)公式サイト(外部)
アメリカ最大手の航空会社の一つでシカゴに本社を置く。世界中に広範な路線網を持つスターアライアンスの創設メンバー

NASA Orbital Debris Program Office(外部)
NASAのスペースデブリ研究プログラムの公式サイト。地球軌道上のデブリ追跡、衝突リスク評価、軽減技術の研究を実施

【参考記事】

United Airlines 737 MAX carrying 140 passengers to LAX diverts(外部)
140名の乗客を乗せた便であったこと、高度36,000フィートから26,000フィートまで降下したことなどを詳細に報じている

Possible Meteorite Strikes United 737; Injures Pilot(外部)
隕石衝突が航空史上初となる可能性、737のコックピットフロントガラスの多層構造の詳細などを専門的に分析している

United flight diverts due to crack in one layer of the windshield(外部)
CBS Newsによる報道。デンバーからロサンゼルスへ向かう便がソルトレイクシティに緊急着陸した経緯を報じている

Did Space Debris Hit A United Flight Over The Rockies Thursday?(外部)
航空業界専門メディアによる詳細な分析記事。スペースデブリの可能性について検証し、雹、鳥類、気象観測用気球など他の原因候補を挙げている

The spatial flux of Earth’s meteorite falls – Geology(外部)
地球に落下する隕石の年間数を約17,000個と推定した学術誌Geology掲載の研究論文。科学的データに基づく分析を提供

Risk Associated with Reentry Disposal of Satellites from Proposed Large Constellations(外部)
FAAによる、大規模衛星群の衛星の再突入廃棄に伴うリスクについて、議会に提出された報告書。

【編集部後記】

今回の事案は、私たちが日常的に利用する航空機の安全性について改めて考えるきっかけになるかもしれません。高度1万メートル以上の空で、予期せぬ物体との遭遇が起こりうるという事実は、宇宙と地球の境界がいかに曖昧なものであるかを示しています。

みなさんは、夜空を見上げたときに流れ星を見たことがあるでしょうか。あれは大気圏に突入した小さな隕石が燃え尽きる瞬間です。年間17,000個もの隕石が地球に降り注いでいるという事実を知ると、私たちの頭上の空間がいかにダイナミックであるかを実感できます。

一方で、人類が打ち上げた衛星やロケットの残骸も増え続けています。SpaceXのStarlinkのような大規模衛星コンステレーションの時代において、宇宙空間の交通整理はこれまで以上に重要な課題となっています。ただし、2023年のFAA報告書によれば、スペースデブリによって乗客が負傷する確率は1兆分の1以下という極めて低い数値です。今後、このような事案がどのように航空安全基準に影響を与えていくのか、一緒に注目していきませんか。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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