レモン彗星とスワン彗星が今週相次いで地球に最接近する。スワン彗星は10月20日(月曜日)、レモン彗星は10月21日(火曜日)にそれぞれ地球へ最も近づく。
レモン彗星は現在4.5等級に達しており、これはプレセペ星団(M44、約3.7等級)やアンドロメダ銀河(M31、約3.4等級)よりも暗い明るさである。非常に暗い空では肉眼で見える可能性があるが、5.9等級のスワン彗星の観測には双眼鏡が必要となるだろう。
観測は日没から約1時間半後が最適で、レモン彗星は西~北西の空、北斗七星とアークトゥルスの近くに見える。一方、スワン彗星は南西の空、夏の大三角形の中のアルタイルと地平線の間に見える。
レモン彗星は11月8日に太陽へ最も近づく「近日点」を通過する。もともとは約1350年の周期で太陽を公転していたが、他の惑星の重力などの影響で周期が約200年短縮され、次回は約1150年後に戻ると予測されている。スワン彗星は公転周期が約2万年におよぶ長周期彗星で、10月20日の最接近時には地球から約2400万マイル(3900万キロメートル)の距離まで近づく。
【編集部解説】
今回の彗星接近は、天文学的に珍しい現象です。2つの無関係な彗星が24時間の間隔で地球に最接近するタイミングは偶然の産物であり、しかも両方が双眼鏡または肉眼で観測可能な明るさに達している点が注目されています。
レモン彗星の元の公転周期は約1350年で、前回の接近は西暦675年頃、日本では飛鳥時代に相当します。ただし、この周期自体が他の惑星の重力影響を受ける前の軌道に基づく計算であり、実際の前回接近時期には誤差を含む可能性があります。記事にあるとおり、重力による摂動(軌道の乱れ)によって周期が約200年短縮されたため、次回の回帰は約1150年後の3175年頃となる計算です。
一方、スワン彗星の2万年周期は、人類の文明史をはるかに超えるスケールです。前回の接近は最終氷期の終わり頃、人類がまだ狩猟採集生活を送っていた時代にあたります。
観測技術の進化により、これらの彗星は発見された2025年1月(レモン彗星)と9月(スワン彗星)の時点で、数ヶ月先の明るさと軌道を高精度に予測できるようになりました。アマチュア天文家でもデジタルカメラと三脚があれば、長時間露光によって彗星の尾や色彩まで捉えられます。
ただし、明るさ4.5等級という数値は、都市部の明るい空では肉眼観測がほぼ不可能なレベルです。プレセペ星団(約3.7等級)と比較されることもありますが、レモン彗星の方が暗く、また、星団のように広がった天体と彗星のような点光源に近い天体では視認性が異なるため、実際の観測条件は場所に大きく左右されます。
今夜から数日間が観測の好機となりますが、低空での観測となるため、西の地平線まで開けた場所の選定が成功の鍵となるでしょう。
【用語解説】
等級(Magnitude)
天体の明るさを表す単位。数値が小さいほど明るく、1等級差で約2.5倍の明るさの違いがある。肉眼で見える限界は通常6等級程度だが、都市部の光害下では3〜4等級が限界となる。
長周期彗星(Long-period Comet)
太陽の周りを200年以上かけて公転する彗星。多くは太陽系外縁のオールトの雲から来ると考えられており、軌道周期が数千年から数万年に及ぶものも多い。
摂動(Perturbation)
天体が他の天体の重力によって軌道が乱される現象。彗星は、他の巨大惑星の重力などによって軌道周期や軌道形状が大きく変化することがある。
近日点(Perihelion)
天体が太陽に最も近づく軌道上の点。彗星は近日点通過時に太陽熱により最も活発に活動し、明るくなる傾向がある。
プレセペ星団(M44 / Beehive Cluster)
かに座にある散開星団で、肉眼でもぼんやりと見える。約4等級の明るさを持ち、双眼鏡では個々の星が確認できる。
夏の大三角形(Summer Triangle)
こと座のベガ、はくちょう座のデネブ、わし座のアルタイルの3つの明るい星で形成される星の配置。北半球の夏から秋にかけて観測しやすい。
【参考リンク】
The Sky Live(外部)
彗星や小惑星のリアルタイム位置情報、明るさ、軌道データを提供する天文観測支援サイト
In-The-Sky.org(外部)
天文現象のカレンダーと観測ガイドを提供する総合天文情報サイト
Stellarium Web(外部)
ブラウザ上で動作する無料のプラネタリウムソフト。任意の日時・場所での星空を再現可能
SpaceWeather.com(外部)
太陽活動、オーロラ、彗星、流星群などの最新情報を提供する宇宙天気情報サイト
NASA Astronomy Picture of the Day(外部)
NASAが毎日1枚の天文写真を解説付きで公開するサイト。レモン彗星も掲載
【参考記事】
How to find Comet Lemmon in the night sky as it brightens this October(外部)
Space.comによるレモン彗星の観測ガイド。10月21日の地球最接近時に明るさ約5.7等級に達すると報告
Comet C/2025 A6 (Lemmon): Complete Information & Live Data(外部)
The Sky Liveによるレモン彗星の総合データページ。リアルタイムの明るさと位置データを提供
New comet Lemmon could shine bright enough to be seen with the naked eye this October(外部)
Space.comによる予測記事。レモン彗星が10月に肉眼等級に達する可能性を報道
Comet C/2025 A6 (Lemmon) reaches peak brightness(外部)
In-The-Sky.orgによる観測情報。地平高度と方位角のデータを時刻ごとに提供
【編集部後記】
今夜は一生に一度の奇跡と呼べる日です。都市部の明かりから少し離れた場所へ足を運んでみませんか?双眼鏡があれば観測の成功率は格段に上がります。天文アプリで位置を確認しながら、西の地平線が開けた場所で日没後1時間半ほど空を見上げてみてください。雲に阻まれても今週いっぱいは観測チャンスが続きます。皆さんはこの稀な機会をどう過ごされますか?