スペースデブリ検出技術が進化|ミシガン大学の電波追跡とAstroscaleのデブリ除去実証

[更新]2025年10月28日08:12

スペースデブリ検出技術が進化|ミシガン大学の電波追跡とAstroscaleのデブリ除去実証 - innovaTopia - (イノベトピア)

地上に落下した燃え盛る残骸上空1万メートルで旅客機を襲った謎の物体――。先週報じた一連の事件は、宇宙のゴミ「スペースデブリ」の問題が、もはや対岸の火事ではないことを我々に突きつけました。

今回は、これまで追跡不可能だった無数の微小デブリを監視する画期的な新技術と、「宇宙の掃除屋」が危険なデブリに肉薄した歴史的ミッション。問題解決の鍵を握る2つのブレークスルーについて紹介します。


ミシガン大学の工学者たちがスペースデブリ問題の解決に取り組んでいる。地球周回軌道には12,000基以上の現役衛星と大量のデブリが存在し、NASAは2025年前半に毎月約20,000件の衝突警告を受けており、これは2020年から4倍の増加である。

2024年12月、ミシガン大学の研究チームは米海軍研究所のNIKEレーザー施設で、2番鉛筆の芯の幅の約200分の1のスペースジャンクを検出する技術の実験室テストを実施した。ニルトン・レンノ教授が率いるチームは、56本の紫外線レーザービームを使用して小さなアルミニウムの発射体を時速22,000マイルで発射し、デブリ衝突時に放出される電波信号の検出に成功した。

ミシガン大学卒業生が共同で率いる東京のAstroscaleは、2025年2月に完了したADRAS-Jミッションで、2009年から宇宙を転がっている日本のロケット本体に49フィートの距離まで接近し、デブリ除去技術を実証した。

From: 文献リンクFrontier no more? – Michigan Engineering News

【編集部解説】

宇宙は今、かつてないほど「渋滞」しています。この記事が示すのは、単なる宇宙開発の成功物語ではなく、人類が自ら作り出した危機への対応策です。

ケスラー・シンドロームという言葉をご存知でしょうか。1978年にNASAの科学者ドナルド・ケスラーが提唱した理論で、軌道上のデブリ密度が臨界点に達すると、衝突が連鎖反応を起こし、特定の軌道が永久に使用不可能になるという恐ろしいシナリオです。

欧州宇宙機関の2025年報告書によれば、仮に今すぐすべての新規打ち上げを停止したとしても、既存の物体同士の衝突により、軌道上の物体総数は200年以上増え続けると警告されています。

この問題の深刻さは数字が物語っています。NASAが2025年前半に受けた衝突警告は月間約20,000件。これは2020年の4倍です。Starlinkだけで40,000基以上の衛星打ち上げを計画しており、中国やAmazonも巨大コンステレーションを構築中です。

ミシガン大学の研究が画期的なのは、従来追跡不可能だった微小デブリの検出に道を開いた点にあります。現行システムではソフトボールより小さいデブリ――全体の99.97%以上――を追跡できません。ESAの推計では、検出不可能な微小デブリが1億4100万個以上も存在します。

レンノ教授のチームが開発した電波信号検出技術は、火星の砂嵐研究から着想を得ています。デブリが衝突する際に発生する電磁パルスを地上の電波望遠鏡で捉えるというアプローチは、既存のインフラを活用できる点で実用性が高いでしょう。2024年12月の実験では、コンピューターシミュレーションと一致する電波信号を検出しており、次のステップはNASAのディープスペースネットワークやグリーンバンク電波天文台のデータから実際の衝突信号を探すことになります。

一方、SWORDセンターが取り組む宇宙天候予測の改善も見逃せません。地磁気嵐が発生すると、上層大気の密度変化により衛星軌道が大きく乱れます。2003年10月の太陽嵐では、衛星事業者が数日間にわたり大半の衛星を見失いました。現在の予測システムは3日先までしか予測できず、物理シミュレーションに基づいていないため偽陽性が多発し、事業者を混乱させています。

SWORDが目指すのは、ミシガン大学開発の宇宙天候モデリングフレームワーク(SWMF)とNOAA・コロラド大学開発のWAM-IPEモデルを統合し、太陽から大気圏までの一貫したシミュレーションを実現することです。このシステムは2028年までに完成予定で、地上の気象予報のように7日先まで精度の高い予測が可能になるとされています。

デブリ除去の分野では、ミシガン大学卒業生が共同で率いるAstroscaleの技術実証が注目に値します。ADRAS-Jミッションでは、時速17,000マイル以上で飛行し回転している制御不能なロケット本体に、49フィート(約15メートル)まで接近し、その動きに同期することに成功しました。これは世界初の快挙です。

しかし技術だけでは問題は解決しません。国連宇宙局は25年以内の軌道離脱を要求していますが、法的拘束力がないため、過去10年間で実際に軌道離脱を試みたのは20〜75%に過ぎず、成功例はさらに少ないのが現実です。

トム・バーガー博士が「これを正しく行うには10年未満」と警告するように、時間は限られています。GPS、通信、気象観測など、現代社会を支える衛星インフラを守るため、追跡技術の向上、予測精度の改善、能動的なデブリ除去、そして国際的な規制強化が一体となって進められなければなりません。宇宙はもはや無限のフロンティアではなく、慎重な管理が必要な有限の資源なのです。

【用語解説】

ケスラー・シンドローム(Kessler Syndrome)
1978年にNASAの科学者ドナルド・ケスラーが提唱した理論。軌道上のデブリ密度が臨界点に達すると、衝突が連鎖反応を起こし、デブリが指数関数的に増加する現象を指す。最悪の場合、特定の軌道帯が数十年から数百年にわたって使用不可能になる可能性がある。

地磁気嵐(Geomagnetic Storm)
太陽から放出された大量のプラズマが地球の磁気圏に衝突することで発生する現象。上層大気の密度が急激に変化し、衛星軌道が予測困難になる。通信障害や送電網への影響も引き起こす。

衛星コンステレーション(Satellite Constellation)
特定の目的のために協調して動作する複数の衛星群。Starlinkのようなブロードバンドインターネットサービスでは、数千から数万基の衛星を配置して地球全体をカバーする。

【参考リンク】

Astroscale Holdings Inc.(外部)
東京に本社を置く軌道上サービス企業。デブリ除去、衛星の寿命延長、検査サービスを提供している。

NASA SWORD Space Weather Center(外部)
コロラド大学主導のNASA資金提供宇宙天候研究センター。2028年完成を目指して次世代予測モデルを開発中。

ミシガン大学 気候・宇宙科学工学部(外部)
スペースデブリ検出技術や宇宙天候モデリングフレームワーク(SWMF)を開発している研究機関。

ESA Space Debris Office – 統計データ(外部)
欧州宇宙機関のスペースデブリ統計ページ。軌道上の物体数、デブリの分布、衝突リスクなどの最新データを公開。

NOAA Space Weather Prediction Center – WAM-IPE(外部)
米国海洋大気庁が運用する全大気モデル。地球大気と低地球軌道の相互作用を予測し、衛星軌道予測に使用。

【参考動画】

【参考記事】

Astroscale aced the world’s first rendezvous with a piece of space junk(外部)
AstroscaleのADRAS-Jミッションが2025年2月に世界初の制御不能デブリへの接近に成功したことを報じている。

ESA Space Environment Report 2025(外部)
ESAが発表した2025年宇宙環境報告書の主要データを解説。軌道上の追跡物体が40,000個に達したことを報告。

New SWORD Center Will Lay Groundwork for Better Space Weather Forecasts(外部)
ミシガン大学によるSWORDセンター設立のニュース。2022年2月の地磁気嵐で数十基の衛星が失われた事例を挙げている。

Why ‘Kessler Syndrome’ could turn from a hypothetical to a reality(外部)
ケスラー・シンドロームが仮説から現実になりつつあることを警告する記事。レンノ教授のコメントを引用している。

ESA Warns Of Escalating Space Debris Risk In 2025 Report(外部)
ESAの2025年報告書の詳細データを伝えている。衛星の破壊が年間10.5回の割合で発生していることを報告。

ESA’s 2025 Report and What It Means for Your Business(外部)
ESAの2025年報告書をビジネスの観点から分析。低地球軌道での25年ルール遵守率が40〜70%に留まっていることを詳述。

【編集部後記】

先週報じた地上への落下物や旅客機への衝突疑惑。こうしたニュースに触れると、スペースデブリはもはやSF映画の中だけの話ではないと実感します。私たちが当たり前のように享受しているGPSや気象予報といった宇宙インフラは、この「静かなる危機」と常に隣り合わせなのです。

今回の記事で紹介したミシガン大学やAstroscaleの取り組みは、その危機に対して人類がいかにして立ち向かおうとしているかを示す力強い一歩です。彼らの挑戦は、宇宙がもはや無限のフロンティアではなく、私たち自身が責任を持って管理すべき「有限の資源」であることを教えてくれます。

あなたの頭上、何百キロも先で繰り広げられているこの壮大な挑戦について、少しだけ思いを馳せてみませんか。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

読み込み中…
advertisements
読み込み中…