将来宇宙輸送システム株式会社(ISC、本社:東京都中央区、代表取締役社長 畑田康二郎)は、株式会社日本旅行(本社:東京都港区、代表取締役社長 吉田圭吾)と宇宙旅行サービスの商用化フェーズに向けた新たな業務提携契約を締結した。
両社は2024年9月に「誰もが行ける宇宙旅行事業の実現を目指した業務提携」を締結しており、今回はその共同検討を経た次の段階となる。
提携では、日本旅行を総代理店として宇宙旅行サービスの商品化を進め、2026年度中にSPACE Tour 2.0(地球上2地点間を60分以内で結ぶ宇宙経由の移動)およびSPACE Tour 3.0(軌道上での滞在)の申込受付開始を目指す。
また、SPACE Tour 1.0として地上での宇宙体験や教育プログラムの開発、次世代型宇宙食の実証、機内UXのデザインなどに取り組む。ISCは輸送機開発の助言・監修を、日本旅行は顧客体験・商品開発・販売などの旅行サービス要件定義を担当する。
From:
将来宇宙輸送システム株式会社、株式会社日本旅行と「宇宙旅行サービスの商用化フェーズに向けた業務提携契約」を締結
【編集部解説】
今回の提携が注目される理由は、日本発の宇宙旅行ビジネスが「構想」から「実装」のフェーズへと明確に移行した点にあります。ISCが描く宇宙旅行は、単なる富裕層向けのエンターテインメントではなく、3段階のロードマップによって段階的に市場を拡大していく戦略を採用しています。
特に注目すべきは「SPACE Tour 2.0」と呼ばれるコンセプトです。これは地球上の2地点間を60分以内で結ぶ、いわば”宇宙経由の移動手段”であり、2030年代の実現を目標としています。東京とロサンゼルス間を60分で結ぶという構想は、国際線の飛行時間を10分の1以下に短縮する革新的な輸送モードといえるでしょう。
このような「ポイント・トゥ・ポイント輸送」は、海外ではTitans Spaceplaneが2032年以降、10万〜14.9万ドルでのサービス開始を計画するという企業もあり、複数の企業が参入を目指している領域です。ISCと日本旅行の提携は、日本がこの次世代輸送市場に本格的に参入する意思表示と捉えることができます。
日本旅行が総代理店として関与することで、従来の宇宙旅行サービスにはなかった「旅行商品」としての設計が可能になります。宇宙食の体験プログラムや教育連携、地域観光振興といった要素を組み込むことで、宇宙旅行を「特別な体験」から「社会とつながる体験」へと転換しようとしています。
技術面では、ISCは「宇宙往還を可能とする輸送システムの実現」を掲げており、再使用型ロケット「ASCA」の開発を進めています。SPACE Tour 2.0では「ASCA 2」、3.0では完全再使用型「ASCA 3」を使用する構想で、再使用回数の増加により将来的なコスト削減が期待されています。
一方で、サブオービタル飛行による高速輸送には、安全性の確保、国際的な航空法規制の整備、発着拠点となる宇宙港の建設など、解決すべき課題も多く残されています。2026年度中に申込受付を開始するとしていますが、SPACE Tour 2.0の価格は1人あたり1億円程度を想定しており、より広い層へのアクセシビリティの実現には時間が必要でしょう。
【用語解説】
宇宙往還(うちゅうおうかん)
地球と宇宙空間を繰り返し行き来すること。使い捨てロケットと異なり、同じ機体を何度も使用できる再使用型ロケットの実現によって、コスト削減と運航頻度の向上が期待される。
サブオービタル飛行(軌道下飛行)
地球の周回軌道には入らず、宇宙空間(高度約100km以上)に到達した後すぐに地球へ戻ってくる飛行形態。オービタル(軌道)飛行と比べて短時間で、数分間の無重力体験が可能となる。
ポイント・トゥ・ポイント輸送
宇宙空間を経由して地球上の2地点間を高速で結ぶ次世代輸送手段。従来の航空機による国際線と比べて飛行時間を大幅に短縮できる可能性がある。
ASCA(アスカ)
ISCが開発中の再使用型ロケットシリーズ。ASCA 2は2030年代のポイント・トゥ・ポイント輸送用、ASCA 3は2040年代の軌道上滞在用として構想されている。2028年からの運用開始を目指している。
カーマン・ライン
高度100kmに位置する、国際的に認められた宇宙空間の境界線。この高度を超えると宇宙に到達したとみなされる。
【参考リンク】
将来宇宙輸送システム株式会社(ISC)公式サイト(外部)
再使用型ロケット「ASCA」を開発し、宇宙往還を可能とする輸送システムの実現を目指す日本のスタートアップ企業。2022年5月設立
日本旅行 宙ツーリズム専門ブランド「sola旅クラブ」(外部)
1905年創業の日本旅行が展開する宇宙事業。星のソムリエが案内する体験型プログラムや将来の宇宙旅行商品の開発を手掛ける
日本旅行 GALAXY PROJECT(法人向け宇宙事業)(外部)
日本旅行が手掛ける法人向けの宇宙促進事業。教育プログラムや地域活性化における宇宙事業への取り組みを推進している
【参考記事】
宇宙旅行を商用化フェーズへ 2026年度に申込受付開始(Travel Vision)(外部)
日本旅行とISCの提携について最も詳細に報じた記事。SPACE Tour 1.0は2026年開始、2.0は2030年代、3.0は2040年代という具体的なタイムラインと価格情報を掲載
東京とロサンゼルス間を60分以内で輸送へ–2030年代の実現を目指す(外部)
ISCと日本旅行の業務提携について、東京とロサンゼルス間を60分以内で結ぶ構想を含め、2030年代の実現を目指していることを報道
将来宇宙輸送、「2040年代宇宙の旅」1億円で 日本旅行と商用化へ(外部)
日本経済新聞による報道。2040年代の宇宙旅行を1人あたり1億円程度で提供する計画について触れ、商用化フェーズへの移行を詳報
将来宇宙輸送システム株式会社、株式会社日本旅行と業務提携(2024年9月)(外部)
2024年9月の初回業務提携時のプレスリリース。今回の商用化フェーズ契約の前段階となる提携の内容と背景が記載されている
Ultra-Fast Travel | Sub-Orbital Space Travel (Titans Space)(外部)
海外企業Titans Spaceplaneが2032年以降、10万〜14.9万ドルでのポイント・トゥ・ポイント輸送サービス開始を計画
Understanding Suborbital Space Travel(外部)
サブオービタル飛行の技術的な仕組み、オービタル飛行との違い、現在サービスを提供している企業について詳細に解説
【編集部後記】
宇宙旅行と聞くと「まだまだ先のこと」と感じる方も多いかもしれません。でも、2026年度中の申込受付開始という具体的なスケジュールが示された今、これは想像以上に近い未来の話です。
みなさんは、どんな「宇宙体験」に興味がありますか?東京とロサンゼルスを60分で結ぶ移動手段として使いたいのか、それとも軌道上で地球を眺める体験をしたいのか。あるいは、まずは地上での宇宙食体験から始めてみるのも一つの選択肢です。私たちが生きている間に、宇宙旅行が「特別な人だけのもの」から「選択肢の一つ」になる瞬間を、一緒に見届けられるかもしれませんね。
























