国際宇宙ステーション(ISS)は2025年11月2日に継続的人類占有25周年を迎えたが、2030年代初頭にデオービット(軌道離脱)される予定である。
NASAとそのパートナーは、SpaceXが新たに開発するDragonベースの専用デオービット機体(USDV)を使用して、ISSを太平洋のポイント・ネモ上に落下させる。
ポイント・ネモは座標48°52.6′S 123°23.6′Wに位置し、最も近い陸地から約2,688キロメートル離れた「宇宙機墓地」である。
この遠隔性により、落下する破片が人命やインフラに危害を加えるリスクを最小化できる。NASAエンジニアは、ISSの破壊が3段階で発生することを予想しており、太陽電池パネルとラジエーターの分離、モジュールとトラス・セグメントの分離、個別モジュールの破砕が続く。
ハードウェアのほとんどは大気圏再突入時に燃焼・気化するが、トラス・セクションなどの耐熱成分は生き残り、無人海域に落下する。ロシアはMirを2001年3月にポイント・ネモ近くでデオービットした。
NASAはSkylabを1979年7月にインド洋でデオービットしようとしたが失敗し、破片がオーストラリア西部に落下した。ISSは全長約109メートル、質量約420トンで、Mir(130トン)を上回る。
From:
Meet Point Nemo, where the International Space Station will die in 2030
【編集部解説】
ISSの終焉は、単なる一つの宇宙機の軌道離脱にとどまりません。これは人類の宇宙活動が転換期を迎えていることを象徴する出来事であり、今後の宇宙利用のあり方を左右する重要なマイルストーンなのです。
実は、このニュースの背景には深い戦略的な考慮が隠されています。ISSは1998年の初号機打ち上げから25年以上にわたり、NASAをはじめロシア、欧州宇宙機関(ESA)、日本(JAXA)、カナダなど15ヶ国が参加する国際協力の象徴として機能してきました。しかし、老朽化と維持費の急増が直面する現実です。NASAがSpaceXにデオービット・ビークルの開発を指示した決定には、次世代へのバトンタッチという意図があります。
ポイント・ネモへの落下が選定されたのは、単なる「人目につかない場所」だからではありません。座標48°52.6′S 123°23.6′Wに位置するこの地点は、最も近い陸地まで約2,688キロメートル離れており、地球上で最も人間活動から隔絶された場所です。過去数十年間に数百の宇宙機がここに誘導されてきた実績があり、その経験則がISSの安全なデオービットを可能にしています。
デオービットの仕組みは極めて精密です。NASAから開発委託を受けたSpaceXの専用機体「米国デオービット機体(USDV)」は、通常のDragon貨物カプセル(Dracoスラスタ16基)を大幅に上回る46基のDracoスラスタを搭載し、ISSの巨大な質量を徐々に軌道低下させ、大気圏への再突入速度を制御するための鍵となります 。
再突入時の破壊シーケンスは3段階で進行します。最初に太陽電池パネルとラジエーターが分離され、次にモジュールとトラス・セグメントが破砕され、最終段階で個別モジュールが細分化します。大気との摩擦熱により、ハードウェアのほとんどは焼却・気化しますが、トラス・セクションなどの耐熱部品は生き残り、無人海域に落下する見込みです。
過去の事例から学ぶべき教訓があります。2001年3月、ロシアのMir(130トン)がポイント・ネモで制御されたデオービットに成功しましたが、1979年7月のNASA Skylab事案は異なります。Skylabはインド洋でのデオービットを試みたものの制御に失敗し、焼け焦げた破片がオーストラリア西部に散乱してしまいました。エスペランサという町はNASAに宇宙からのゴミ捨てとして400ドルの罰金を科したという歴史的出来事があります。このMir成功例があるからこそ、ISSのデオービットは技術的実現可能性が高いと判断できるのです。
現在、地球低軌道(LEO)は加速度的に混雑化しています。衛星群の増加、商業スペースステーションの構想、宇宙旅行機の台頭により、宇宙デブリの問題はますます深刻化しつつあります。ISSの計画的デオービットは、責任ある宇宙活動のモデルケースとなり、将来の大型宇宙構造物の廃棄基準を確立するものとなるでしょう。
同時に、ISSの退役は商業宇宙ステーション時代への移行を意味しています。Axiom Space、Sierra Space、Blue Originなどが次世代ステーション開発を進めており、2030年代にはこれらが軌道上で機能することが期待されています。人類の宇宙活動は国家主導から民間主導へ、そして公的資産から商業資産へと進化していくのです。
ISSのデオービットは技術的な課題ではなく、地政学的・経済的・環境的意味合いを持つ転換点なのです。未来の宇宙社会を構想するうえで、この2030年という年号が一つの象徴的タイムポイントとなることは間違いありません。
【用語解説】
デオービット(Deorbit)
宇宙機が軌道から離脱し、地球に戻すための操作のこと。推進システムを使用して軌道速度を減速させ、大気圏への再突入を引き起こす。
スラスタ(Thruster)
宇宙機の姿勢制御や軌道変更に用いる小型推進エンジン。SpaceXのDragonには通常16個のDracoスラスタが装備されており、各スラスタは真空中で約90ニュートンの推力を生成する。
大気圏再突入(Atmospheric Reentry)
宇宙機が地球の大気圏に突入する際、空気抵抗による摩擦熱で高温に加熱される現象。多くの物質は焼却・気化するが、密度の高い耐熱部品は生き残る可能性がある。
トラス構造(Truss Structure)
ISSで太陽電池パネルやラジエーターを支える骨組み。ISSのトラス全長は約109メートルで、他のモジュールより耐熱性が高く、再突入時に破片として生き残りやすい。
低地球軌道(LEO: Low Earth Orbit)
地表から約160~2,000キロメートルの高さの軌道。ISSは約400キロメートルで周回しており、商用衛星の大部分もこの領域で運用されている。
スペースデブリ
人工衛星やロケットの残骸など、軌道上を漂う不要な物体。衝突時の高速度により危険性が高く、将来の宇宙活動に大きな課題となっている。
【参考リンク】
NASA – International Space Station(外部)
国際宇宙ステーションの公式情報、運用状況、科学ミッション、デオービット計画などの最新情報を提供する総合サイト
SpaceX – Dragon Spacecraft(外部)
SpaceXのDragon宇宙機の仕様、搭載推進システム、貨物・乗員輸送能力を詳細に解説する公式ページ
NASA – ISS Transition Plan FAQ(外部)
ISSデオービット・ビークルの設計仕様、再突入シーケンス、安全対策などの詳細FAQを公開
NOAA – Point Nemo(外部)
米国国立海洋大気庁による、ポイント・ネモの地理的座標、歴史、宇宙機墓地としての役割に関する公式説明
Axiom Space(外部)
民間の商業スペースステーション開発企業。ISSモジュール追加から独立ステーション構想まで次世代宇宙利用を推進
Orbital Reef – Blue Origin & Sierra Space(外部)
Blue OriginとSierra Space共同開発の商業スペースステーション公式サイト。2030年代運用開始予定
【参考記事】
NASA – 20 Years Ago: Space Station Mir Reenters Earth’s Atmosphere(外部)
2001年3月のMirデオービット詳細。130トン質量、多段階軌道離脱プロセス、制御再突入の成功例として参照価値が高い
NASA – 45 Years Ago: Skylab Reenters Earth’s Atmosphere(外部)
1979年7月のSkylab再突入事案。インド洋とオーストラリア西部への予期しない落下、制御失敗の歴史的背景を解説
NASA – International Space Station Facts and Figures(外部)
ISS公式仕様データ。質量約420トン、全長58.5メートル、トラス全長109メートル、太陽電池パネル出力など詳細情報
Orbital Reef – Commercial Space Station Development(外部)
Blue OriginとSierra Space共同プロジェクト。2030年代前半のオペレーション開始予定、民間主導の次世代戦略を解説
NASA – Commercial LEO Destinations Program(外部)
NASAの民間宇宙ステーション選定プログラム。Axiom Space、Blue Origin、Sierra Spaceへの支援、2030年代移行戦略
【編集部後記】
ISSが消えるとき、新しい軌道上の時代が始まります。あなたの暮らしに直結する医療やテクノロジーの多くが、実はこの無重力実験室で生まれています。
2030年という区切りは、未来の宇宙利用を誰が主導するのかを決める分水嶺。商業企業が主役となる時代に、私たちは何を期待し、何を問うべきか。もし空を見上げて、ISSが肉眼で見える最後の数年間を過ごすことになるのなら、その明るい光の先に、どんな未来があるのかを一緒に考えてみませんか。
























