恒星間天体3I/ATLAS、285万km超のジェット観測で自然起源確率1億分の1──12月の分光観測で決着か

 - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年11月9日、天文学者が恒星間天体3I/ATLASから太陽方向へ95万キロメートル、反対方向へ285万キロメートルに及ぶジェットを観測した。ハーバード大学のAvi Loeb教授の分析によると、この天体は月あたり500億トンの質量を損失しており、天体自体の推定質量330億トンに匹敵する。3I/ATLASの質量は初の恒星間天体1I/Oumuamuaの100万倍に達し、このサイズの天体が10年間の調査期間内に検出される確率は0.0005パーセントである。

さらに黄道面から5度以内の逆行軌道という特性を組み合わせると、自然発生の確率は1億分の1となる。12月19日の地球最接近時にハッブルとウェッブ宇宙望遠鏡による分光観測が実施され、ジェットが自然な昇華によるものか、技術的推進システムによるものかが判明する予定である。

From: 文献リンクInterstellar Object 3I/ATLAS Displays Jets Spanning 2.85 Million Kilometers, Defies Statistical Probability of Natural Origin

【編集部解説】

今回の観測が示す最大の謎は、3I/ATLASの物理的挙動が従来の天体力学モデルから大きく逸脱している点です。自然な彗星の場合、太陽からの距離3億2600万キロメートル地点でのガス放出速度は秒速0.4キロメートル程度ですが、観測されたジェット構造を維持するには、周囲の太陽風よりも100万倍高い質量密度が必要となります。これは化学ロケットの排気速度(秒速3〜5キロメートル)やion thruster(イオンスラスター)(秒速10〜50キロメートル)の性能と一致する範囲であり、Loeb教授が人工的起源の可能性を排除できない理由となっています。

統計的異常性も注目に値します。星間空間から10キロメートル級の天体が飛来する確率は、標準的な質量分布モデルでは1万年に1回程度と予測されていますが、わずか10年間の観測期間で3番目の恒星間天体として検出されました。さらに黄道面から5度以内という軌道配置は、ランダムな軌道ではわずか0.2パーセントの確率でしか発生しません。これらの特性が偶然重なる確率は1億分の1となり、科学界に議論を巻き起こしています。

12月19日の地球最接近時に実施される分光観測は、この謎を解く決定的な機会となるでしょう。ハッブル宇宙望遠鏡とジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測で、ジェットの化学組成と速度プロファイルが明らかになれば、自然な昇華プロセスと人工的推進システムを明確に区別できます。ウェッブ宇宙望遠鏡は既に3I/ATLASが通常の太陽系彗星と比較して異常に高い二酸化炭素濃度を示すことを確認しており、今後の詳細な分析が待たれます。

この発見は、地球外知的生命体探査(SETI)の方法論にも影響を与える可能性があります。従来のSETIは電波信号の受信に重点を置いてきましたが、3I/ATLASのケースは、星間航行技術を持つ文明の痕跡が物理的な物体として観測される可能性を示唆しています。一方で、Loeb教授自身も認めているように、最も可能性の高い説明は自然起源の彗星であり、性急な結論は科学的厳密性を損なうリスクがあります。

【用語解説】

3I/ATLAS
2025年に発見された3番目の恒星間天体。推定質量330億トン、直径10キロメートル級で、黄道面から5度以内の逆行軌道を持つ。

1I/Oumuamua
2017年に発見された史上初の確認済み恒星間天体。葉巻型または円盤状の形状を持ち、3I/ATLASの100万分の1の質量と推定される。

collimated jet(コリメートジェット)
天体から放出される物質が平行に束ねられた状態で進む現象。3I/ATLASでは285万キロメートルにわたって構造を保っている。

ram pressure(ラム圧)
流体中を物体が移動する際に前面に生じる圧力。速度の2乗に比例し、ジェット構造の安定性を評価する指標となる。

spectroscopic observations(分光観測)
天体からの光を波長ごとに分解して分析する観測手法。化学組成や温度、速度などを測定できる。

sublimation(昇華)
固体が液体を経ずに直接気体になる現象。彗星が太陽に近づくと氷が昇華してガスとコーマを形成する。

ion thruster(イオンスラスター)
電気的に荷電させたイオンを高速で噴射する推進装置。秒速10〜50キロメートルの排気速度を実現できる。

逆行軌道
太陽系の惑星の公転方向とは逆向きに太陽を周回する軌道。恒星間天体の約半数が逆行軌道を持つと予測される。

黄道面
地球の公転軌道が作る平面。太陽系の主要天体はこの面から数度以内に分布するため、黄道面近くの軌道は統計的に稀。

Juno宇宙船
NASAの木星探査機。2011年に打ち上げられ、2016年から木星周回軌道で観測を継続している。

【参考リンク】

Harvard & Smithsonian Center for Astrophysics(外部)
Avi Loeb教授の研究論文や恒星間天体に関する最新の分析結果を公開している権威ある天体物理学研究機関。

NASA Juno Mission(外部)
木星探査ミッション公式サイト。2026年3月に3I/ATLASの近傍を通過する予定のJuno宇宙船の軌道情報を提供。

ESA Juice Mission(外部)
欧州宇宙機関の木星氷衛星探査計画。3I/ATLASから6400万キロメートルの距離を維持しているJuice宇宙船の現在位置を公開。

Hubble Space Telescope(外部)
ハッブル宇宙望遠鏡の公式サイト。2025年12月の3I/ATLAS分光観測を予定。過去の観測画像とデータアーカイブも公開中。

James Webb Space Telescope(外部)
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の公式サイト。赤外線観測により3I/ATLASの化学組成分析を実施予定。高解像度分光データを公開。

【参考記事】

3I Atlas with tail 9th Nov — British Astronomical Association(外部)
天文学者Michael Buechner氏とFrank Niebling氏による2025年11月9日の3I/ATLAS観測データ。尾状のジェット構造を捉えた画像と詳細な観測記録が公開されており、科学的裏付けのある一次観測情報として参考になる。

First Radio Signal from 3I/ATLAS — Avi Loeb(外部)
Avi Loeb教授がMedium上で発表した、3I/ATLASからの最初のラジオ信号の検出と水酸基分子(OH)による吸収の分析。この発見は恒星間天体の物理的・化学的特性解明に貢献する重要な研究論文です。

【編集部後記】

12月19日の最接近まで残り1ヶ月余り。3I/ATLASをめぐる科学界の議論は、確率論の妥当性から観測精度の解釈まで多岐にわたります。Brian Cox教授は「完全に自然な天体」と断言し、Penn State大学の研究者はLoeb教授の統計手法に疑問を呈していますが、非重力加速や色の変化といった新たな観測事実も次々と報告されています。ウェッブ宇宙望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡が何を明らかにするのか。あるいは、この論争自体が恒星間天体研究の新しい方法論を生み出すきっかけになるのでしょうか。科学的厳密性と大胆な仮説のバランスをどう取るべきか、考えさせられる事例です。

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。 デジタルエンターテインメントの未来形がいかに人間の認知と感情に働きかけるかを分析し、テクノロジーが創造する新しい未来の可能性を追求しています。

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