9月1日【今日は何の日?】防災の日──技術は人の命と未来を守るために進化する

[更新]2025年9月1日11:38

 - innovaTopia - (イノベトピア)

102年前の記憶と新しい時代の始まり

今日、9月1日は「防災の日」です。102年前の1923年、関東大震災が首都圏に壊滅的な打撃を与えました。私たちはこの日、過去の災害の記憶を胸に刻みながら、”備える文化”を育てています。「二百十日」という暦の節目でもあり、台風シーズンへの備えにつながっています。

「災害」とテクノロジーが共鳴する瞬間

災害のパターンが多様化する現代では、「忘れた頃にやってくる」という昔の言葉よりも、「予見し備える」防災が重要になっています。地震・台風・豪雨など日本特有の原体験に根差した防災活動は、都市計画やコミュニティ形成にも影響を与えてきました。関東大震災の復興計画では避難場所や街路整備など、現代の都市防災にもつながる先進性がありました。

そして、2011年の東日本大震災は私たちに新たな課題と進化を突きつけました。津波による甚大な被害、広域複合災害、原発事故——未曾有の出来事の中、リアルタイムの状況把握や情報通信の変革、そして国際的な支援体制の強化が進みました。この震災を機に、日本が世界の防災政策をリードする役割も担うようになり、国連の「仙台防災枠組2015-2030」として結実しています。

防災技術の三つのイノベーションが切り拓く未来

現在の防災テクノロジーは、三つの大きなイノベーションを経て進化しています。

予測技術の高度化では、AIと気象データの融合により、台風の進路予測精度が飛躍的に向上しました。1960年代の防災行政無線から始まり、1995年阪神・淡路大震災を機としたGPS活用、2011年東日本大震災後の緊急地震速報システム普及を経て、現在のAI統合型災害予測システムに至るまで——日本の防災テクノロジーは災害のたびに進歩を遂げてきました。従来の「経験と勘」による防災から、「科学的根拠に基づく防災」への転換が実現されています。

遠隔監視・制御システムの実用化も見逃せません。富山県では2008〜2017年度に農業用水路での死亡事故が191件発生しました。この現実に向き合い、IT・IoTを駆使した遠隔水門管理システム「paditch」を開発した技術者たちがいます。彼らの「人命を守りたい」という純粋な願いが、危険な現場に人が立ち入ることなく安全を確保する技術として結実し、農業の未来を変えようとしています。建物の耐震性を向上させる「Power Coating」技術なども、同じ思想の延長線上にある革新です。

デジタル防災教育の普及も画期的です。東京消防庁では、消火器の使い方や避難方法を学ぶデジタル教材を多言語で提供しています。VR・ARを活用した体験型の「リモート防災学習」により、ゲーム感覚で学べるコンテンツが防災知識の習得を「義務」から「興味」に変えつつあります。多言語対応により、外国人住民も含めた包括的な防災リテラシー向上を実現している点も、グローバル化した現代社会にふさわしい進歩といえるでしょう。

レジリエンス─災害から立ち直る力を科学する

東日本大震災以降、防災の世界では「レジリエンス(resilience)」という概念が重要視されています。これは単に災害を防ぐだけでなく、被災後の回復力を高める考え方です。東北大学災害科学国際研究所の「災害レジリエンス共創センター」では、「災害レジリエンス数量化」「ヒューマンレジリエンス」「災害情報キュレーション」「災害レジリエンス共創」という四つの研究領域で、科学的に「立ち直る力」を解明しようとしています。

実際の避難所運営においても、AIエージェントとマルチエージェントシミュレーションを活用することで、避難行動の予測や避難所の混雑状況をリアルタイムで分析し、効率的な救助活動に貢献するシステムが開発されています。また、要支援者の位置や移動速度をリアルタイムで監視し、最適な支援者とのマッチングを行うシステムも実用化されつつあります。

三菱総合研究所の「レジリエントライフプロジェクト」では、レジリエンスを「対処・適応・変革」の三つの能力に分類し、復興フェーズでは特に「適応」と「変革」の重要性を指摘しています。2024年5月に多摩市で開催された「令和サバイバー養成キャンプ」では、同じ自治体に暮らす市民が初めて会った人たちも含めてどう協力し避難生活を過ごせるかを学ぶ取り組みが行われ、それぞれが自分にできることを見つけることの大切さが確認されました。

国際協力が生み出す「共助のイノベーション」

東日本大震災は、災害時の国際協力の在り方も変えました。世界各国からの救助隊・義援金・物資・情報支援を受ける過程で、被災地の状況共有や支援体制をITで強化する流れが加速しました。その経験は国連の「仙台防災枠組」として結実し、日本が主導する国際防災ネットワークの発展につながっています。

災害時の国際協力は、技術・データ・ノウハウの融合によって、グローバルな命の連携を生んでいます。これは単なる支援の枠を超えて、人類共通の「災害レジリエンス」向上への取り組みとして進化しているのです。

災害との「共生」をめざして

防災の哲学は、「災害を恐れる」だけでなく、「災害と共に生きる」知恵に進化しています。これは諦めの境地ではありません。AI、IoT、デジタル通信…技術の進化と人々のつながりが、困難にあっても立ち上がる力となり、未来の安心をつくり出していきます。令和7年度の東京消防庁防災標語「いつか来る その日のために 今、防災」が示す通り、準備と連携の輪は大きく広がっています。

関東大震災から東日本大震災、そしてこれから…災害は、繰り返しながらそのたびに私たちに技術と知恵を育む機会を与えてきました。それは先人たちの犠牲の上に立ち、テクノロジーの力で次世代により安全な世界を残そうとする、壮大な人類の物語なのです。

【Information】

防災週間(8月30日〜9月5日)
政府総合防災訓練や各自治体による防災イベントが実施されます。
https://www.bousai.go.jp/

東北大学 災害科学国際研究所
東日本大震災以降、日本の防災・復興知を世界にも発信しています。
https://irides.tohoku.ac.jp/

国際防災協力枠組み「仙台防災枠組」
日本が世界の防災政策の進展をリードしています。
https://www.bousai.go.jp/kokusai/sfdr/

三菱総合研究所 レジリエントライフプロジェクト
個人レベルでの災害レジリエンス向上の研究を行っています。
https://note.mri.co.jp/

「絶望から希望へ」──KIBOTCHA(キボッチャ)が示す防災の未来

 - innovaTopia - (イノベトピア)
KIBOTCHAでは年間通して企業向けの研修プログラムも提供している

本稿でお話しした防災テクノロジーの進化、レジリエンスの重要性、そして国際協力の意義——これらすべてを一つの施設で実践している場所があります。宮城県東松島市にあるKIBOTCHA(キボッチャ)です。

KIBOTCHAは、東日本大震災の津波で被災し廃校となった旧野蒜小学校を、2018年に防災体験型宿泊施設として生まれ変わらせたものです。「希望(きぼう)」「防災(ぼうさい)」「未来(フューチャー)」を組み合わせた造語で、「これからの時代を支える子どもたちの未来に命の大切さを伝えたい」という想いから名付けられました。

この施設の素晴らしさは、エンターテインメント(遊び)と教育と防災を融合させている点にあります。子どもたちが遊べる空間に「防災」の学びを盛り込むことにより、自然に「命を守ること」の体得を目指しています。全天候型の遊具体験ゾーン、資料館、シアタールーム、語り部による震災体験談、学習ルームなど、防災について実際の体験を通じ、感じながら学ぶことができます。

実践的な防災教育プログラムも充実しています。ロープワークや担架作り、火起こし・浄水体験による炊飯、AED・心臓マッサージの実習など、自衛隊OB・OGのスキルを活かした様々な体験が用意されています。さらに大高森への登山を通じて地形を眺め、津波のメカニズムを学ぶ「実地教育」も行われています。

注目すべきは、KIBOTCHAが単なる防災施設を超えて「レジリエントなコミュニティ」の実験場となっていることです。現在、「KIBOTCHAスマートエコビレッジ」構想が進められており、災害時には1万人を受け入れ可能な避難所機能を持ちながら、平常時は持続可能な暮らしのモデルを提示する施設として発展させる計画です。

食糧・エネルギーの完全自給を目指し、パーマカルチャー農園、ソルガム農園、アクアポニックス(水耕栽培と魚介養殖の組み合わせ)、太陽光・バイオマス・風力・波力発電などを導入予定です。これはまさに、本稿で触れた「災害レジリエンス」の具現化といえるでしょう。

国際的な展開も視野に入れています。「廃校の利活用」と「スマートエコビレッジ」をパッケージ化し、全国の廃校など必要とされる場所に展開することで、災害時の相互支援ネットワークの構築を目指しています。これは、災害大国日本から世界に発信する新しい防災モデルとして注目されています。

開設から6年間で17万人以上の来場者を迎え、地域活性化にも大きく貢献しているKIBOTCHA。「なないろの芸術祭」などのイベントを通じて心の復興も支援し、多様な人々が集う豊かな場を提供し続けています。

東松島市から始まったこの取り組みは、私たちに「防災は恐怖ではなく希望」であることを教えてくれます。技術と人間の知恵、そして地域コミュニティの力が結集すれば、災害は「絶望」ではなく「新しい未来への扉」になり得るのです。

私たちに「この日」が示唆すること

防災の日は、私たちに技術の進化が「人の命を守る力」であることを改めて思い出させてくれます。

  • デジタル防災リテラシーを高める:防災アプリやSNSを活用し、情報を受けて行動する力を身につけましょう。
  • 周囲とのリスクコミュニケーション:家族・友人・地域で防災について声をかけ合うことから始めてみてください。
  • レジリエンスを意識した日常:趣味やスポーツ、文化活動など能動的な活動がレジリエンスを高めることが分かっています。日常の小さな行動が、いざという時の「立ち直る力」につながります。
  • グローバルな視点も持つ:世界で起きた災害の教訓や国際協力の動きを知り、自分たちの防災に活かしましょう。
  • 防災を「楽しい学び」に変える:KIBOTCHAのように、防災を恐怖ではなく興味深い体験として捉え直すことから始めてみませんか。

私たちは、技術と人間の知恵、そして世界中の人々とのつながりによって、災害を「乗り越えられる社会」へと進化しています。

今日という日に、未来への希望と行動の一歩を感じてみませんか?それこそが、この102年間で培われた日本の「防災力」なのかもしれません。

投稿者アバター
荒木 啓介
innovaTopiaのWebmaster

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