深海探査ロボットが暴く環境汚染 ロサンゼルス沖「ハロー・バレル」DDTではなく腐食性廃棄物

[更新]2025年9月25日07:17

深海探査ロボットが暴く環境汚染 ロサンゼルス沖「ハロー・バレル」DDTではなく腐食性廃棄物 - innovaTopia - (イノベトピア)

ロサンゼルス沖の深海で「ハロー・バレル」と呼ばれる産業廃棄物バレルが海洋生物に深刻な影響を与えている可能性が明らかになった。

LA Timesが2020年に報じた際は、最大700トン、25,000個のバレルにDDTが含まれると推測されていた。しかし、スクリプス海洋学研究所が2021年から2023年に実施した調査で、27,000以上のバレル状物体と100,000を超える残骸物体を海底で発見した。

2021年に遠隔操作深海ロボットで5個のバレルからサンプルを採取し分析した結果、DDTではなく腐食性アルカリ廃棄物が含まれていることが判明した。ヨハンナ・グートレーベンらが2025年にPNAS Nexusで発表した研究によると、3個のバレルは約12pHの極めて高いアルカリ性を示し、動物や微生物の接近を阻害している。

アメリカ環境保護庁によれば、南カリフォルニア海洋廃棄場所第2号は14の深海投棄場所に広がり、1930年代から1970年代に投棄された放射性廃棄物、製油所廃棄物、化学廃棄物、石油掘削廃棄物、軍事爆発物が含まれているとされる。

From: 文献リンクThese ‘Halo’ Barrels Around Los Angeles Might Be Destroying Aquatic Life

【編集部解説】

今回の調査結果は、深海探査技術の進歩によって初めて明らかになった環境問題の実態を示しています。従来の海洋調査では技術的限界により、深海底の詳細な状況把握は困難でした。しかし、遠隔操作深海ロボット(ROV)の高度化により、水深数千メートルの海底でも精密なサンプリングが可能となり、長年隠されていた汚染の実態が浮き彫りになっています。

特に注目すべきは、当初DDT汚染と推測されていた事案が、実際には高濃度アルカリ廃棄物による汚染だったという事実です。pH12という数値は、強力な工業用洗剤レベルの強アルカリ性を示しており、海洋生態系への影響は深刻です。海水の通常pH値は約8.1であることを考えると、この数値の異常さが理解できるでしょう。

この発見は海洋浄化技術の新たな課題を提示しています。DDT除去技術は既に確立されていますが、高濃度アルカリ廃棄物の中和・除去には異なるアプローチが必要となります。現在研究が進むバイオレメディエーション技術や、記事中で言及されたプラスチック分解菌のような生物学的解決策の応用可能性も検討されています。

規制面では、1972年のロンドン条約により海洋投棄は禁止されましたが、過去の負の遺産への対処が急務となっています。アメリカ環境保護庁の管轄下にある14の投棄サイトの完全調査と浄化には、数十年単位の時間と膨大な予算が必要と予想されます。

長期的な視点では、この事案は海洋環境モニタリングシステムの重要性を浮き彫りにしました。AIを活用した海底マッピング技術や、自律型水中ロボットによる継続的監視システムの構築が、将来の環境保護において不可欠となるでしょう。

【用語解説】

ハロー・バレル
海底の産業廃棄物バレルの周囲に形成される白い沈殿物の輪のこと。高濃度アルカリ廃棄物の漏出により生成される特徴的な現象である。

DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)
かつて広く使用された有機塩素系殺虫剤。環境汚染と生態系への悪影響により、多くの国で使用が禁止されているPOPs(残留性有機汚染物質)である。

遠隔操作深海ロボット(ROV)
ケーブルで母船と接続された無人潜水機。深海での精密作業やサンプル採取が可能で、現代の海洋調査に不可欠な技術である。

バイオレメディエーション
微生物や植物の生物学的機能を利用して環境汚染を浄化する技術。従来の物理化学的手法と比較して環境負荷が少ない特徴がある。

【参考リンク】

スクリプス海洋学研究所(外部)
カリフォルニア大学サンディエゴ校の海洋学研究機関。海洋科学、気候変動、海洋生物学の分野で世界的に権威のある研究を行っている。

アメリカ環境保護庁(EPA)(外部)
アメリカ合衆国の環境保護を担当する連邦政府機関。大気汚染、水質汚染、土壌汚染などの環境問題に対する規制と監督を行っている。

PNAS Nexus(外部)
オックスフォード大学出版局が発行する査読付き学術誌。米国科学アカデミー紀要の姉妹誌として幅広い科学分野の研究を掲載している。

【参考記事】

Decades-Old Barrels of Industrial Waste Still Impacting Ocean Floor off LA(外部)
調査を実施したスクリプス海洋研究所による公式発表です。当初DDTと疑われた投棄物が、実際には海洋生物を寄せ付けない強アルカリ性の廃棄物であったという研究成果がまとめられています。

Scientists Are Finally Learning What’s Inside Mysterious ‘Halo Barrels’ Submerged Off Los Angeles(外部)
科学ニュースサイト「Live Science」による同内容の記事。海底に広がる「ハロー」と呼ばれる白い堆積物の謎と、その原因が強アルカリ性の化学物質である可能性を分かりやすく解説しています。

Southern California Ocean Disposal Site #2 Investigation(外部)
問題の海域を管轄する米国環境保護庁(EPA)の公式ページです。1930年代から続く投棄の歴史的背景や、政府機関による現在の調査状況が記載されており、問題の全体像を把握するのに役立ちます。

【編集部後記】

今回の深海汚染問題は、私たちが普段目にすることのない海底で起きている環境危機を浮き彫りにしました。遠隔操作ロボット技術の進歩により、ようやく実態が明らかになったこの問題について、皆さんはどのように感じられたでしょうか。

特に興味深いのは、当初DDT汚染と考えられていたものが、実際には全く異なる高濃度アルカリ廃棄物だった点です。科学技術の発展が、従来の推測を覆す新たな発見をもたらすケースは他にもあるのでしょうか。また、このような海洋浄化に向けて、生物学的解決策や AI を活用したモニタリングシステムなど、どのような技術的アプローチが最も有効だと思われますか。読者のみなさんと一緒に、環境技術の未来について考えていければと思います。

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omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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