ENEOSリニューアブル・エナジーが藻場造成技術を実証|千葉県内房でブルーカーボン推進

ENEOSリニューアブル・エナジーが藻場造成技術を実証|千葉県内房でブルーカーボン推進 - innovaTopia - (イノベトピア)

ENEOSリニューアブル・エナジー株式会社(以下、ERE)は、2023年から千葉県内房で進めていた「セルロースポリマー溶液」を活用した藻場造成実証の結果を発表した。

本実証は、国立大学法人北海道大学および岡部株式会社との連携により実施された。特筆すべきは、アラメの遊走子(生殖細胞)を混合したセルロース由来のポリマー溶液を、直接海中の岩盤へ散布する独自手法だ。2024年10月、水深約3mの岩盤で施工を行い、翌2025年8月に追跡調査を実施。その結果、1平方メートルあたりのアラメ密度において、散布地点は無散布地点と比較して1.78〜6.4倍という顕著な定着効果が確認された。

周辺海域では天然のアラメも確認されているものの、ポリマー溶液による定着支援が初期成長における生存率を大幅に向上させたことがデータから示唆されている。本技術は、深刻化する「磯焼け」への対策としてだけでなく、海洋生態系によるCO₂吸収源「ブルーカーボン」の創出技術としても期待される。EREは今後、漁業資源の回復と気候変動対策の両立を目指し、社会実装に向けた検証を加速させる方針だ。

From: 文献リンクセルロースを活用した藻場造成の実証、千葉県で有効性判明

【編集部解説】

ENEOSリニューアブル・エナジーが実証した本技術の革新性は、藻場造成プロセスを「化学的アプローチ(ポリマー溶液)」によって効率化・スケーラブルにした点にあります。散布されたポリマーが接着剤と保護膜の役割を果たし、流出しやすい遊走子を岩盤に定着させることで、最大6.4倍という高密度な群落形成を実現しました。

これは従来の物理的移植や自然再生頼りの藻場造成手法に比べ、効率よく定着率を高め、成育初期での優位性を発揮できるのが本技術の大きな特徴です。藻場が増えることで磯焼けの進行抑止や貴重な海洋生物の生息環境保全、沿岸漁業資源の回復も期待されています。​

これは単に現場の漁業振興という一側面にとどまらず、ブルーカーボン(藻場や湿地など海洋生態系によるCO₂吸収)が国際的な気候変動対策の重要テーマとなった近年、地域発の気候ソリューションとしてさらに注目を集めています。今後は成長した藻場の炭素固定量データ収集と国認証への展開、CO₂クレジット創出、ブルーカーボン経済圏の構築が全国各地で進んでいく見通しです。ENEOS自身も洋上風力開発などと連動し海洋環境価値の最大化に取り組んでおり、行政・大学・民間企業が連携した実証によって制度設計やビジネスモデル化にも道が開かれています。​

ただし、生物多様性への長期的インパクト、外来種リスク、天然藻場とのバランス、増設分の持続的維持管理、コストや供給安定性、沿岸の社会的受容といった新たな課題も顕在化しています。今後は科学的なモニタリング、住民交流、教育啓発も交えながら、「藻場を増やす=未来の社会資本形成」と位置付け、多層的かつ持続可能なブルーカーボン地域づくりの推進が不可欠です。千葉の実証は国内外の気候アクションや脱炭素イノベーションをけん引する存在となりうるでしょう。

【用語解説】

セルロースポリマー溶液
植物由来のセルロースを化学的に調整した溶液。藻場造成や生態系技術に活用される。

ブルーカーボン
海洋生態系が吸収し貯蔵する炭素。温暖化対策でも注目される。

遊走子
海藻類が放出する生殖細胞で、新個体発生の起点となる。

磯焼け
海藻群落が減少し海底が露出する現象。漁場や生態系に影響大。

【参考リンク】

ENEOSリニューアブル・エナジー株式会社(外部)
再生可能エネルギー事業を展開。洋上風力や藻場造成技術にも取り組む。

国立大学法人北海道大学(外部)
海洋生態系や藻場再生研究が豊富。藻場造成実証にも参画している。

岡部株式会社(外部)
建設・海洋分野の技術企業。藻場造成に関連した製品や技術を展開。

ブルーカーボン推進プロジェクト(環境省)(外部)
日本政府のブルーカーボン政策を解説。海洋炭素吸収の事例が充実。

【参考記事】

Japanese researchers fight global warming tide with “Blue Carbon”(外部)
日本のブルーカーボン研究や藻場再生の最新事例、技術的課題を紹介した英文記事。

New Approaches to the Seaweed Processing Conundrum(外部)
藻場造成・セルロースポリマー利用など海藻活用の国際的テクノロジー動向を解説する英文記事。

Green Chemicals: Taking on the Challenge of Creating Blue Carbon(外部)
ENEOSグループのブルーカーボン技術と海洋炭素循環の新技術とデータを紹介する英文記事。

編集部後記

今回の藻場造成技術は、私たちの暮らしや未来と深くつながる新しい海の価値創造の取り組みです。藻場の回復によって、沿岸の生態系や漁業資源が守られることはもちろん、気候変動への具体的な対応策としても大きな意義があります。

地域や世代を越えた協働や技術革新が広がることで、ブルーカーボンの価値や海洋の持続的な発展が広く認識されていくはずです。身近な海の変化に目を向けたり、新しい科学技術や社会の動きに関心を持ったりするきっかけになれば幸いです。皆さんと共に、より良い未来を考えていけることを楽しみにしています。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

読み込み中…
advertisements
読み込み中…