米国のハイテク株の株価が最近数週間で下落し、差し迫った株式市場暴落への懸念が高まっている。
連邦準備制度理事会のジェローム・パウエル議長は金曜日にワイオミング州で開催されたジャクソンホール会議で講演し、インフレ上昇への懸念に加え、今後の政策や地政学的な不確実性、世界経済の減速リスクに対応する姿勢を表明した。マサチューセッツ工科大学の報告書によると、生成AIに投資している企業の95%が財務的リターンを得ていないことが明らかとなった。
ChatGPTの運営会社OpenAIのサム・アルトマンCEOは企業評価額が「狂気的だ」と警告した。通貨取引会社スイスクォートのシニアアナリスト、イペク・オズカルデスカヤ氏はアルトマンのコメントが高値銘柄の急落を引き起こしたと分析した。
週初めにデータマイニング企業パランティアの株価が約9%急落し、AIチップメーカーのエヌビディアは3%以上下落した。パランティアの株価収益率は588倍を超え、エヌビディアは56倍となっている。
From: 
Is the AI bubble about to burst – and send the stock market into freefall?
【編集部解説】
今回のAIバブル懸念を分析する際、まず注目すべきは当事者であるサム・アルトマン氏自身がバブルの存在を認めながらも、同時にOpenAIが数兆ドルの投資拡大を計画している点です。これは一見矛盾しているようですが、短期的な投機とインフラ革命という長期的視点の違いを表しています。
アルトマン氏が「投資家が一般的にAIについて過度に楽観的か？答えはイエスだ」と述べた一方で、「まさに最も重要な発展でもある」と付け加えています。これは2000年のドットコムバブルの教訓を踏まえた発言であり、実際のテクノロジーの価値と投機的な熱狂を区別する重要性を指摘しています。
現在のAI市場には明確な二面性があります。MITの報告で示された「AIに投資している企業の95%が財務的リターンを得ていない」という現実と、Microsoft CopilotやChatGPTなどが実際にオフィス業務に浸透している現実です。前者は投機的な側面を示し、後者は実用的な価値を証明しています。
パランティアの株価収益率588倍、エヌビディアの56倍という数値は確かに異常です。パランティア株は2025年に116%上昇しS&P500で最高のパフォーマンスを記録していましたが、その後6日連続で下落し17%下落しました。これらの企業が破産する可能性は低く、むしろ市場調整を経て適正な評価に収束していくと考えられます。
規制面では、EUのAI法が2025年2月から段階的に施行され始めており、これがグローバルなAI規制の先例となっています。一方、トランプ政権下での規制緩和方針は、米国企業に有利な環境を作り出す可能性があります。
長期的視点では、AIは確実に社会インフラとなっていきます。しかし、その過程で投機的な要素が洗い出され、真に価値のある企業と技術のみが生き残る調整局面を迎えるでしょう。投資家にとっては、この技術革命の本質を見極める眼力が試される時期と言えるでしょう。
【用語解説】
ジャクソンホール会議
毎年ワイオミング州ジャクソンホールで開催される中央銀行総裁の年次会議。世界の金融政策の方向性を決める重要な場として知られる。
スタグフレーション
経済成長率が低下する一方でインフレが進行する経済現象。1970年代の米国で発生し、金融政策の難しさを象徴する用語。
株価収益率（PER）
株価を1株当たり利益で割った指標。一般的に20-30倍程度が適正とされ、50倍を超えると過大評価とみなされることが多い。
【参考リンク】
Palantir Technologies（外部）
データ分析プラットフォームを提供する米国企業。政府機関や大企業向けのビッグデータ解析
NVIDIA Corporation（外部）
AIチップの世界最大手メーカー。グラフィックス処理装置からAI用半導体まで幅広く手がける
OpenAI（外部）
ChatGPTを開発・運営する人工知能研究企業。サム・アルトマンがCEOを務める
Microsoft Copilot（外部）
マイクロソフトが提供するAI搭載生産性ツール。オフィス業務の自動化や効率化を支援
EU AI Act Explorer（外部）
欧州連合のAI規制法に関する包括的な情報を提供するサイト。規制内容や企業への影響を解説
【参考記事】
OpenAI’s Sam Altman says AI market is in a bubble（外部）
OpenAIのサム・アルトマンCEOが8月18日にAI市場のバブル状態を認める発言を行った
Bubble or not, the AI backlash is validating one critic’s warnings（外部）
AI研究者のゲイリー・マーカス氏が2023年からAIバブルを警告していた予測の現実化
How AI darling Palantir became the S&P 500’s best and worst performer（外部）
パランティア株がS&P500で最高のパフォーマンス後、6日連続で17%下落した背景
Palantir Shares Plunge 9% Amid Slide In AI Stocks（外部）
パランティア株が9%下落し、エヌビディアやメタなどのAI関連株も値を下げた市場動向
【編集部後記】
パランティアなど米AI銘柄の急落は、“AIバブル”の調整として世界の株式市場を揺らしています。米国だけでなく、日本のAI・半導体関連株も2025年前半は生成AIブームの追い風で堅調でしたが、直近では海外テックの不安や米国市場全体の悪化に引きずられる形で、値動きの荒さや一時的な下落圧力が見られています。特に、米大手AI企業の下落局面で日経平均や国内AI・テクノロジー企業も一斉に売られる傾向が強まり、投資家の心理も不安定化しています。
一方、中長期で見れば、日本企業は基礎技術や社会実装力に強みを持ち、政府の支援策や経済のデジタル化に伴う新たな成長期待も根強いとの専門家分析が出ています。米国発の値動きに短期的には左右されやすい日本市場ですが、足元の調整を乗り越え、AI産業全体の健全な成長サイクルへとつなげられるかが今後のポイントです。米AIバブルの余波を受ける日本の立ち位置の変化にも、引き続き注目する必要があります。
