OpenAI「ChatGPT Shopping」始動 GPT-5 miniがAmazon・Googleと争う“AIショッピング検索”の現在地

[更新]2025年11月26日

OpenAI「ChatGPT Shopping」始動 GPT-5 miniがAmazon・Googleと争う“AIショッピング検索”の現在地 - innovaTopia - (イノベトピア)

OpenAIはGPT-5 miniを用いたショッピングモデルを公開し、2025年末まで無料かつ無制限で提供している。このモデルは公開ウェブサイトを横断的に検索し、ユーザーのテキストによる要望に沿った商品候補を提示し、ユーザー評価を反映しながら精度を高めていく設計だ。

OpenAIはAmazonやGoogleが展開するバーチャルショッピングアシスタントと競合しつつ、オンラインレビューを読み込んで「低品質」サイトを避けるディープリサーチ機能を強調している。 同社によれば、ユーザーの条件をすべて満たす商品を正しく見つけられる割合は64%で、従来のChatGPTによる37%から大きく改善した一方、完全自動の購買代行にはまだ距離がある。

インスタントチェックアウト機能は現時点で未実装であり、WalmartおよびTargetとの既存提携に加え、大手小売との契約を進めながら将来的なチャット内決済の実現を目指している。 一方で、インターネットが依然としてクローズドなプラットフォームに分断されていることから、フルオートのエージェントコマースを支える共通プロトコルや法制度の整備が、今後の焦点となりつつある。

From: 文献リンクOpenAI launches shopping assistant – Semafor

【編集部解説】

OpenAIのショッピングモデルは、「AIが検索結果を並べる」のではなく「AIがユーザーの代わりにウェブを歩き回り、候補を絞り込む」という方向への大きな一歩です。 すでにAmazonやGoogleも独自のAIショッピング体験を構築しており、どのエージェントがユーザーの“買い物の入口”になるかをめぐる競争が本格化しています。

技術的なポイントは、OpenAIが「公開ウェブ全体」を対象に商品を探しに行く設計を取っていることです。 プラットフォーム内に閉じた在庫だけを扱うのではなく、レビューを含めた広い情報空間から候補を抽出し、明示的に“低品質サイト”を避けるロジックを組み合わせることで、従来の検索+アフィリエイト的な世界観から一歩踏み出そうとしています。

一方で、正答率64%という数字は、ユーザーの意図を完全に代行するにはまだ不十分です。 「安くて静かなゲーミングノートPCが欲しい」「子ども向けでアレルゲン表記が明確なお菓子」といった多条件のクエリでは、好みや文脈をどこまで理解できるかが鍵となり、ここから先はモデルの性能だけでなく、ユーザーからのフィードバック設計やインターフェースの工夫が効いてきます。

今回もっとも象徴的なのは、インスタントチェックアウトがまだ動いていない点です。 AIエージェントが本当に「代わりに買ってきてくれる」ためには、各ECサイトのカート構造、在庫・価格・送料、支払いフローなどが標準化されたAPIとして公開されている必要がありますが、現状のウェブはウォールドガーデン化が進み、相互運用性は依然として限定的です。

WalmartやTargetとの連携は、その壁を企業レベルの提携で乗り越えようとする試みでもあります。 どのリテーラーが「エージェントフレンドリーな標準」にいち早く対応するかによって、ユーザーのお金の流れ、ひいてはどのAIエコシステムが強くなるかが中長期で変わっていくでしょう。

規制面では、Cory Doctorow氏が指摘するように、アンチサーカムベンション法制や相互運用性の義務化といったテーマが避けて通れません。 巨大プラットフォームの分割や課徴金だけでなく、「技術的な囲い込みをどこまで許容するか」という線引きは、AIエージェントが当たり前になる世界で、ますます重要な論点になっていきます。

日本の読者にとって実務的に効いてくるのは、「どのプラットフォームやAI経由で買い物をするか」という日々の選択が、そのまま“どのエージェントにデータを渡すか”の選択になるという点です。 EC事業者やマーケターの立場では、検索結果だけでなく「AIの会話の中でどう見つけてもらうか」を前提に、商品情報やレビュー構造、フィードの設計を考えるフェーズに入りつつあります。

ポジティブな側面としては、レビュー精査や怪しいサイトの見極めといった“面倒な作業”をエージェントに委ねられることで、ユーザーは「何を大事にしたいか」という意思決定の本質に集中しやすくなります。 同時に、「どの基準でフィルタされているのか」がブラックボックス化すると、小規模な事業者や新興ブランドが発見されにくくなるリスクもあり、透明性と説明責任の設計が不可欠になっていきます。

長期的には、今回のショッピングモデルは「汎用AIエージェントが人間の代わりにウェブ上で意思決定と行動を行う」未来の序章に過ぎません。 決済やサブスク契約、解約、ポイント活用など、生活に密着した行為をどこまでAIに任せるか——その線引きを自分で意識的に決めておくことが、これからの数年を快適に過ごすための鍵になっていくはずです。

【用語解説】

ショッピングモデル
OpenAIが提供する、ユーザーのテキスト入力から商品を検索・推薦するAIモデルの総称であり、公開ウェブを横断して候補を抽出する設計になっている。

GPT-5 mini
OpenAIが開発したGPT-5系の軽量モデルで、対話や検索、商品推薦などのタスクを高速かつ低コストで処理することを目的に最適化されているとされる。

バーチャルショッピングアシスタント
チャット形式でユーザーと対話しながら、商品検索、比較、購入支援などを行うAIサービスの総称で、AmazonやGoogleも同様の機能を提供している。

インスタントチェックアウト
チャットやアプリの画面内で、商品選択から決済完了までをシームレスに完結させる機能を指し、OpenAIのショッピングモデルでは将来的な実装が予定されている。

ウォールドガーデン(walled garden)
特定企業によって管理され、外部サービスとの相互運用性が制限されたクローズドなプラットフォームやエコシステムを意味し、AIエージェントによる横断的なコマースの障壁となっている。

デジタル市場法(Digital Markets Act, DMA)
EUが巨大オンラインプラットフォームを「ゲートキーパー」として規制し、公正な競争と相互運用性を確保することを目的として制定した法制度で、AI時代のコマースにも影響を与えつつある。

アンチサーカムベンション法制
DRMなど技術的保護手段の回避を違法とする枠組みを指し、ユーザーがデジタルな囲い込みを乗り越えて他サービスと連携する自由とのバランスが議論されている。

【参考リンク】

OpenAI – ChatGPT Shopping Research(外部)
OpenAIのショッピングリサーチ機能公式ページで、GPT-5 miniモデル概要や提供条件、今後の決済機能方針を解説している

Amazon – Rufus: AI Shopping Assistant(外部)
AmazonのAIショッピングアシスタント「Rufus」の公式説明で、商品検索や比較機能、パーソナライズされた提案の仕組みを紹介している。

Google – Agentic Checkout & AI Shopping(外部)
Googleが公開したAIショッピング機能と「agentic checkout」に関するブログで、検索から決済までの体験をAIで支援する構想を説明している

Walmart – Partners with OpenAI(外部)
WalmartとOpenAIの提携を発表する公式リリースで、AIを組み込んだ新しいショッピング体験とChatGPTとの連携方針が記載されている。

Target – Conversational Shopping in ChatGPT(外部)
TargetがChatGPT内で会話型ショッピング体験を提供する計画を説明するプレスリリースで、品ぞろえや展開スケジュールが示されている。

Cory Doctorow – Redistribution vs. Predistribution(外部)
ウォールドガーデン問題や相互運用性、アンチサーカムベンション法制をテーマに、プラットフォーム支配への対抗策を論じたブログ記事である。

【参考記事】

OpenAI rolls out new shopping features with ChatGPT search update – Reuters(外部)
ChatGPTへのショッピング機能追加や小売パートナーとの連携強化、検索エンジンとの競合構図を簡潔に整理している短いニュース記事だ。

OpenAI Introduces Shopping to ChatGPT Search – GeneroGrowth(外部)
ChatGPTショッピング機能がEC集客やSEO、アフィリエイトモデルに与える影響を分析し、AIエージェント時代の戦略を考察している。

OpenAI Wants ChatGPT to Be Your Personal Shopper – CNET(外部)
ブラックフライデー前にChatGPTをパーソナルショッパーとして打ち出す意図と、具体的な利用シナリオを一般読者向けに解説している

OpenAI launches shopping research tool, takes aim at Google – TechBuzz(外部)
ショッピングリサーチ機能がGoogle検索のコマース用途に挑む構図と、エージェント型コマースへの発展可能性を中心に論じている。

ChatGPT Shopping Results, And How to Get Your Store Listed – SEO.ai(外部)
ChatGPTショッピング結果に商品を載せるための技術的要件や、データフィード最適化のポイントをEC事業者向けに解説している。

ChatGPT Shopping: “Buy Now” in AI Chat Is Here – Backlinko(外部)
AIチャット内での「今すぐ購入」体験がもたらすコンバージョン変化や、AEO(AI Experience Optimization)の考え方を紹介している。

Agentic Commerce: How ChatGPT Is Changing Shopping – Scandiweb(外部)
エージェントコマースの概念を整理し、ChatGPTのようなAIエージェントがECの購買行動をどう変えるかを中長期視点で分析している。

【編集部後記】

読者のみなさんは、「自分の買い物をAIにどこまで任せたいか」を、すでに何度か試しながら探っている途中かもしれません。今回のOpenAIの動きは、その「任せられる範囲」が、検索やレビュー読みを超えて、購入プロセスそのものに近づいてきたことを示しています。

一方で、AIが候補からそっと外してしまう商品やブランドも、確かに存在するはずです。「ラクさ」と引き換えに、何を見落とし得るのか——そのバランス感覚は、これからの数年でますます重要になっていきます。

このニュースをきっかけに、「ここはAIに丸投げしてもいい領域」と「ここだけは自分の目と感覚で決めたい領域」を、一度ゆっくり言語化してみてください。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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