Horizon「Scent Store」β版リリース|世界初の香りストリーミングサービスでUSF技術を実用化

 - innovaTopia - (イノベトピア)

音楽や映像がスマートフォンで楽しめるように、遂に「香り」もストリーミングの時代を迎えた。Horizon「Scent Store」が今日公開したβ版アプリは、専用デバイスとの連携によりデジタルデータとしての香りを物理的に再現する。

世界的ホテルの記憶を呼び起こすあの香りが、パリ発の新作フレグランスが、そして未だ嗅いだことのないアーティスト・プロデュースの香りまでもが、タップひとつで自宅のリビングに届く。Universal Scent Formatによる85%の香りカバー率という技術的精度が、この未来的なUXを支えている。

香りという主観的で文化横断的な感覚を、果たしてデジタル・スタンダードに落とし込めるのか。そのクリティカルな実証実験が、今まさに始まろうとしている。


Horizon株式会社は2025年9月1日、世界初のデジタル香り配信プラットフォーム「Scent Store」のiOS版およびAndroid版β版アプリを同時公開した。同サービスは「香りのiTunes」をコンセプトに、音楽や映像のように香りをデジタルデータとして配信・再生するプラットフォームである。

ユーザーは専用スマートディフューザーを通じて、アーティストやブランドが制作した香りをストリーミング再生できる。これにより香りは従来の物理的商品からデジタル体験コンテンツへと進化し、自宅にいながら世界的ホテルのラグジュアリーな香りやアーティストプロデュースの「香りのプレイリスト」を体験可能になる。

今後の展開として、2025年9月23日に専用ディフューザーのデザイン発表、同年11月15日に予約販売開始、2026年5月にScent Storeの正式サービス開始を予定している。同社は香りの世界共通フォーマット「Universal Scent Format」の開発も手がけている。

From: 文献リンク香りのストリーミング時代が到来、Horizon、香りのデジタル配信プラットフォーム「Scent Store」iOS・Androidアプリを同時公開

【編集部解説】

この技術の核心は、香りを音楽や映像と同じようにデジタルデータとして扱える点にあります。従来の香りビジネスは物理的な配送が前提でしたが、これがストリーミング配信により瞬時に世界規模で展開可能になったことで、業界構造の根本的な変革が始まっています。Horizonが開発するUniversal Scent Format(USF)は、香りを共通フォーマットで管理する規格で、日常的な香りの約85%をカバーする設計になっています。

技術的な背景を探ると、デジタル香り分野はまだ黎明期にあり、既存のプレイヤーは主に実験的なアプローチを取っています。Gucci FloraのようにRoblox上で嗅覚体験なしの仮想香水を展開したり、Byrodoが可視化によるデジタル香りを試みたりと、各社が異なる方向性を模索している状況です。

この中でHorizonのアプローチは、物理的な香り体験とデジタル配信を融合させる点で独特です。専用ディフューザーを通じた実際の嗅覚体験と、アプリによるパーソナライゼーション機能を組み合わせることで、従来の香り製品では不可能だった体験価値を生み出しています。

ポジティブな影響として、地理的制約を超えた香り体験の共有が可能になり、ホテルやブランドが築いた空間演出ノウハウを一般消費者が享受できるようになります。また、アーティストが音楽と同様に香りもコンテンツとして制作できる新たな創作領域が生まれることも期待されます。

一方で、香りの主観性や文化的差異をデジタル化で標準化することには限界があり、USFの85%カバー範囲を超える複雑な香りへの対応や、個人の嗅覚感度の違いへの配慮が課題となる可能性があります。また、専用ハードウェアが必要なビジネスモデルは、普及のハードルとなりかねません。

規制面では、香りのデジタル配信が食品衛生法や薬機法などの既存規制枠組みにどう適用されるかが不透明であり、特に健康への影響を考慮した安全基準の策定が必要になると考えられます。

長期的視点では、香りがデジタルコンテンツとして定着すれば、VR・ARとの統合により没入感の高いメタバース体験が実現し、エンターテインメント産業全体に新たな表現領域をもたらす可能性があります。さらに、医療分野でのアロマセラピーの個別化や、教育分野での体験学習への応用など、多様な社会実装が期待されています。

【用語解説】

Horizon株式会社:2022年設立の香りデジタル配信プラットフォーム「Scent Store」を運営する企業。香りの世界共通フォーマット「Universal Scent Format」の開発も手がける。

Scent Store:音楽のように香りをデジタルデータとして配信・再生できる世界初のプラットフォーム。「香りのiTunes」をコンセプトとし、専用ディフューザーで実際の香りを再現する。

Universal Scent Format(USF):香りをデジタルデータとして記録・再現するための共通フォーマット。日常的な香りの約85%をカバーする設計で、理論上100万種類以上の香りを表現可能。

スマートディフューザー:香りのインクカートリッジを内蔵し、アプリからのデータを受信して香りを合成・放出する専用デバイス。12種類の基本香の組み合わせで多様な香りを実現。

デジタル香り配信:従来の物理的な香り商品をデジタルデータとして配信する新技術。インターネットを介して香りデータを送信し、専用機器で再現する仕組み。

香りのプレイリスト:音楽プレイリストのように、複数の香りを組み合わせて作成する香り体験のセット。気分やシーンに応じてカスタマイズ可能。

【参考リンク】

Horizon株式会社 公式サイト(外部)
香りのデジタル配信技術を開発するスタートアップ企業の公式サイト。会社概要、サービス内容、最新ニュースなどの企業情報を提供している。

Scent Store 公式サイト(外部)
世界初の香りデジタルストリーミングサービスの公式サイト。10,000種類以上の香りを提供し、スマートディフューザーと連携した新しい香り体験を紹介。

Smell Token Project 公式サイト(外部)
Universal Scent Formatの技術詳細とSmell Tokenプロジェクトの概要を説明。40種類の基本香による香りのデジタル化技術について解説している。

【参考動画】

【参考記事】

How Scent Technology Is Changing the Future of Fragrance(外部)
香り技術が香水業界の未来をどう変えるかについて解説。GucciのRoblox上での仮想香水「Gucci Flora」やByredoのデジタル香り「Alphameta」など、メタバース空間での香り体験の事例を紹介している。

Digital Scent Technology: Revolutionizing Online Fragrance Shopping(外部)
デジタル香り技術がオンライン香水ショッピングをどう革新するかを詳述。VR環境での香り体験や、AIによる個人化された香り推奨システムの発展について説明している。

The Future of Digital Scent Design: Smelling the Future(外部)
デジタル香りデザインの未来について詳細に解説。香りを合成・配信するハードウェアとソフトウェアの仕組み、ユーザーインターフェースの重要性について説明している。

Virtual fragrance(外部)
仮想香水の概念と実装事例を分析。Gucciのメタバース香水やByredoとRTFKTのコラボレーションなど、香りを視覚的・体験的に表現する新しいアプローチを紹介している。

Worldwide Digital Virtual Fragrance Market Research Report 2025(外部)
デジタル仮想香水市場の成長予測とトレンド分析。ミレニアル世代とZ世代の60%以上がデジタル香り体験に関心を示しているという調査データを提示している。

【編集部後記】

香りがデジタル配信される時代が現実に始まりました。音楽のように香りがストリーミングされ、世界中の香りがリアルタイムで自宅に届く未来は、私たちの生活をどう変えるのでしょうか。ホテルのロビーで感じた特別な香りを自宅で再現したり、アーティストが音楽と香りを組み合わせた新しい作品を発表したりする光景が想像できます。一方で、香りの主観性や文化的差異をデジタル化で標準化することの限界、専用ハードウェアの普及課題も気になります。皆さんは香りのサブスクリプションサービスに月額いくらまで支払いますか?

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乗杉 海
新しいものが大好きなゲーマー系ライターです!

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