Halo Studios、生成AI活用を関係者が否定――ゲーム業界で高まるAI透明性への要求

[更新]2025年10月20日18:27

 - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年10月に複数のHalo Studios関係者が、ゲーム開発における生成AIの使用について混乱を招く発言を行っている。同スタジオは以前、開発プロセスにAIツールを活用していると噂されていたが、Windows CentralのエグゼクティブエディターであるJez Corden氏は、現在はそのような技術を使用していないと主張している。

多くのスタジオが効率化のためにAIツールを試験導入する一方、クリエイティブな作業における倫理的問題やアーティスト・開発者の雇用への影響について懸念が高まっている。Halo Studiosにおける生成AIに関する各関係者の発言の不一致は、AI使用の透明性を求める声を強めており、業界におけるAI採用の慎重なアプローチと明確なコミュニケーションの重要性を示している。

From: 文献リンクHalo Studios Reportedly Not Using Generative AI For Game Development Despite Earlier Claims – The Game Post

【編集部解説】

内部告発と大規模AI活用の報道

この論争の発端は、2025年10月中旬にHaloインサイダーとして知られるRebsGamingが公開したビデオレポートにあります。同氏はMicrosoft関係者からの情報として、Halo Studiosが生成AIを「開発のあらゆる側面に織り込んでいる」と報じました。この告発によれば、生成AIはスケジュール管理やメール作成といった事務作業だけでなく、敵AIの挙動設計や地形生成など、ゲーム開発の中核部分にまで使用されているとのことです。

関係者は「AIで生成したコンテンツを人間の手で仕上げる方式を採用しており、開発者は従来と同等かそれ以上の短納期を求められている」と証言しています。この報道は大きな反響を呼び、ゲームコミュニティでは生成AI使用への批判が噴出しました。

しかし報道から数日後の10月19日、RebsGaming自身が「報道内容が誤解されている」と釈明を発表します。彼は「Halo Studiosが使用しているのは、従来からゲーム開発で使われているプロシージャル生成技術に近いもので、生成AIが悪用されているわけではない」と訂正しました。さらに「詳細を確認するため情報源に追加取材中」とし、当初の報道が不正確だった可能性を示唆したのです。

この一連の流れを受けて、Jez Corden氏が「Halo Studiosは生成AIを使用していない」という別の情報源からの証言を報じ、事態はさらに混乱しました。2024年10月のProject Foundry発表時の曖昧な表現、RebsGamingの告発と訂正、そしてCorden氏の否定報道という三つの矛盾する情報が交錯し、スタジオの実態が不透明なままとなっています。

相次ぐキーパーソンの離脱

この生成AI論争と並行して、スタジオからキーパーソンが相次いで離脱していることも不安を増幅させています。2025年10月10日、17年間Haloシリーズに携わってきたアートディレクターのGlenn Israel氏が退社を発表しました。その声明では「来年、絶対に安全だと確信できる時期になったら、この特定の物語をすべてお話しする」という意味深な言葉とともに、「証拠を残せ」「あなたの健康、尊厳、倫理観を犠牲にするな」というメッセージを残しています。

RebsGaming氏の取材によれば、Halo Infiniteのアートチーム9名のうち、現在スタジオに残っているのはわずか1名のみ。さらにスタジオのチーフ・オブ・スタッフも退社しており、リーダーシップ層の大量流出が確認されています。

レイオフとAI導入が重なる最悪のタイミング

ゲーム業界における生成AI使用への反発は、2024年が「大量レイオフの年」だったことと深く関係しています。Microsoftは2024年初頭にゲーム部門で約1,900人規模のレイオフを実施し、さらに2025年6月には全社で9,000人もの大規模削減を断行しました。Halo Studiosからも複数のスタッフが解雇されたと報じられています。

この状況下でのAI活用報道は、「人間をAIで置き換える」という最悪のシナリオとして受け止められました。効率化のための技術導入は、雇用喪失への恐怖を煽るものでした。

Glenn Israel氏の発言の背景には、AI導入と大量レイオフによって、残ったスタッフへの業務負担が増加している可能性も窺えます。「証拠を残せ」ということからも、単に生成AIの導入に対する反発だけでなく、極端な労働環境の悪化も考えられるでしょう。

また、生成AIの学習データを巡る著作権問題も背景にあります。多くのAIはアーティストの許諾なく作品を学習しており、クリエイターの権利侵害だという批判が強まっています。企業のAI使用は倫理的に問題があるという認識が、ゲーム開発コミュニティに広がっています。

Halo特有の事情としては、『Halo Infinite』が2021年の発売時に開発遅延とコンテンツ不足で批判を受けた直後だったことも挙げられます。ファンが求めていたのは面白いゲームを早く遊びたいということであり、効率化優先の姿勢ではありませんでした。

透明性の欠如が生む混乱

今回の事例で最も問題なのは、情報の一貫性のなさです。告発、訂正、否定という三つの矛盾する情報が交錯し、何が真実なのか判断できません。スタジオ側も技術的詳細を明らかにしないため、「生成AI」と「従来型AI」の線引きが不明瞭なままです。

一方で、アートチームのほぼ全員退職という事実は、生成AI使用の有無にかかわらず、スタジオ内部に深刻な問題があることを示唆しています。企業がAI戦略において透明性を欠くことは、消費者とクリエイターの双方から不信を招きます。

長期的には生成AIは開発ツールとして標準化される可能性が高いものの、クリエイターの創造性と尊厳を尊重しつつ技術革新の恩恵を受けるバランスを見出すことが、業界全体の課題となるでしょう。

【用語解説】

Halo Studios
Microsoftが所有するゲーム開発スタジオ。旧343 Industries。伝説的FPSシリーズ「Halo」の開発を担当し、2024年10月にスタジオ名を変更した。

Unreal Engine 5
Epic Gamesが開発した最新のゲームエンジン。高度なグラフィックス機能とリアルタイムレンダリング技術を備え、多くのAAAタイトルで採用されている。

プロシージャル生成
アルゴリズムを用いてゲームコンテンツを自動生成する技術。生成AIとは異なり、ルールベースで動作する従来型の技術。RebsGamingが訂正時に言及した技術。

レイオフ
企業による従業員の大規模解雇。ゲーム業界では2024年以降、複数の大手企業が数千人規模のレイオフを実施し、AI導入との関連が指摘されている。

【参考リンク】

Halo公式サイト(外部)
Halo Studiosが運営するHaloシリーズの公式ポータル。最新ニュース、ゲーム情報、コミュニティコンテンツを提供。

Unreal Engine 5公式サイト(外部)
Epic Gamesによる次世代ゲームエンジンの公式サイト。技術仕様、ドキュメント、学習リソースを提供。

Microsoft Gaming公式サイト(外部)
Microsoftのゲーム事業部門の公式サイト。Xbox、Game Pass、傘下スタジオの情報を網羅。

RebsGaming YouTube(外部)
今回の報道の発端となったビデオレポートを公開しているHaloインサイダーのチャンネル。

【参考記事】

Insider Says Halo Studios Has Generative AI “Woven into Every Aspect” of Its Future Game Development, From Core Workflows to World Building and Enemy AI(外部)
RebsGamingによる告発と訂正を含む一連の報道の詳細記事。生成AI使用疑惑の発端となった情報源。

Halo art director exits with ominous message — promises to share more “when it is absolutely safe”(外部)
Glenn Israel氏の退社とスタジオ内の状況に関する詳細記事。

Halo art director leaves after 17 years with cryptic message suggesting it was on bad terms(外部)
Glenn Israel氏の意味深な退社声明とアートチーム離脱状況についての報道。

Veteran Halo art director leaves Xbox, will explain when “it is absolutely safe”(外部)
RebsGaming情報源によるスタジオのリーダーシップ問題とアートチーム大量離脱の詳細。

Microsoft cuts another 4% of its workforce, about 9,000 jobs, in continued efficiency push(外部)
Microsoftによる、大量レイオフについて報じた記事。

Microsoft announces layoffs at gaming division with 1900 jobs cut across Activision Blizzard, Xbox Game Studios, and ZeniMax Media(外部)
Microsoftがゲーム部門から1,900人のレイオフを行ったことを報じた記事

【編集部後記】

今回の騒動は、生成AI論争の背後にある構造的な問題を浮き彫りにしました。各関係者の発言が矛盾しており、AI使用の有無以前に、開発環境そのものに深刻な問題があることを示唆しています。

一方で、10月24日から26日のHalo World ChampionshipではHalo: Combat Evolvedリメイクを含む新プロジェクトの発表が予定されており、Unreal Engine 5を採用した新時代への期待もあります。しかし、その期待が実を結ぶには、スタジオが透明性を持って課題に向き合う必要があるでしょう。あなたは、こうした問題を抱えた開発現場の新作を素直に喜べますか。それとも、最終的なクオリティこそが重要だと考えますか。

投稿者アバター
乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。 デジタルエンターテインメントの未来形がいかに人間の認知と感情に働きかけるかを分析し、テクノロジーが創造する新しい未来の可能性を追求しています。

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