innovaTopia

ーTech for Human Evolutionー

「Nate」AIショッピングアプリ詐欺事件:創業者が投資家を欺く – 実は人力で運営していた衝撃の真相

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-04-11 15:06 by admin

米国のショッピングアプリ「Nate」の創業者兼元CEO、Albert Saniger氏(35歳)が、AIを活用していると投資家に偽って5000万ドル(約75億円)以上の資金を調達した詐欺容疑で起訴された。米国司法省が2025年4月上旬に発表した。

Nateは約7年前(2018年頃)に設立され、eコマースサイトでのチェックアウトプロセスを簡略化する「ユニバーサルショッピングカート」として宣伝されていた。このアプリはAIを使用して自律的にチェックアウトプロセスをナビゲートし、ユーザーに代わって一回のタップで購入を完了すると主張していた。

米国司法省南部地区のMatthew Podolsky検事によると、Saniger氏は確かに第三者からAI技術を取得し、データサイエンティストチームを雇ってそれを開発していたものの、NateのAIはeコマース購入を一貫して完了する能力を達成できなかった。この事実を投資家から隠し、代わりにフィリピンのコールセンターにいる「何百人もの」人間の作業員を使って、AIによって行われていると利用者が信じていた取引を手動で処理していた。繁忙期には一部の取引を自動化するボットも開発されていたという。

米国連邦取引委員会(FTC)は2023年、企業に対し製品に関連するAI機能を発表する際に誇張や過度の約束を避けるよう警告していた。

from ‘AI-powered’ shopping app alleged to have been human-powered

【編集部解説】

今回のNateの事例は、近年急増している「AIウォッシング」という現象の典型例と言えるでしょう。AIウォッシングとは、実際にはAI技術をほとんど、あるいは全く使用していないにもかかわらず、マーケティングや資金調達のためにAIを活用していると主張する行為です。

Nateの事例が特に注目に値するのは、単に機能を誇張しただけでなく、完全に人力で行われていた作業をAIによるものと偽り、それによって5000万ドル以上の投資資金を集めた点です。元記事によれば、フィリピンのコールセンターで働く「何百人もの」人間がバックエンドで手動処理を行っていたという事実が明らかになっています。

この事件は、現在のAIブームの中で起きている「ハイプ(誇大宣伝)」と「現実」のギャップを浮き彫りにしています。テクノロジー業界では、「AI搭載」というラベルが投資を引き付ける強力な磁石となっており、多くの企業がAIの能力を過大に宣伝する傾向があります。

eコマースのチェックアウト自動化という課題は、一見単純に見えますが、技術的には非常に複雑です。各ウェブサイトのインターフェースが異なり、常に変更される可能性があるため、汎用的な自動化ソリューションの開発は困難です。現在のAI技術でも、こうした変動的な環境での完全自動化は依然として難しい領域であることがわかります。

このような事例を受けて、規制当局も動き始めています。米国連邦取引委員会(FTC)は2023年にAIに関する誇張表現について警告を発しています。また、欧州ではAI法が成立し、AIシステムの透明性と説明責任が求められるようになりました。

新しいテクノロジーに触れる際には、その仕組みや限界について批判的に考える姿勢が重要です。特にAIのような先端技術は、その実態を理解することが難しく、誇大広告に惑わされやすい領域です。

また、この事件は企業倫理の問題も提起しています。技術の限界を認識し、透明性を持って顧客や投資家とコミュニケーションを取ることが、持続可能なビジネスの基盤となります。「AIウォッシング」は短期的には投資を引き付けるかもしれませんが、長期的には業界全体の信頼を損なう結果となるでしょう。

AI技術は確かに急速に進化していますが、その現実的な能力と限界を理解することが、テクノロジーを賢く活用するための第一歩です。

【用語解説】

AIウォッシング:企業や組織が実際にはAI技術をほとんど使用していないにもかかわらず、マーケティングや資金調達のためにAIを活用していると主張する行為である。「グリーンウォッシング」(環境に配慮しているように見せかける行為)から派生した用語である。

ユニバーサルショッピングカート:複数のECサイトを横断して、商品の選択から決済までをひとつのプラットフォームで完結できるシステムである。買い物客が各サイトで個別にアカウント登録や支払い情報入力をする手間を省くことを目的としている。

米国司法省(DOJ):アメリカ合衆国の行政機関で、連邦法の執行や犯罪の起訴などを担当する。日本の法務省に相当する。司法長官(Attorney General)が率いる。

米国連邦取引委員会(FTC):消費者保護と公正な競争を促進するアメリカの独立行政機関である。不公正な商慣行や詐欺的な広告などから消費者を守るための活動を行う。

【参考リンク】

米国司法省(DOJ)(外部)アメリカ合衆国の法執行機関。今回のNate創業者の詐欺容疑を起訴した。

【関連記事】

テクノロジーと社会ニュースをinnovaTopiaでもっと読む

author avatar
乗杉 海
新しいものが大好きなゲーマー系ライターです!
ホーム » テクノロジーと社会 » テクノロジーと社会ニュース » 「Nate」AIショッピングアプリ詐欺事件:創業者が投資家を欺く – 実は人力で運営していた衝撃の真相