教育技術と政策の研究者であるヴェリスラヴァ・ヒルマン博士が2025年9月1日、商業技術が学校教育を急速に変革している現状について論じた記事をThe Guardianに寄稿した。
現在、GoogleやMicrosoft、Century Tech、Dr Frost、Quizlet、Duolingo、Blooket、Arbor、NetSupport、Times Tables Rockstars、ClassDojo、Kahoot!などの企業・サービスが教室に浸透している。また、3億ダウンロードを超えるPhotomathのようなアプリが数学学習に使用されている。英国では公的資金による教室デジタル化が継続され、幼児教育現場でもAI導入が求められている。
こうしたデジタルデバイスを介した教育が進むにつれ、静かな懸念を抱く保護者は少なくないだろう。ある研究では、GCSE成績を1段階上げるために生徒が1年間で数百時間を1つの数学アプリに費やす必要があるという。しかし、商業プラットフォーム経由の標準化カリキュラムは現在広く普及している。
記事では、教育理論家ゲルト・ビエスタの理論を引用し、学習の商業化に警鐘を鳴らしている。
From: Big tech has transformed the classroom – and parents are right to be worried
【編集部解説】
この記事が提起する課題は、2025年の教育現場で急速に進む重要な変化です。
教育におけるAI導入は実際に加速しており、アメリカ心理学会(APA)の調査によると、10代の7割が生成AIツール(主にChatGPT)を宿題の手助けに使用していると判明しました。また英国の高等教育政策研究所(HEPI)が今年行った調査では、英国の大学生の9割以上がAIを使用していることがわかっています。これは記事の指摘する「静かな変革」が現実であることを示しています。
記事で言及された「個別化学習」は教育技術分野の中核トレンドです。AI駆動型の個別化学習システムは、学習者の進度、理解度、学習スタイルに応じてコンテンツを調整する能力を持っています。しかし、この技術的な可能性と実際の教室での効果には大きなギャップがあるのが現実です。
記事が警鐘を鳴らすゲーミフィケーション要素についても、教育心理学者たちは慎重な見方を示しています。ポイント制やリーダーボード機能は短期的な動機付けには効果的ですが、内発的学習動機や深い理解につながるかは疑問視されています。
特に注目すべきは、教育格差の拡大という指摘です。記事では「エリートには人間の個別指導、大多数にはアプリベース」という二極化が進むと警告していますが、これは既に現実化しています。高所得層の学校では人間の教師とAIツールを組み合わせた高品質な教育が行われる一方、予算の限られた学校ではコスト効率を重視したデジタルツールに依存する傾向が見られます。
データプライバシーの問題も深刻です。教育現場でのデータ収集は学習分析の名目で正当化されがちですが、子どもたちの学習パターン、行動傾向、さらには感情的反応まで記録されている現状があります。これらのデータがどのように蓄積され、将来どう活用されるかについて、十分な議論や規制が追いついていません。
一方で、AIの肯定的な活用事例も存在します。特別な学習支援が必要な生徒や、英語学習者に対する適応的な学習支援では効果が報告されています。また、教師の事務的業務を削減し、より質の高い指導時間を確保できる可能性も示されています。
重要なのは、技術導入における透明性と選択の余地です。現在多くの学校でEdTechツールが「教育の標準」として導入されていますが、その効果検証や代替選択肢の検討は十分に行われていません。保護者や教育者が、子どもたちの学習環境について真に informed choiceを行えるよう、より多くの情報開示と議論の場が必要でしょう。
【用語解説】
EdTech(Educational Technology)
教育技術。ICTを活用して教育の質や効率を向上させる技術やサービスの総称である。
ゲーミフィケーション
ゲーム以外の分野にゲーム的要素を導入する手法。教育分野では、ポイント制やリーダーボードを使って学習動機を高める手法として活用されている。
GCSE
General Certificate of Secondary Education。イングランド、ウェールズ、北アイルランドで実施される義務教育修了時の統一試験である。
ヴェリスラヴァ・ヒルマン
教育技術と政策の専門家。学者、教師、作家、コンサルタントとして活動している。
ゲルト・ビエスタ
オランダ出身の教育理論家。教育の目的を「資格付与」「社会化」「主体化」の3つに分類した理論で知られる。
【参考リンク】
Photomath(外部)
数学の問題を写真で撮影すると、AIが解法をステップごとに解説してくれる学習アプリ
Times Tables Rock Stars(外部)
掛け算の九九をロックスター風のゲームで学習できるプラットフォーム
Century Tech(外部)
AIを活用した個別化学習プラットフォーム。神経科学と技術を組み合わせている
NetSupport(外部)
教室管理と学習支援ソフトウェアを提供する企業。36年間の開発経験を持つ
【参考記事】
How AI will change edtech and classrooms in 2025(外部)
2025年のAI教育技術と教室への影響について分析した記事
AI Impact on Educators and Parents: Learning Communities(外部)
教育者と保護者に対するAIの影響について分析した報告書
Classrooms are adapting to the use of artificial intelligence(外部)
教室でのAI活用の適応状況について報告。10代の7割がChatGPTを使用
How AI is Revolutionizing Personalized Learning in EdTech(外部)
EdTechにおける個別化学習のAI革命について詳細に解説
CoSN2025: What Concerns Hinder Schools’ Adoption of AI?(外部)
学校でのAI導入を阻む懸念事項について調査報告した記事
【編集部後記】
お子さんをお持ちの読者の方々は、今日の記事をどのように受け止められたでしょうか。
学校で使われている教育アプリやプラットフォームについて、ご家庭でお子さんと話し合う機会はありますか?私たちinnovaTopiaも、技術と人間の共存について日々考えを深めています。教室でのデジタル化が進む中で、お子さんの学習体験や集中力に変化を感じることがあれば、ぜひ教師の方々との対話を通じて共有してみてください。
技術の恩恵を受けつつも、人間らしい学びの本質を大切にしていく方法を、読者の皆さんと一緒に探求できればと思います。