ヒュンダイ・LGバッテリー工場で475名拘束、ICE史上最大規模摘発でEV戦略に影響

ヒュンダイ・LGバッテリー工場で475名拘束、ICE史上最大規模摘発でEV戦略に影響 - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年9月5日(木曜日)、米国移民・関税執行局(ICE)の国土安全保障捜査局(HSI)は、ジョージア州で建設中のヒュンダイ-LG合弁バッテリー工場で475名を拘束した。

この作戦は「オペレーション・ローボルテージ」と名付けられ、400名以上の連邦捜査官が参加した。HSI特別捜査官のスティーブン・シュランク氏は、これを国土安全保障捜査局史上最大の単一サイト執行作戦と発表した。

マーガレット・ヒープ連邦検事は400名以上の不法労働者が特定され拘束されたと述べた。摘発中に数名の容疑者が工場隣接の汚水池を通って逃走を試み、警察官がボートで救助した。

ヒュンダイは3月にジョージア州の3,000エーカーのメタプラントEV工場の開所式を行った。この投資はヒュンダイが同州に約束した126億ドルの投資パッケージの一部である。

韓国政府は外交官をジョージア州に派遣し、韓国外務省が抗議声明を発表した。拘束された者の中には有効なビザで米国に滞在していた者や、韓国から出張で来ていたLGエナジーソリューションの職員も含まれていた。

From: 文献リンクUS arrests 475 at Hyundai–LG battery plant in Georgia – The Register

【編集部解説】

今回の事案は、トランプ政権の移民政策強化と外国投資促進という二つの政策の間で生じた矛盾を浮き彫りにした象徴的な事件といえます。ジョージア州のヒュンダイ・LGバッテリー工場での475名拘束は、単なる移民法執行を超えた複雑な政治的・経済的意味を持っています。

特に注目すべきは、この摘発が「数ヶ月にわたる刑事捜査」の結果だったという点です。ICEの発表によれば、これは無作為な摘発ではなく、不法雇用慣行の疑いに関する計画的な捜査活動でした。しかし、その結果として韓国からの合法的な出張者やビザ保持者まで巻き込まれたことで、外交問題に発展しています。

このような大規模摘発がEVバッテリー製造という戦略的産業で発生したことは、アメリカの産業政策にとって皮肉な結果をもたらしています。バイデン政権時代から続くEV推進政策により、韓国企業は126億ドルという巨額投資を約束していました。ところが、その実現を支える労働力に対する摘発が、投資計画そのものを危険にさらす結果となったのです。

韓国政府の強い抗議も理解できます。外務省は「韓国投資企業の経済活動と韓国国民の権利利益が不当に侵害されてはならない」と声明を発表し、外交官をジョージア州に派遣して自国民の権利保護に乗り出しました。これは単なる労働問題を超えた国際的な投資環境への懸念を示しています。

技術面では、このバッテリー工場はヒュンダイの電気自動車製造と直結する重要施設でした。建設が一時停止されることで、アメリカの電気自動車供給チェーンにも影響が及ぶ可能性があります。特に、2026年前半の稼働開始予定だったこの施設は、ヒュンダイ、キア、ジェネシスブランドのEVバッテリー供給を担う予定でした。

長期的な視点では、この事件がアメリカの外国投資誘致政策に与える影響が懸念されます。トランプ政権は製造業の国内回帰を促す一方で、厳格な移民政策も推進しています。しかし、高度な製造業には専門技術者の国際的な移動が不可欠であり、今回のような摘発が頻発すれば、外国企業の投資意欲を削ぐ可能性があります。

この事案は、グローバル化した製造業において、移民政策と産業政策のバランスをどう取るかという根本的な課題を提起しています。テクノロジー産業の発展には国際的な人材交流が欠かせませんが、それと厳格な移民管理をどう両立させるかは、今後のアメリカ産業政策の重要な論点となるでしょう。

【用語解説】

ICE(移民・関税執行局)
アメリカ合衆国国土安全保障省に属する連邦法執行機関。移民法・関税法の執行、国境管理、テロ対策などを担当する。国土安全保障捜査局(HSI)と強制送還部門(ERO)という2つの主要部門を持つ。

HSI(国土安全保障捜査局)
ICE傘下の捜査部門で、人身売買、麻薬密輸、サイバー犯罪、不法雇用などの国境を越えた犯罪を専門に扱う。約6,000名の特別捜査官を擁し、FBIに次ぐ規模の捜査機関である。

EVバッテリー工場
電気自動車用のリチウムイオンバッテリーを製造する施設。自動車メーカーが電気自動車の大量生産を進めるために、世界各地で建設が急増している戦略的インフラ。

メタプラント
ヒュンダイが提唱する次世代自動車工場のコンセプト。高度な自動化、デジタル技術の活用、柔軟な生産システムを特徴とし、電気自動車とハイブリッド車の両方を製造できる統合型工場を指す。

【参考リンク】

ヒュンダイ・モーター・カンパニー(外部)
韓国最大の自動車メーカー。電気自動車IONIQシリーズや水素燃料電池車NEXO製造

ヒュンダイ・モーター・グループ・メタプラント・アメリカ(外部)
ジョージア州サバンナ郊外の76億ドル規模EV製造工場。年間30万台生産能力

LGエナジーソリューション(外部)
韓国LGグループ傘下のバッテリー専門企業。世界第2位のバッテリーメーカー

米国移民・関税執行局(ICE)(外部)
アメリカ国土安全保障省傘下の連邦執行機関。移民法執行、国境管理を担当

【参考動画】

【参考記事】

South Koreans Are Swept Up in Immigration Raid at Hyundai Plant(外部)
韓国のバッテリーメーカー幹部がジョージア州の建設現場で拘束され外交的懸念が発生

South Koreans detained in ICE raid at Hyundai electric vehicle site(外部)
約500人がジョージア州のヒュンダイ工場で史上最大規模の職場摘発により逮捕された

Hundreds of South Korean nationals detained in largest single-site immigration raid(外部)
数百名の韓国人が史上最大規模の単一サイト移民摘発で拘束されたことを報告

475 people detained in Georgia Hyundai raid by ICE(外部)
ICEによるジョージア州ヒュンダイ摘発で475名が拘束、電気自動車とバッテリー製造施設

South Korea objects as US detains 475 at Hyundai plant raid(外部)
米国がヒュンダイ工場摘発で475名を拘束したことに韓国政府が異議を申し立て

【編集部後記】

このたびの事案は、テクノロジー企業と私たちが生きる社会の複雑な関係を改めて考えさせてくれる出来事でした。EV時代を支える重要なインフラであるバッテリー工場での出来事だけに、今後の電気自動車普及や国際的な製造業投資にどのような影響を与えるのか、皆さんはいかがお考えでしょうか。

グローバル化が進む一方で、各国の移民政策が厳格化する中、テクノロジー産業はどのような道を歩んでいくべきなのでしょう。また、私たち消費者にとって、このような事案が製品価格や技術革新のスピードに与える影響について、ぜひご意見をお聞かせください。未来のモビリティ社会を考える上で、とても重要な論点だと感じています。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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