イタリア、EU初のAI包括規制法を成立-ディープフェイク悪用に最大5年の禁錮刑

[更新]2025年9月20日07:55

イタリア、EU初のAI包括規制法を成立-ディープフェイク悪用に最大5年の禁錮刑 - innovaTopia - (イノベトピア)

イタリア議会は2025年9月17日、人工知能を規制する包括的法律を承認し、EUで初めてAI規制法に準拠した法律が成立した。

法律は、AI生成または操作されたコンテンツの違法拡散による危害発生時に1年から5年の禁錮刑を科す。14歳未満の子どものAI利用には保護者の同意を義務付ける。医療、労働、行政、教育、司法、スポーツなどの分野でAI利用時の透明性と人間による監視を求める。著作権については、AI支援による創作物が知的努力に基づく場合は保護される。AI駆動のテキストおよびデータマイニングは著作権のないコンテンツまたは権限機関による科学研究に限定される。

政府はデジタル・イタリア庁と国家サイバーセキュリティ庁を執行機関に指定した。AI、サイバーセキュリティ、通信分野の企業支援として国家ベンチャーキャピタルファンドから最大10億ユーロを提供する。ジョルジャ・メローニ首相は人間中心で透明性のあるAI利用を促進すると表明した。

From: 文献リンクItaly first in EU to pass comprehensive law regulating use of AI

【編集部解説】

今回のイタリアのAI規制法成立は、単なる国内法制定以上の意味を持つ画期的な出来事です。EU AI法が2024年8月に発効し、2025年2月から段階的に規制適用が開始される中で、イタリアは加盟国として初めて包括的な国内法整備を完了しました。これは他のEU諸国にとって重要な先行事例となります。

注目すべきは刑事罰の導入です。AI生成コンテンツによる被害に対し1年から5年の禁錮刑を科すという厳格な姿勢は、従来の民事責任中心の議論を大きく転換させています。ディープフェイクによる名誉毀損や詐欺が社会問題化する中、刑事処罰による抑制効果を狙った措置といえるでしょう。

14歳未満への利用制限も特徴的です。デジタルネイティブ世代の保護を重視する一方で、教育現場でのAI活用にどう影響するかが課題となります。保護者同意の具体的な仕組みや、教育目的での例外規定の有無が実務上の焦点になりそうです。

著作権分野では、知的努力に基づくAI支援創作物の保護を明文化しました。これは創作者とAIの協働を法的に位置づける重要な判断です。一方で、データマイニングの制限は生成AI開発に影響を与える可能性があります。

10億ユーロの企業支援予算も注目点です。規制と同時に産業育成を図る姿勢は日本の政策立案にも示唆を与えます。ただし米中の投資規模と比較すると限定的で、EU全体での競争力強化が課題として残ります。

この法律の施行により、イタリア企業はより厳格なコンプライアンス体制の構築が求められます。特に多国籍企業にとっては、国ごとに異なる規制への対応が新たな経営課題となるでしょう。

【用語解説】

EU AI法(AI Act)
2024年8月に発効し、2025年2月から段階的に規制適用が開始されたEU全域に掛かる人工知能規制法。リスクベースアプローチを採用し、高リスクAIシステムに対する厳格な規制を定める。世界初の包括的AI規制法として各国の法整備に影響を与えている。

ディープフェイク
AIを使用して実在する人物の顔や音声を別の映像や音声に合成する技術。リアルな偽造コンテンツを作成できるため、詐欺や名誉毀損などの悪用が社会問題となっている。

データマイニング
大量のデータから有用なパターンや知識を抽出する技術。AI開発において学習データの収集・分析に不可欠だが、著作権との兼ね合いが課題となっている。

リスクベースアプローチ
AI利用の社会的リスクに応じて段階的な規制を適用する手法。高リスクシステムには厳格な規制、低リスクには緩い規制を課すことで、イノベーションと安全性のバランスを図る。

【参考リンク】

イタリア政府公式サイト(外部)
イタリア政府の公式ウェブサイト。首相官邸の発表や政策情報、法案の詳細などを英語でも提供している

Agency for Digital Italy (AgID)(外部)
イタリアのデジタル変革を推進する政府機関。今回のAI法施行を担当する組織の一つ

European Commission – AI(外部)
欧州委員会のAI政策ページ。EU AI法の詳細や実装ガイドライン、加盟国の取り組み状況を提供

【参考記事】

Italy enacts AI law covering privacy, oversight and child access(外部)
ロイター通信による詳細な報道。イタリアのAI法が14歳未満の利用制限、プライバシー保護、監視メカニズムを含む包括的内容であることを報じている

Italy Becomes First EU Member State to Adopt Law on Artificial Intelligence Use(外部)
サラエボタイムズによる分析記事。イタリア法の人間中心アプローチと透明性重視の姿勢を詳述し、他のEU加盟国への影響について論じている

Italy passes comprehensive AI law(外部)
CADE Projectによる政策分析。法律の具体的な条項と施行体制、10億ユーロの産業支援予算の詳細について専門的な視点から解説

Italy passes law to regulate Artificial Intelligence(外部)
ワンテッドインローマによる現地報道。メローニ首相の「イタリア式AI統治」発言の背景と、国家サイバーセキュリティ庁の役割について詳しく報じている

【編集部後記】

イタリアが踏み出したこの一歩は、私たちの日常にどのような変化をもたらすでしょうか。14歳未満の子どもたちがAIを使う際に保護者の同意が必要になる―この規制を聞いて、皆さんはどう感じられますか?

過度な規制だと感じる方もいれば、必要な保護だと考える方もいらっしゃるでしょう。企業で働く方なら、AI利用時の透明性確保や人間による監視体制について、現在の職場ではどう対応しているか気になりませんか?

また、創作活動をされる方は、AI支援による作品の著作権保護について、どのような基準が適切だとお考えでしょうか?日本でも同様の法整備が進む可能性がある今、私たち一人ひとりがAIとどう向き合っていくべきか、一緒に考えてみませんか?

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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