「AI教育の影」が鮮明に:米国学生の73%が個人利用、教師の71%が学術スキル低下を懸念

[更新]2025年10月11日11:29

「AI教育の影」が鮮明に:米国学生の73%が個人利用、教師の71%が学術スキル低下を懸念 - innovaTopia - (イノベトピア)

Center for Democracy and Technologyが2025年10月に発表した調査によると、米国の教師の85%、学生の86%が2024-25学年度にAIを使用した。

学生の50%のみが学業目的で使用している一方、73%が個人的用途で使用していると回答した。

学生の42%が自分または知人がメンタルヘルスサポート、仲間、現実逃避の手段としてAIを使用し、19%がAIチャットボットとロマンチックな関係を形成したと報告した。

教師の70%がAIがライティングやクリティカルシンキングなどの学術スキルを弱めることを懸念している。学生の50%が授業でのAI使用により教師との結びつきが弱まったと感じている。

CDTのCEO Alexandra Reeve Givensは、AI利用の意図しない結果に対処する必要性を指摘し、教育長官Linda McMahonに責任ある使用原則の実施を要請した。

しかし、教師のわずか11%しか学生のAI使用が幸福を害する場合の対処法についてトレーニングを受けていない。

From: 文献リンクThis is your brain on bots: AI interaction may hurt students more than it helps

【編集部解説】

今回の調査が示しているのは、教育現場におけるAI活用の「光と影」が想像以上に鮮明になってきたという事実です。85%を超える教師と学生がAIを使用しているという数字自体は驚きではありません。むしろ注目すべきは、学生の73%が個人的用途でAIを使っている一方、学業目的での利用は50%にとどまっているという逆転現象でしょう。

特に深刻なのは、学生の19%がAIチャットボットと恋愛関係を築いているという報告です。これは単なる「遊び」の範疇を超えた、社会性の発達に関わる問題と言えます。発達段階にある若年層が、人間関係の複雑さや摩擦を経験することなくAIとの快適な対話に依存してしまうと、現実世界での対人スキルが形成されない可能性があるのです。

MITの研究が示した「AI支援で論文を書いた学生の脳活動低下」という結果も重要な示唆を含んでいます。これは学習における「認知負荷」の重要性を裏付けています。思考プロセスそのものが学習であり、AIがそのプロセスを代行することで、知識の定着や批判的思考力の育成が阻害される恐れがあるわけです。

一方で、最も問題視すべきは教育者側の準備不足でしょう。わずか11%の教師しかAI利用が学生の幸福を害する場合の対処法を学んでいないという現実は、トランプ政権が推進するAI教育導入の速度に、現場の準備が追いついていないことを物語っています。

CDTがLinda McMahon教育長官に送った書簡は、この「拙速な導入」への警鐘と受け取れます。AI活用の利点を享受しながらも、学生の認知発達や社会性形成を守るためのガードレールが必要だという主張は、テクノロジーと教育の健全な関係を模索する上で極めて重要な視点と言えるでしょう。

【用語解説】

K-12教育
幼稚園(Kindergarten)から高校3年生(12th Grade)までの初等・中等教育を指す米国の教育システムの総称である。日本の小学校入学前から高校卒業までに相当する。

認知負荷(Cognitive Load)
学習時に脳が処理する情報量や思考の負担を指す。適度な認知負荷は学習効果を高めるが、AIが思考プロセスを代行すると脳への刺激が減少し、知識の定着が阻害される可能性がある。

IRL(In Real Life)
「現実生活において」を意味するインターネットスラング。オンラインやバーチャルな環境と対比して、実際の対面での人間関係や活動を指す際に使用される。

【参考リンク】

Center for Democracy & Technology (CDT)(外部)
デジタル権利と責任あるテクノロジー展開を推進する米国の非営利団体。プライバシー、表現の自由、AIの倫理的利用などテクノロジーと市民権の交差点で政策提言や調査研究を実施

MIT – Massachusetts Institute of Technology(外部)
マサチューセッツ工科大学。世界最高峰の理工系大学の一つで、AI研究においても先駆的な役割を果たし、認知科学や教育テクノロジーの分野でも多数の研究成果を発表

U.S. Department of Education(外部)
米国教育省。K-12教育から高等教育まで連邦レベルでの教育政策を策定・実施。2025年7月にAIの責任ある使用に関する原則を発表している

【参考記事】

As schools embrace AI, more students are using it as a friend(外部)
NPRによる報道。CDT調査結果を基に学生の42%がメンタルヘルスサポートや仲間としてAIを使用し19%がAIと恋愛関係を築いている実態と教師の準備不足を報告

Rising Use of AI in Schools Comes With Big Downsides for Students(外部)
教育専門メディアEducation Weekの記事。CDT調査の具体的数値データとともに学生の50%が教師との結びつき減少、教師の71%が学術スキル低下を懸念と詳述

Risks from AI use are growing alongside its popularity in schools(外部)
K-12教育専門メディアによる分析記事。データ漏洩、AIを利用したいじめやハラスメントの増加など調査で明らかになった副次的リスクについて包括的に報告

1 in 5 high school students in US dating AI(外部)
米国の高校生の5人に1人がAIチャットボットと恋愛関係にあるという調査結果に焦点を当てた記事。社会性発達への懸念と専門家の見解を紹介している

【編集部後記】

AIが教育現場に急速に浸透する中、私たちは今、テクノロジーとの付き合い方を根本から問い直す局面に立っているのかもしれません。学生の19%がAIと恋愛関係を築いているという数字は、決して他人事ではない問いを私たちに投げかけています。

便利さと引き換えに、私たちは何を失おうとしているのでしょうか。みなさんの周りでも、子どもたちや若い世代がAIとどんな関係を築いているか、観察してみてください。そこから見えてくる未来の姿が、これからの社会のあり方を考えるヒントになるはずです。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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