【取材】TEECHI 2025 – 2026 WINTER / SPRING COLLECTIONが見せたAI×ファッションの境地

[更新]2025年10月15日19:08

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「おしゃれは我慢」という言葉があります。残暑が厳しい中でも秋服に袖を通す大学生、冬でもスカート丈を短く保つ女子高生、真夏にジャケットを羽織るビジネスパーソン。多くの人が、ファッションのために小さな我慢を重ねています。

しかし、本当にファッションと快適さは両立できないのでしょうか。むしろ、ファッションが「我慢」から解放されたときに、そこに全く新しい可能性が開けることもあるのではないか?そんな疑問に一石を投じるブランドが、今、渋谷で新しい提案を発信しています。

日常に潜む「pain」を可視化する

ポストコロナの今、Return to Officeの流れが強まる中、私たちは室内外の寒暖差、満員電車での息苦しさ、スーツの圧迫感、そして巨大化する都市の喧騒といった、日常的な小さなストレスに囲まれています。一つひとつは些細なものかもしれませんが、それらが積み重なることで、私たちの心身には確実に負担がかかっているのです。

今回取材したTEECHIは、このような日常の中で繰り返される場面を「Compassion Quest」と名付け、生活の中の小さなストレスを「pain」として捉え直しています。そして、これらのpainを軽減しながらも、快適に過ごせる服装を提案しているのです。

渋谷スクランブルスクエアの展示会場の入り口には、TEECHIのコンセプトを示すディスプレイが配置されていました。今回、同ブランドの三吉さんが案内役として、革新的な取り組みの数々を紹介してくれました。

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展示会場の入り口にはディスプレイが配置されていて、今回はTEECHIの三吉さんが展示の案内をしてくださりました。

AI×ファッション

今回の特別企画として、AIファッションデザイナーのkinomura mihoさんとコラボレーションし、「AIがデザインして、実際に人間の手によって仕立てられた服」が展示されています。

今後は、AIをさらに取り入れ、パターン作成からソーイングまでを自動化することで、顧客一人ひとりの思いを具現化し、マスカスタマイゼーションを実現したいとのこと。ただし、「クラフトマンシップは大切にしたい」と三吉さんは強調します。

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幾重にも布が重なり合わさったようなスカートのデザイン。白一色でありながらシンプルになりすぎなくて素敵だなと思いました。

このAIによるデザインを実現した服は、渋谷の多様な文化や多層的な側面、全体の特徴となっている様々な形状のポケットは渋谷の混沌とした事物が潜んでいることを表現しているらしいです。

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よく友人と出かけているとき、女性ものの服のポケットは小さいからスマホや長財布がポケットに入りきらずいつも小さなかばんを持ち歩いていて煩わしそうにしていたので、ポケットが多いといいですね(使ったらシルエットが崩れそうな気はしますが、、、本当にこんな使い方していいんですかね)

三吉さんは「AIがデザインしたと聞くと突拍子もないものができそうなものだけど、そうではなく、実際に着れるものを作るためかなり試行錯誤して、プロセスに対してアプローチしていた。今後の展開としてはデザインからパターン化、そしてソーイングに至るまでDX化された、新しい服飾の形を作りたい」と語っていました。

ー要するにAIがお仕着せ品を作るということですか

三吉「そうですね。いずれはここまでDX化したいのですが、しかしそのうえで職人のクラフトマンシップ、日本においてはそこは外せないと思っていてボタン付けであったりそういうものは職人仕事にして、服飾と技術を融合させていきたいと思っています。テクノロジーだけになってはいけないという気持ちはあります。私たちはテクノロジーの会社ではないですからね

ーAIを使ってみて実際に良かったことはありましたか?

三吉「イメージを言語化する過程で共有できたり、みんなの意見をうまく成り立たせてくれました。AIのおかげで方向性をスムーズに定めることができました」と三吉さんは説明します。「思いがあっても、それを言葉や形にできない人の想いを具現化できるのは、今回AIを入れて本当によかった点です」

ーAI以外にも技術を使って服飾の問題を解決する試みはされていますか?

三吉AI以外のテクノロジー活用として、TEECHIは充電式ヒーター内蔵のインナーも開発しています。服を重ねると下に着るものの形が崩れてしまうので、薄くてもあったかいというのはいいことだなと思いますし、温度に合わせて着られる服も増えると思うんですよ」

三吉こちらの商品は、温度は40〜50度まで5度刻みで調整でき、暑すぎる場合はインターロックがかかり、自然に適温を保つ仕組みになっています。ベンチの様な冷たい場所に座るときも快適で、寒さというpainを解消する装置として機能しています」

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充電ケーブルはUSB Type-Cなので、その辺のモバイルバッテリーでも使えて便利です。
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実際に触ってみましたが、タイツ程度の厚さで、服のシルエットを崩したり下に着こんで少しスタイルが悪く見えたり、そういったことはなく快適に「暖かい冬」が過ごせるアイテムでした。

ー昨今話題になっていますが、テクノロジーに関心がある方は男性の方がまだ世間では多いように感じます。なぜをレディースのファッションとテクノロジーを掛け合わせたのですか?

「日常におけるpainをファッションで楽しみながら解消する、というメッセージは女性に対して発信しやすいと考えました。男性の場合は服装に色々な制約がありますが、女性の方が服装の自由度が高い。だから、その自由をさらに広げていくという点で、女性向けが適していると思いました」

ー実際、今回のコレクションで展示されている服についてもっと詳しく聞いてもいいですか?

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今回、三吉さんが紹介してくださったTEECHIの新作ウェア。オフィスなどのフォーマルな場所でも普段使いできつつファッションとしての美しさを維持して、日常のペインを減らす工夫がされており、あまり女性ものの服を観る機会がなかったので終始感心していました。

三吉「先ほどもお話ししましたが、近年コロナが収束してReturn to Officeの流れが顕著です。オフィスに戻るといろんなストレスが生じるときに、自分自身をいたわるというコンパッションにつながるウェアを作っています。

例えば、通常のジャケットの片方の襟をストールにすることによって首回りを守ってマフラーやストールを持ち歩かないで済んだり体をいたわったりできるようになっています。(写真右)

一着の服で持ち物を減らしていろいろな場面で活躍できる服を作っています。

こちらの服では襟をテーラードにすることでフォーマルな場面でも使えるようになっています。(写真中央)ドレスっぽくきれいに着こなすこともできますし、寒暖差が激しい場面でも袖がない分、涼しく着たりインナーによって調整できるかと思います」

ー確かに、、、今の時期は特に寒暖差が激しくて着る服に悩んでしまいますよね。

三吉「今回は『TEECHI 2025 – 2026 WINTER / SPRING COLLECTION』と題した通り、私たちはよく服について「秋冬用の服」というカテゴライズをしますよね。しかし、今の時期秋でも暑く、春でも肌寒い日が続くことが多くなりました。現代の気候に合わせて秋冬ではなくて、シーズンごと冬と春ということで、春にも対応できるようなベージュのセットアップ(写真左)も作っています。こうやってテクノロジーによって現代のストレスを軽減しつつ新しいファッションの可能性を私たちは模索しています」

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TEECHIは「テクノロジーとクラフトマンシップの協働をインタビュー中に何度か強調されていました。ほかのアイテムでもクラフト間のある形状のボタンが使われています。TEECHIを象徴する意匠だなと個人的に感じていました。

【編集部所感】テクノロジーと服飾

日常の中で使う実用品でありつつ、装飾でもある服の面白さに気付かせてくれる取材でした。

歴史の中でファッションと機能性は常に密接に結びついてきました。例えば、秋冬の定番であるツイード生地は、元々はスコットランドの過酷な気候に耐えうる素材として生まれ、いつしかファッションアイテムとして確立されました。また、有名な話ですが、ジーンズも炭鉱労働者が仕事の中で生まれる「ペイン」を少しでも減らすために考案された作業着でした。私たち日本人が明治以降の急速な西洋化の中で機能性の高い洋服を選ぶようになったのも、同じ文脈で理解できます。

AIがデザインをするという試みは、ファッションの民主化という歴史的な流れを新たな段階へと進めるものです。かつて、「オートクチュール」の世界に「プレタポルテ」が登場し、高級ブランドが作り出したデザインがより多くの人々に届くようになりました。そして今、AIの登場によって、私たち一人ひとりがオーダーメイド品を手軽に手に入れられる時代が来るかもしれない。TEECHIの取り組みは、そんな未来を予感させるものでした。

ファッションに限らず、技術や新しい素材は常に人間の生活を変えてきました。TEECHIの今回の試みも、新しい生活様式の到来を予感させる、非常に刺激的なものでした。テクノロジーが人間の創造性を拡張し、日常の小さな「ペイン」に寄り添う服作りが実現する未来。それは、ファッションが再び「機能」と「美」を統合する、新たな進化の段階に入ることを意味しているのかもしれません。

【展示会情報】

TEECHI POP-UP STORE「2025 – 2026 WINTER / SPRING COLLECTION」
期間:2025年10月7日(火)〜10月20日(月)
場所:渋谷スクランブルスクエア 7F イベントスペース L×7
アクセス:各線「渋谷駅」直結

ブランドサイト: https://teechi.jp
Instagram:https://www.instagram.com/teechi_official/
LINE:https://page.line.me/104xbdcc

投稿者アバター
野村貴之
大学院を修了してからも細々と研究をさせていただいております。理学が専攻ですが、哲学や西洋美術が好きです。日本量子コンピューティング協会にて量子エンジニア認定試験の解説記事の執筆とかしています。寄稿や出版のお問い合わせはinnovaTopiaのお問い合わせフォームからお願いします(大歓迎です)。

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