夜間のTwitter投稿がメンタルヘルスに悪影響──ブリストル大学が310人を調査

[更新]2025年10月14日07:54

夜間のTwitter投稿がメンタルヘルスに悪影響──ブリストル大学が310人を調査 - innovaTopia - (イノベトピア)

ブリストル大学の研究チームは、夜間のTwitter(現:X)投稿がメンタルウェルビーイングの悪化と関連していることを明らかにし、Scientific Reports誌に発表した。

研究は「Children of the ’90s」研究に参加した18歳から60歳以上の成人310人のデータを分析し、18,288件のツイートを対象とした。夜間のツイート投稿は参加者のメンタルウェルビーイングの変動の約2%を説明し、これは過去の研究における大量飲酒やマリファナ喫煙と同程度である。

2022年のYouGov調査によると、英国成人の74%が寝室にスマートフォンを置き、26%が夜中に目覚めた際にスマートフォンをチェックすると回答している。研究チームは、夜間のTwitter使用が睡眠を妨害し遅延させることで、睡眠の質と量を低下させ、メンタルウェルビーイングを損なう可能性があると指摘している。

TikTokは2025年3月に「Wind Down」機能を導入し、夜間に瞑想動画を表示している。筆頭著者の博士研究員Daniel Joinsonは、実際のソーシャルメディアデータへのアクセスが、メンタルヘルスとの関係理解に不可欠であると述べた。

From: 文献リンクTweeting at night linked to worse mental well-being

【編集部解説】

この研究が注目に値するのは、これまで「ソーシャルメディアは心の健康に悪い」という漠然とした議論が多かった中で、具体的な行動パターンに焦点を当てている点です。夜間投稿という極めて明確な行動が、メンタルウェルビーイングに及ぼす影響を数値化しました。

興味深いのは、その影響の大きさが「約2%」という数字です。一見小さく感じるかもしれませんが、これは大量飲酒やマリファナ使用と同等の影響力を持つとされています。つまり、何気なく夜中にスマホでポストする行為が、私たちが「問題行動」と認識している活動と同レベルの心理的負荷を生んでいるということです。

研究手法も革新的です。従来の研究は自己申告型のアンケートに頼ることが多かったのですが、本研究では参加者の同意を得た上でTwitterから直接データを取得しています。これにより投稿時刻の正確な測定が可能となり、より信頼性の高いエビデンスが得られました。

ただし留意すべき点もあります。研究はCOVID-19パンデミック中に行われており、この時期は社会的隔離やストレスが高まっていた特殊な状況でした。また参加者はほぼ全員が白人で女性が多いという偏りがあり、結果の一般化には慎重さが求められます。

この研究が示唆するのは、プラットフォーム側の設計思想の重要性です。TikTokの「Wind Down」機能のように、ユーザーを深夜利用から遠ざける仕組みが効果的である可能性があります。テクノロジーが生み出した問題を、テクノロジー自身が解決する「トップダウンアプローチ」の有効性を裏付けています。

長期的には、こうした研究が積み重なることで、ソーシャルメディアプラットフォームに対する規制やガイドラインの整備が進むでしょう。単に「使用時間を減らせ」という抽象的な提言ではなく、「夜間投稿を抑制する」といった具体的で実行可能な施策へとつながる可能性があります。

【用語解説】

メンタルウェルビーイング
精神的な幸福感や充実感を指す概念。単にうつ病や不安障害がない状態を指すのではなく、ポジティブな感情、人生の満足度、自己実現感などを含む、より広範な心の健康状態を表す。

Scientific Reports
Nature Publishingが発行する査読付きオープンアクセス科学誌。自然科学、医学、工学など幅広い分野の研究論文を掲載し、厳格な科学的基準に基づいて審査される。

Children of the ’90s(ALSPAC)
正式名称はAvon Longitudinal Study of Parents and Children。1991年から1992年に英国ブリストル周辺で生まれた約14,000人の子どもとその家族を追跡する大規模長期研究プロジェクト。健康、発達、環境要因などを継続的に調査している。

Short Mood and Feelings Questionnaire(SMFQ)
子どもや青年のうつ症状を測定するための標準的な心理尺度。13項目の質問から構成され、過去2週間の気分や感情を評価する。臨床現場や研究で広く使用されている。

縦断的データ
同一の対象者を長期間にわたって繰り返し調査・測定することで得られるデータ。時間経過に伴う変化や因果関係を分析できるため、横断的データよりも信頼性が高い。

【参考リンク】

Scientific Reports – Nature(外部)
Nature Publishingが発行するオープンアクセスの学術誌。科学的妥当性を重視した査読プロセスを経た研究成果を無料で公開。

YouGov(外部)
英国を拠点とする国際的な市場調査・データ分析企業。政治、経済、社会問題に関する信頼性の高いデータを提供している。

TikTok Wind Down機能(外部)
TikTokが2025年3月に導入した青少年向けのデジタルウェルビーイング機能。夜間に瞑想動画を表示し過度なスクロールを抑制。

【参考記事】

Active night-time tweeting is associated with meaningfully worse mental well-being(外部)
本研究の原著論文。310名の成人を対象に18,288件のツイートを分析し、夜間投稿がメンタルウェルビーイングに与える影響を定量評価。

Nighttime tweeting/mental wellbeing – University of Bristol(外部)
ブリストル大学による公式発表。研究の背景、手法、今後の展開について詳細に解説されている。

Why late night social media posting could be bad for your mental health(外部)
The Independentによる報道。夜間のSNS投稿がメンタルヘルスに及ぼす影響について、専門家のコメントを交えて解説。

【編集部後記】

 

寝る前に「ちょっとだけ」とスマホを手に取り、気づけば深夜までSNSを見ていた――そんな経験、ありませんか?この研究は、夜間のSNS投稿が私たちの心に与える影響を数値化してくれました。興味深いのは、ただ「見る」だけでなく「投稿する」という能動的な行為が、より大きな影響を持つ可能性があるという点です。

みなさんは夜中にポストすることが多いでしょうか?もしそうなら、それが睡眠や翌日の気分にどんな影響を与えているか、少し振り返ってみる価値があるかもしれません。テクノロジーとの付き合い方を見直すきっかけとして、この研究が何かヒントになれば嬉しいです。

投稿者アバター
Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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