Universal Music Groupは10月29日、AI音楽スタートアップUdioとライセンス契約を締結し、著作権侵害訴訟を和解したと発表した。
UdioのAIはテキストプロンプトからボーカルと楽器を含むオリジナル曲を作曲できる。
両社は2026年に、承認・ライセンスされた音楽のみで訓練された新プラットフォームを立ち上げる。UMG、Sony Music Entertainment、Warner Music Groupは2024年、Udioが著作権保護された音楽を無断でAI訓練に使用したとして提訴していた。訴訟ではThe Temptationsの「My Girl」を使って類似曲「Sunshine Melody」を生成したと指摘された。
これはUdioが大手レーベルと結んだ初のライセンス契約である。Udioは2024年に元Google DeepMind従業員が共同設立し、will.i.am、Instagram共同創業者でAnthropicのチーフプロダクトオフィサーMike Krieger、Andreessen Horowitzが支援する。
同社は立ち上げ以来数百万人が利用し、5月のアプリリリース以来AppleのApp Storeで128,000件のダウンロードがあったとAppfiguresは推定する。
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Universal Music Group settles with AI music startup Udio
【編集部解説】
今回のUniversal Music GroupとUdioの和解は、単なる訴訟の終結ではありません。AI音楽をめぐる業界全体のパラダイムシフトを象徴する歴史的転換点です。
2024年6月、UMG、Sony Music、Warner Musicの3大レーベルは、Recording Industry Association of America(RIAA)を通じてUdioとSunoを提訴しました。告訴内容は「ほぼ想像を絶する規模」での著作権侵害でした。訴状では、UdioがThe Temptationsの名曲「My Girl」を無断使用して類似曲「Sunshine Melody」を生成したことなどが指摘され、1作品あたり最大150,000ドルの損害賠償が請求されていました。
わずか16ヶ月後、UMGは訴訟相手だったUdioと「業界初」の戦略的パートナーシップを締結しました。この急激な方向転換の背景には、AI技術の進化スピードと、それに対応しなければ取り残されるという業界の危機感があります。
新プラットフォームの最大の特徴は「ライセンス済み音楽のみでの訓練」です。2026年にローンチ予定のこのサービスは、アーティストのオプトイン方式を採用します。つまり、アーティストは自分の音楽をAI訓練に使用するかどうかを選択でき、使用を許可した場合には訓練段階と生成段階の両方で報酬を受け取る仕組みです。
注目すべきは「ウォールドガーデン」アプローチです。ユーザーが作成した楽曲は外部へエクスポートできず、プラットフォーム内でのみストリーミング、カスタマイズ、共有が可能になります。フィンガープリント技術やフィルタリング機能も実装され、アーティストの権利を技術的に保護します。
一方で、SonyとWarnerはまだUdioとの訴訟を継続中であり、3社すべてがSunoとも係争中です。UMGだけが先行してUdioと和解した理由は、その戦略的判断にあるでしょう。実際、和解発表の翌日10月30日には、UMGはStability AIとも別のパートナーシップを発表し、プロフェッショナル向けAI音楽制作ツールの共同開発を開始しました。
UMGのLucian Grainge会長は「アーティストとソングライターのために正しいことをする」と述べていますが、これは理想論だけではありません。UMGの内部調査によれば、米国の音楽消費者の50%がAIを音楽体験に取り入れることに興味を示しています。市場は既にAI音楽を求めているのです。
Udoの既存サービスは移行期間中も継続されますが、10月30日からエクスポート機能が停止されました。この変更に対してUdioは補償として、すべての加入者に1,000クレジットを付与しています。
今回の和解が業界に与える影響は計り知れません。Sunoは既に1億ドル以上の資金調達を進めており、評価額は20億ドルを超えると報じられています。UMGとの和解により、Udoも同様の大型資金調達が可能になるでしょう。
法的な観点からも重要です。米国著作権局は2025年5月、AI訓練における著作物使用に関する重要なガイダンスを発表しました。そこでは「変革性」と「市場への影響」がフェアユース判断の最重要要素とされています。今回の和解は、訴訟ではなくライセンス契約という形で、この法的グレーゾーンを回避する新しいモデルを提示しました。
グローバルな視点では、EUや日本など各国がAI訓練における著作権の扱いについて異なるアプローチを取っています。UMGのライセンスモデルは、こうした法的枠組みの違いを補完または回避する自主的な解決策として機能する可能性があります。
UMGのデジタル責任者Michael Nashは、偽アーティストについて「一時的な話題性以外にはトラクションがない」と指摘しています。ファンが本当に求めているのは、お気に入りのアーティストとの深いエンゲージメントなのです。2026年の新プラットフォームでは、ユーザーはUMGアーティストの楽曲をリミックスしたり、テンポを変えたり、ボイススワップ機能を使ったりできるようになります。
今回の和解は「AI vs 人間」という単純な対立構図を超えて、「AIと人間の協働」という新しいフェーズへの移行を示しています。訴訟と協力を使い分けるUMGの二面戦略は、おそらく今後の業界標準となるでしょう。ライセンスを遵守するAI企業とは協力し、そうでない企業には法的措置を取る——このアプローチは、音楽産業がNapster時代から学んだ教訓の集大成とも言えます。
【用語解説】
RIAA(Recording Industry Association of America)
米国レコード協会。アメリカの音楽業界を代表する業界団体で、UMG、Sony Music、Warner Musicなど主要レーベルが加盟する。著作権保護、業界調査、ゴールド・プラチナ認定などを実施している。
フェアユース
著作権法における公正使用の原則。米国では教育、批評、研究などの目的であれば、著作権者の許可なく著作物を使用できる場合がある。AI訓練におけるフェアユース適用が現在の法的争点となっている。
ウォールドガーデン
クローズドな環境を指すIT用語。今回のUdio新プラットフォームでは、生成された楽曲を外部へエクスポートできず、プラットフォーム内でのみ利用可能とすることで、アーティストの権利を保護する仕組みである。
フィンガープリント技術
音楽や動画などのデジタルコンテンツに固有の識別子を付与する技術。著作権保護やコンテンツ管理に使用され、不正使用の検出や追跡が可能になる。
オプトイン
利用者が自ら積極的に同意・参加する方式。今回のUdioとの契約では、UMGのアーティストが自分の音楽をAI訓練に使用するかどうかを選択でき、参加した場合に報酬を受け取れる仕組みを指す。
【参考リンク】
【参考記事】
【編集部後記】
AIと人間のクリエイティビティの関係について、みなさんはどのようにお考えでしょうか。今回のUMGとUdioの和解は、「対立」から「協働」への大きな転換点を示しています。アーティストがAI訓練への参加を自ら選択し、その対価を受け取る——このオプトイン方式は、技術と創造性の新しい共存モデルかもしれません。一方で、プラットフォーム内に閉じ込められた音楽が本当の意味での「創造」なのか、という問いも残ります。2026年にローンチされる新プラットフォームが、音楽の未来をどう変えていくのか。innovaTopia編集部も、みなさんと一緒にこの変化を見守っていきたいと思います。
























