米国フロリダ州を拠点とする警察・消防・軍向けミッションクリティカル無線機メーカーのBK Technologiesは、2025年9月20日頃にサイバー攻撃を受けたことを認めた。
同社はSECへの提出書類で、限定的な数の非重要システムが混乱したものの、業務は継続されたと述べている。権限のない第三者が侵入に成功し、現職および元従業員の記録を含む可能性のある非公開情報が窃取された。影響を受けた個人の数やデータの詳細内容は明らかにされていない。
同社は外部のインシデント対応チームを召集し、法執行機関に通報済みである。侵入者は既に排除され、すべてのシステムへのアクセスが復旧した。クリーンアップコストの大部分は保険でカバーされる見込みで、貸借対照表への影響はないとしている。現時点でサイバー攻撃の犯行声明は出ておらず、顧客への直接的な影響も明らかにされていない。
From: Police and military radio maker BK Technologies cops to cyber break-in
【編集部解説】
今回のBK Technologiesへのサイバー攻撃は、公共安全インフラの脆弱性という極めて重要な問題を浮き彫りにしています。同社が製造する無線機器は、警察、消防、救急サービス、さらには軍事部門で使用される「ミッションクリティカル」な通信機器です。つまり、災害時や緊急時に他のすべての通信手段が失敗した際の最後の砦として機能する製品群を扱っています。
注目すべきは、攻撃者が従業員データを標的としたという点です。ミッションクリティカル機器メーカーの従業員情報には、セキュリティクリアランスレベル、担当プロジェクト、技術的専門知識といった機密性の高い情報が含まれる可能性があります。これらの情報は、将来的なより高度な攻撃の足がかりとして悪用される恐れがあります。
幸いにも、今回の攻撃では製品そのものへの侵害や顧客データの流出は報告されていません。しかし、緊急通信インフラを支える企業のセキュリティ侵害は、たとえ限定的であっても社会的信頼に大きな影響を与えます。特に、記事内で言及されているTETRA無線システムの脆弱性問題など、公共安全通信分野全体でサイバーセキュリティへの注目が高まっている時期だけに、この事件のタイミングは示唆的です。
同社が保険でコストをカバーできると述べている点も興味深い側面です。サイバーセキュリティ保険市場の成熟を示すと同時に、こうした攻撃が「起こり得るリスク」として既に織り込まれている現実を物語っています。
【用語解説】
ミッションクリティカル通信
人命や公共の安全に直結する重要通信システムを指す。警察、消防、救急サービスなどが使用し、災害時や緊急時にも確実に機能することが求められる通信インフラである。一般的な商用通信とは異なり、極めて高い信頼性と可用性が必要とされる。
TETRA(Terrestrial Trunked Radio)
欧州を中心に緊急サービスや公共機関で広く採用されているデジタル業務無線通信規格。警察、消防、救急サービスなどで使用されているが、近年セキュリティ上の脆弱性が指摘されている。
SEC(米国証券取引委員会)
米国の上場企業を監督する連邦政府機関。企業は重大なサイバーセキュリティインシデントを含む投資家に影響を与える可能性のある事象をSECに報告する義務がある。
【参考リンク】
BK Technologies公式サイト(外部)
フロリダ州に本社を置く公共安全通信機器メーカー。警察、消防、軍向けに耐久性と信頼性を重視したハンドヘルド無線機や車載無線機を製造・販売
【参考記事】
Hackers Stole Data From Public Safety Comms Firm BK Technologies(外部)
公共安全通信企業BK Technologiesからハッカーがデータを窃取。2025年9月20日に不審な活動を検知し、現職および元従業員の個人情報が侵害された可能性
BK Technologies reports cybersecurity incident affecting employee data(外部)
BK Technologiesが従業員データに影響を与えるサイバーセキュリティインシデントを報告。外部の専門家を招集し、影響を受けた個人への通知プロセスを開始
Persistent Disruptive Cyber Activity Impacting U.S. Public Safety Mission Critical Services(外部)
米国の公共安全ミッションクリティカルサービスに影響を与える持続的なサイバー活動についての白書。緊急通信インフラへのサイバー脅威を詳細に分析
【編集部後記】
私たちの日常を支える緊急通信インフラが、実は思っている以上に脆弱な状態にあるかもしれません。警察や消防の無線機メーカーへの攻撃は、一見遠い世界の出来事のように思えますが、災害時や緊急時に命を守る「最後の砦」のセキュリティが問われている事例です。
皆さんは、自分の地域で使われている緊急通信システムがどのように守られているか、考えたことはありますか?テクノロジーの進化とともに、こうしたミッションクリティカルなシステムへのサイバー脅威も高度化しています。今後、こうした公共安全インフラのセキュリティは、私たち一人ひとりの安全に直結する重要なテーマになっていくはずです。