中国と米国に拠点を置くARスタートアップRokidは、クラウドファンディングサイトKickstarterでスマートグラス「Rokid Glasses」のキャンペーンを開始した。開始から1週間未満で調達額は870万香港ドル(約120万米ドル)に達し、100万ドルを突破した。製品の重量は49gで、Qualcomm Snapdragon AR1とNXPのRT600を搭載する。輝度1500ニトのデュアル緑色マイクロLEDディスプレイと12MPカメラを備え、最大2,400×1,800のビデオが撮影可能である。機能にはChatGPTと内蔵LLMを活用した検索や翻訳が含まれる。キャンペーンは2025年10月10日に終了予定で、100万ドル突破により支援者は99ドル相当の充電ケースを受け取る。現在の支援額は549ドルからである。
From: Rokid Glasses Raise Over $1M in First Week, Proving Strong Demand for Display-clad Smart Glasses
【編集部解説】
2025年、スマートグラス市場が新たな局面を迎えたことを象徴するニュースです。中国と米国に拠点を置くRokid社が発表した「Rokid Glasses」が、クラウドファンディングで驚異的な成功を収めました。これは、多くの人々が単なる音声アシスタント機能だけでなく、「視界に情報を表示する」機能をスマートグラスに求め始めた明確な証拠と言えるでしょう。
Meta社が展開するRay-Ban Metaのように、カメラとオーディオに機能を絞った製品が市場の土壌を耕しました。しかしRokid Glassesは、日常使いできるデザインを維持しつつ、視界に情報を投影するディスプレイを搭載するという、誰もが思い描いた「未来のメガネ」へ着実に一歩駒を進めています。今回の熱狂的な支持は、市場が次の進化を待ち望んでいたことの現れに他なりません。
この製品の技術的な核心の一つが、あえて「緑色単色マイクロLEDディスプレイ」を採用した点です。フルカラーではなく単色に絞ることで、屋外でも文字をはっきりと認識できる1500ニトという高い輝度と、長時間の利用を可能にする低消費電力を両立させています。これは、現在の技術で「毎日使える」体験を最大化するための、非常に現実的で賢明な選択です。
Rokid Glassesがもたらすのは、スマートフォンをポケットから取り出すことなく、視線を少し動かすだけで情報を得られる世界です。例えば、初めての場所での道案内、外国語のリアルタイム翻訳、重要な会議の文字起こしなどが、ハンズフリーで実現します。ChatGPTのような生成AIとの連携は、単なる情報表示デバイスに留まらず、ユーザーの状況を理解し、能動的にサポートする「視覚的なAIアシスタント」としての可能性を秘めています。
もちろん、課題も存在します。カメラを搭載したデバイスが普及することによるプライバシーへの懸念は、社会的なコンセンサス形成が不可欠なテーマです。また、常に視界に情報が表示されることによる認知的な負荷や、いわゆる「歩きスマホ」ならぬ「歩きグラス」が新たな社会問題を引き起こす可能性も考慮しなければなりません。
Rokid Glassesの成功は、完璧なAR(拡張現実)グラスが登場するまでの「過渡期」の製品が、いかに市場に受け入れられるかを示す重要な試金石です。見た目の普通さと、実用的な機能性のバランスをどこに見出すか。この問いに対する一つの答えが、今回の成功につながったのではないでしょうか。今後、大手テック企業もこの流れを無視できず、開発競争はさらに加速していくことが予想されます。
【用語解説】
- マイクロLEDディスプレイ (Micro-LED Display)
次世代の自発光ディスプレイ技術だ。極めて小さいLEDを画素として利用し、高輝度、高コントラスト、低消費電力、長寿命を特徴とする。ARグラスのような小型デバイスに適している。 - バードバス光学系 (Birdbath Optics)
ARグラスで広く採用されている光学方式の一つ。ディスプレイの映像をハーフミラーに反射させ、利用者の目に届ける仕組みである。比較的安価で小型化しやすい利点がある。 - クラウドファンディング (Crowdfunding)
インターネットを介して、不特定多数の人々からプロジェクトや製品開発のための資金を調達する仕組みのことだ。市場の需要を測るテストマーケティングとしても機能する。 - ニト (nit)
輝度を示す単位。1ニトは1平方メートルあたり1カンデラの明るさに相当する。Rokid Glassesの1500ニトは、一般的なスマートフォンの最大輝度を大きく上回り、直射日光下でも高い視認性を確保できることを示す。
【参考リンク】
【参考記事】
【編集部後記】
今回話題に上げた「Rokid Glasses」の機能、性能についてはこちらの記事にて詳しく説明されています。

かつてSF映画で描かれた未来が、少しずつ私たちの日常に近づいているのを感じます。
「Rokid Glasses」のようなデバイスを手に入れたら、日々の生活や仕事、あるいは創造的な活動にどのように活用されていくのか気になります。今回クラウドファンディング等で大成功した事例は世間がこの手のデバイスに強い関心を示していることがよくわかります。今後業界がどのような反応を示していくのか非常に興味深い記事でした。