Metaは9月17日〜18日に開催される開発者会議「Connect 2025」の詳細を発表した。今回の会議はスマートグラス技術に重点を置いた内容となる予定である。
複数の報告によると、Metaは「Hypernova」というコードネームを持つ新しいスマートグラスを準備しており、価格は約800ドルと予想されている。この製品はRay-Banとの協業ではなく、Meta単独のプロジェクトになる可能性が高い。デバイスには単眼式ヘッドアップディスプレイと手首装着型筋電図ベースのコントローラーが搭載されると報じられている。
会議では9月17日にマークザッカーバーグによるAIグラスとメタバースに関する基調講演が行われ、翌18日には開発者向け基調講演と「コンピューティングの未来」をテーマとした対談が予定されている。対談ではコンテキストAIを持つグラスの未来についても語られる予定だ。Meta CTO Andrew Bosworthは「大きなウェアラブル発表」があることを示唆している。
From: Meta Connect is Shaping Up to Be Very Much About Smart Glasses …
【編集部解説】
Meta Connect 2025における最大の注目点は、Hypernovaの筋電図リストバンドコントローラーが「実用段階」に到達したことです。これまでプロトタイプレベルだった表面筋電図技術が、開発者会議で正式に披露される段階まで進歩したことは、ウェアラブル業界全体にとって転換点となります。
従来のスマートグラス操作は音声コマンドやタッチパッドに依存していましたが、Hypernovaの筋電図リストバンドは「意図検出」という技術を導入しました。実際に指を動かす前の筋肉収縮パターンを読み取ることで、ユーザーが考えただけで操作が完了する体験を実現します。
技術的な突破口は、Meta社のCTRL Labs(2019年買収)による長期研究の成果です。同技術によりユーザーの個別キャリブレーションが大幅に簡素化され、従来の筋電図デバイスが抱えていた「使い始めの壁」が解消されました。Apple Vision Proのカメラベース追跡とは異なり、筋肉の電気信号を直接読み取る方式により、より直感的でプライベートな操作環境を実現しています。
製品の販売形態について、CNBCをはじめとする主要メディアはEssilorLuxotticaとの協業を報告している一方、一部のリーク情報ではMeta単独プロジェクトの可能性も示唆されており、詳細は9月17日の正式発表で明らかになる予定です。Economic Timesによると、MetaはEssilorLuxotticaの約3%の株式を取得し、数年間にわたるスマートグラス技術の独占使用権を確保しています。
Connect 2025での発表により、開発者エコシステムが本格始動することで、筋電図操作がニッチな研究段階から実用的なインターフェースへと移行する可能性が高まります。しかし、約20度の限定的な視野角や従来モデルより重い筐体など、商用化に向けた技術的制約も残されており、今回の開発者向けSDK公開がこれらの問題解決にどこまで貢献するかが今後の普及を左右するでしょう。
価格戦略については特に注目すべき点があります。 当初1,000-1,400ドルと予想されていた価格が約800ドルまで引き下げられており、Metaが利益率よりも市場普及を優先する戦略を明確に示しています。Apple Vision Proの3,499ドルと比較すると、消費者にとってより現実的な価格帯での AR体験の入り口となることが期待されます。
【編集部注】
本記事作成時点において、Hypernova(別名Celeste)の販売形態について、CNBC、Economic Times、ITP.netなどの主要メディアはEssilorLuxotticaとの協業を明記している一方、一部のリーク情報やデータマイニング結果では Meta単独プロジェクトの可能性も示唆されています。最終的な詳細については、2025年9月17日のMeta Connect 2025基調講演での公式発表をお待ちください。
【用語解説】
Hypernova:Metaが開発中の新型スマートグラスのコードネーム。右側レンズの下部に小型ディスプレイを内蔵し、約800ドルで販売予定の製品。
ヘッドアップディスプレイ:運転者や操作者が前方を見たまま必要な情報を確認できるディスプレイシステム。Hypernovaでは単眼式で右側レンズに搭載される。
筋電図:筋肉の電気活動を測定する技術。手首の筋肉収縮を検知し、指の微細な動きを読み取ってデバイス操作を可能にする。
Meta Connect:Metaが毎年開催する開発者向けカンファレンス。VR、AR、メタバース技術の最新動向を発表する場として位置づけられている。
コンテキストAI:ユーザーの状況や環境に応じて適切な情報提供や支援を行うAI技術。スマートグラスと組み合わせることで状況認識型の体験を実現。
表面筋電図:皮膚表面から筋肉の電気活動を非侵襲的に測定する技術。Metaのリストバンドコントローラーに採用されている。
Reality Labs:Metaのハードウェア開発部門。VR、AR、スマートグラス技術の研究開発を担当し、次世代コンピューティングプラットフォームを目指している。
Orion:Metaが開発している本格的なAR(拡張現実)グラス。Hypernovaより高度な機能を持つ将来製品として位置づけられている。
【参考リンク】
Meta公式サイト – AIグラス(外部)
MetaのRay-Ban MetaやOakley Metaスマートグラス製品の公式情報、機能詳細、購入ページ。
Meta Connect 2025公式サイト(外部)
9月17日-18日開催のMeta Connect 2025の公式アジェンダ、基調講演の詳細。
Meta – ソーシャルテクノロジー企業(外部)
Meta社の企業概要、技術開発方針、Reality Labsの取り組み、メタバース戦略について。
EssilorLuxottica(外部)
世界最大の眼鏡メーカーEssilorLuxotticaの公式サイト。Ray-Ban、Oakley等の傘下ブランド、Metaとの協業情報、企業戦略について掲載。
【参考動画】
【参考記事】
Meta to unveil Hypernova smart glasses with a display, wristband at Connect(外部)
CNBCによるHypernova発表予測記事。右側レンズの小型ディスプレイと筋電図リストバンドの詳細を報告。
Meta’s Hypernova AI Glasses Are Wildly Smart – Here’s Why(外部)
Hypernovaの技術的革新性とAI統合機能に焦点を当てた解説記事。コンパクトディスプレイ技術を分析。
More Than Hype? Meta’s Hypernova Specs Could Replace Your Phone(外部)
XR Todayによる市場分析記事。Hypernovaの価格戦略とスマートフォン代替可能性を詳細検討。
Meta’s Smart Glasses With Built-In Display May Launch Next Month(外部)
PC Magazineによる製品仕様と価格戦略の分析記事。Qualcommチップ搭載と技術詳細を報告。
Meta Details EMG Wristband Gestures You’ll Use To Control AR Glasses(外部)
Upload VRによる筋電図技術の詳細解説記事。Nature誌発表論文に基づく技術的背景を分析。
Meta’s Reported $800 Smart Glasses with Display Won’t Be Big Sellers(外部)
Ming-Chi Kuoによる供給チェーン分析記事。HypernovaのQ3 2025量産開始予定と2年間で15万〜20万台の出荷予測を詳細分析。
【編集部後記】
Meta Connect 2025でのHypernova発表は、ウェアラブル業界にとって歴史的転換点となる可能性を秘めています。特に注目すべきは、筋電図リストバンドという革新技術が「実験段階」を脱し、実用化の扉を開いたことです。これまで数年間、研究開発レベルに留まっていた生体信号インターフェースが、ついに消費者向け製品として市場に投入される段階まで到達しました。
800ドルという価格設定は戦略的に興味深い選択です。AppleのVision Proが3,499ドル、Microsoft HoloLensが3,000ドル超という現状において、Metaは明らかに「普及価格帯」を狙っています。しかし、この価格で本当にスマートフォンを代替できるほどの体験を提供できるでしょうか?また、EssilorLuxotticaとの協業を離れることで失われるブランド力と、Meta単独で獲得できる技術的自由度のトレードオフは適切でしょうか?
最も重要な疑問は、社会受容性の問題です。常時装着される視覚デバイスは、周囲の人々にとって「監視されている」感覚を与える可能性があります。Googleグラスが直面した社会的反発を、Metaはどのように回避するつもりでしょうか?筋電図センサーが収集する生体データのプライバシー保護も含め、技術的革新と社会的責任の両立が、Hypernovaの真の成功を左右することになるでしょう。