Pico 2026年モデル、4K micro-OLED×専用パススルーチップ搭載でVision Pro対抗へ

 - innovaTopia - (イノベトピア)

ByteDanceのテクノロジー担当副社長Yang Zhenyuan氏は、2025年の同社奨学金授賞式で、Picoの2026年モデルヘッドセットの詳細を明らかにした。このヘッドセットには4000 PPI(ピクセル・パー・インチ)のカスタムmicro-OLEDパネルが搭載され、Samsung Galaxy XRやShiftall MeganeXと同等のピクセル密度を実現する。

さらに自社開発の専用パススルーチップを搭載し、カラーカメラのリアルタイム処理を12ミリ秒未満で行う。パススルー専用チップを持つのはApple Vision ProのR1チップのみであり、PicoはQualcomm XR2 Gen 2のISPのみを使用する競合を超える品質を目指している。今年初めの報道では、Picoがケーブル接続式の超軽量ヘッドセットも開発中とされており、2026年モデルとの関係は不明である。

From: 文献リンクPico’s 2026 Headset To Have 4K Micro-OLED Displays & An R1-Style Chip – UploadVR

【編集部解説】

今回の発表で特に注目すべきは、ByteDanceが専用パススルーチップの自社開発に踏み切った点です。現在、ほとんどのVR/MRヘッドセットはQualcommのSnapdragon XR2シリーズに統合されたISP(Image Signal Processor:イメージ・シグナル・プロセッサー)を使用してパススルー処理を行っています。Qualcommは12ミリ秒のレイテンシを実現していますが、Picoは同等の性能を専用チップで達成することで、メインプロセッサの負荷を軽減し、より高度なMR体験を可能にする狙いがあると考えられます。

micro-OLEDディスプレイの4000 PPIという仕様は、現在の技術水準では最高クラスに位置します。LG Displayが2024年に発表した1.3インチのOLEDoS(OLED on Silicon)も同様のピクセル密度を実現していますが、これをヘッドセットに実装するには製造コストや量産体制の確立が課題となります。ただし、高いピクセル密度は「スクリーンドア効果」(画素の格子が見える現象)を大幅に軽減し、長時間の使用でも目の疲労を抑える効果が期待できます。

パススルーのレイテンシが12ミリ秒未満という数値は、VR酔いの防止において極めて重要な意味を持ちます。人間の視覚システムは、頭を動かしてから映像が更新されるまでの遅延が20ミリ秒を超えると違和感を覚え、これが蓄積すると吐き気や頭痛などの症状を引き起こします。Apple Vision ProのR1チップも同じ12ミリ秒という基準を満たしており、Picoがこれに追随することで、業務用途や長時間のエンターテインメント利用が現実的になってきます。

一方で懸念材料もあります。ByteDanceは2021年にPicoを約9億ドルで買収しましたが、2023年には大規模なリストラを実施し、VR事業の方向性が揺らいだ経緯があります。ハイエンド路線への転換は技術的には正しい選択ですが、Apple Vision Proが3499ドルという価格設定で市場の反応が限定的だったことを考えると、Picoがどの価格帯でこの製品を投入するかが成否の鍵を握るでしょう。特に中国市場ではMetaのQuestシリーズが販売されていないため、国内での優位性は保てるものの、欧米市場での競争力確保には慎重な戦略が求められます。

【用語解説】

micro-OLED
単結晶シリコンウェハーを基板として使用する小型ディスプレイ技術。自発光型で高いピクセル密度を実現でき、VR/ARデバイスに最適とされる。

PPI(pixels per inch)
1インチあたりのピクセル数を示す解像度の指標。数値が高いほど画素密度が高く、VRヘッドセットでは「スクリーンドア効果」の軽減に寄与する。

パススルー
VR/MRヘッドセット装着時に外部カメラの映像を表示する機能。現実空間とデジタル情報を融合させたMR体験を実現する上で重要な技術。

R1チップ
Apple Vision Proに搭載された専用チップ。12ミリ秒の光子間レイテンシーでパススルー映像を処理し、VR酔いを防ぐ低遅延を実現している。

ISP(Image Signal Processor)
カメラからの映像信号を処理する専用プロセッサ。Qualcomm XR2シリーズでは統合型ISPがパススルー処理を担当している。

Qualcomm XR2 Gen 2
Qualcommが開発したVR/MR向けのチップセット。Samsung Galaxy XRなど多くのヘッドセットで採用され、統合ISPでパススルー処理を行う。

スクリーンドア効果
VRヘッドセットで画素間の格子が見える現象。ピクセル密度が低いと顕著に現れ、没入感を損なう要因となる。

【参考リンク】

PICO公式サイト(外部)
ByteDance傘下のPICOブランドの公式サイト。Pico 4 Ultraをはじめとする製品ラインナップ、技術仕様、対応コンテンツなどを確認できる。

Apple Vision Pro技術仕様(外部)
Apple Vision ProのM5チップとR1チップの詳細な技術仕様を掲載。R1チップの12ミリ秒レイテンシーやメモリ帯域幅などの公式情報が確認できる。

Qualcomm Snapdragon XR2 Gen 2(外部)
多くのVR/MRヘッドセットで採用されているQualcommのXR2 Gen 2プラットフォームの公式製品ページ。統合ISPの仕様や性能情報を提供。

【参考動画】

今回のPico 2026年モデルのニュースについて、4K micro-OLEDディスプレイと専用パススルーチップの技術的意義を解説する動画。

【参考記事】

Pico’s 2026 Headset To Have 4K Micro-OLED Displays & An R1-Style Chip – UploadVR(外部)
ByteDanceの副社長Yang Zhenyuan氏が2025年の奨学金授賞式で明らかにしたPicoの2026年モデルヘッドセットの詳細を報じた記事。4000 PPIのmicro-OLEDディスプレイと自社開発の専用パススルーチップ搭載が明らかになった。

ByteDance says committed to VR business Pico after report – Reuters(外部)
2023年10月にPico事業縮小の報道を受けてByteDanceが発表した声明を報じた記事。約半数の従業員が退職したものの、長期的にXR市場への投資を継続すると表明した経緯が記録されている。

ByteDance Unveils Advanced XR Headset: Pico 4 Ultra – VRS(外部)
2024年9月に発売されたPico 4 Ultraの詳細を報じた記事。Qualcomm XR2 Gen 2搭載、32MPのRGBカメラによるパススルー機能など、現行世代の技術仕様を確認できる。

次世代のVR/ARデバイスを支える「マイクロOLED」技術に注目せよ – Mogura VR(外部)
micro-OLED技術の基礎から最新動向までを解説した日本語記事。シリコン基板を使用する製造プロセスと高ピクセル密度実現のメカニズムについて詳しく説明されている。

Understanding Latency in VR: The Key to Enhancing Virtual Reality Experience – Pimax(外部)
VRにおけるレイテンシーの重要性を解説した記事。20ミリ秒を超える遅延がVR酔いを引き起こすメカニズムと、低遅延実現の技術的課題について詳述している。

【編集部後記】

ByteDanceが専用チップ開発に踏み切った背景には、単なる性能向上以上の戦略があるのかもしれません。Vision Proが3499ドルという価格で苦戦する中、Picoはどの価格帯でこの技術を提供するのでしょうか。また、超軽量モデルとハイエンドモデルの両方を開発しているという報道もあり、製品戦略の全貌が見えてきません。中国国内ではMetaが不在のため優位性を保てますが、欧米市場での競争力確保には慎重なポジショニングが必要です。micro-OLEDの量産体制と専用チップのコスト構造が、2026年のMR市場の勢力図を大きく変える可能性があります。

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。 デジタルエンターテインメントの未来形がいかに人間の認知と感情に働きかけるかを分析し、テクノロジーが創造する新しい未来の可能性を追求しています。

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