AlibabaがスマートグラスQuark AI Glasses発表、中国市場でMeta Ray-Banに対抗

[更新]2025年11月27日

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Alibabaは2025年11月27日、AI搭載スマートグラス「Quark AI Glasses」を発売した。製品は2つのバリエーションで展開され、S1モデルが536ドルからG1モデルが約268ドルからとなっている。

デバイスにはAlibabaのQwen AIモデルが統合されており、新たにローンチされたQwenアプリとも連携する。レンズは実質的にスクリーンであり、フレームにはカメラが組み込まれている。主な機能として、移動中の翻訳、AI生成の議事録、バーチャルアシスタントへの質問、Taobaoでの価格表示などが含まれる。当初は中国で発売され、XiaomiやXrealなどの国内企業と競合する。

Omdiaの予測によると、AIグラスの出荷台数は2026年までに1,000万台を超え、2025年から倍増する見込みだ。AlibabaのQwenアプリはパブリックベータローンチの最初の1週間で1,000万ダウンロードを記録している。

From: 文献リンクAlibaba’s AI glasses to rival Meta go on sale for $500

【編集部解説】

Alibabaが発表したQuark AI Glassesは、同社にとってスマートグラス市場への本格的な参入を意味します。これまでクラウドやAIモデルの開発に注力してきた同社が、ハードウェアという新たな領域へ踏み出したことは、AI競争が次のフェーズに移行していることを示しています。

製品ラインナップは2種類で、上位モデルのS1は536ドルから、下位モデルのG1は約268ドルからとなっています。最大の違いはディスプレイの有無です。S1には半透明のマイクロLEDディスプレイが搭載されており、視界にコンテキスト情報を重ねて表示できます。一方、G1はディスプレイを省略することで価格を抑え、音声とカメラ機能に特化した設計となっています。

技術的な特徴として、両モデルともQualcommのSnapdragon AR1プラットフォームを採用しており、AI処理に最適化されたニューラルプロセッシングユニットを搭載しています。S1の詳細なスペックとしては、Sony製IMX681センサー(12MP、109度視野角)、骨伝導マイクを含む5つのマイクロフォン、デュアル10mmスピーカー、交換可能な280mAhバッテリーなどが含まれます。バッテリーは約7時間アクティブ使用/スタンバイ25時間程度持続し、複数の充電方法が用意されているため、実用性の高い設計となっています。

Alibabaがこのタイミングでスマートグラスをリリースした背景には、同社のAI戦略の転換があります。11月に公開されたQwenアプリは、公開ベータの最初の1週間で1,000万ダウンロードを記録し、消費者向けAI市場での強い需要を証明しました。このモメンタムを活かし、ハードウェアとソフトウェアを統合したエコシステムを構築することで、ユーザーをAlibabaのプラットフォームに囲い込む狙いがあります。

特筆すべきは、Alibabaの既存サービスとの深い統合です。Taobaoでの価格検索、Alipayでの決済、Fliggyでの旅行予約、AutoNaviでのナビゲーションなど、中国国内で広く使われているサービスと連携することで、他社製品にはない利便性を提供します。これはMetaやAppleとは異なる、中国市場に特化した戦略といえます。

市場環境を見ると、スマートグラス市場は急速な成長期に入っています。Omdiaの予測によれば、AIグラスの出荷台数は2025年に510万台、2026年には1,000万台を超え、2030年までに3,500万台に達する見込みです。特に中国市場は、2026年に120万台(世界シェア12%)に達すると予測されており、Alibaba、Xiaomi、Xreal、Rokidなど国内企業の激しい競争が展開されています。

Xiaomiは1,999元(約278ドル)という価格で参入し、3週間で完売しました。Xrealは600ドル前後のAR特化モデルで差別化を図り、GoogleのAndroid XRプラットフォームとのパートナーシップも発表しています。この価格帯の多様化により、消費者は自身のニーズに合った製品を選びやすくなっています。

一方、Metaは799ドルのRay-Ban Display Glassesでハイエンド市場をターゲットとしています。Meta Neural Bandという手首装着型デバイスによるジェスチャーコントロール、5,000ニットの高輝度ディスプレイ、リアルタイムキャプションと翻訳機能など、技術的に先進的な機能を搭載しています。Meta製品の市場シェアは2025年前半で73%に達しており、スマートグラス市場の事実上の標準となりつつあります。

しかし、Alibabaには独自の強みがあります。中国国内に600店舗以上の販売網を持ち、Tmall、JD.com、Douyinといった主要ECプラットフォームでも販売されています。2026年には国際展開も予定されており、AliExpressを通じて海外市場にもアクセス可能になります。

スマートグラスが次世代のコンピューティングデバイスになるかどうかは、まだ不確定です。プライバシー懸念、社会的受容性、バッテリー寿命、アプリエコシステムの構築など、克服すべき課題は多く残されています。しかし、主要テック企業がこぞって参入していることは、この市場の将来性への期待の高さを示しています。

Alibabaにとって、Quark AI Glassesは単なるハードウェア製品ではなく、AI企業としての総合力を示すショーケースです。Qwen AIモデル、マルチモーダル処理能力、既存サービスとの統合、そしてハードウェア設計能力を組み合わせることで、他社とは異なる価値提案を行っています。この製品の成否は、Alibabaの消費者向けAI戦略全体の行方を左右する重要な試金石となるでしょう。

【用語解説】

Qwen(通義千問)
Alibabaが開発した大規模言語モデル(LLM)。ChatGPTに相当する中国のAIアシスタントで、テキスト生成、翻訳、画像認識など多様な機能を持つ。2025年11月にリリースされたQwenアプリは、公開ベータ初週で1,000万ダウンロードを記録した。

Snapdragon AR1
Qualcommが開発したAR(拡張現実)グラス専用のチップセット。AI処理に最適化されたニューラルプロセッシングユニット(NPU)を搭載し、低消費電力で高度な演算処理を実現する。

マイクロLEDディスプレイ
微細なLEDを使用した次世代ディスプレイ技術。高輝度、高コントラスト、低消費電力が特徴で、スマートグラスのような小型デバイスに適している。

骨伝導マイク
骨の振動を通じて音声を伝達する技術。周囲の雑音に影響されにくく、クリアな音声入力が可能になる。

Omdia
英国に拠点を置く調査会社。テクノロジー、メディア、通信業界の市場調査とコンサルティングを専門とする。

【参考リンク】

Alizila(外部)
Alibabaグループの公式ニュースサイト。企業の最新製品、技術革新、ビジネス戦略に関する第一次情報を提供している。

Taobao(淘宝網)(外部)
Alibabaが運営する中国最大級のオンラインショッピングプラットフォーム。Quark AI Glassesの画像認識機能と連携し、商品価格を即座に表示する。

Qualcomm Extended Reality(外部)
QualcommのAR/VR技術に関する公式ページ。Snapdragon AR1プラットフォームの技術仕様と搭載デバイスの情報を掲載。

Omdia(外部)
テクノロジー市場の調査・分析を専門とする企業。スマートグラス市場の出荷予測や業界トレンドのレポートを提供。

Xreal(外部)
中国のARグラス専門メーカー。消費者向けの軽量ARグラスを開発し、GoogleのAndroid XRプラットフォームとのパートナーシップを発表している。

Meta AI Glasses(外部)
MetaのスマートグラスおよびAIグラス製品ラインの公式ページ。Ray-Ban Metaシリーズの機能、価格、購入方法を紹介。

【参考記事】

Alibaba unveils its first self-developed AI glasses with swappable batteries, POV camera & Qwen assistant(外部)
Quark AI Glasses S1の詳細な技術仕様を掲載。デュアルマイクロLEDライトエンジン、2,300ニットの輝度、Sony IMX681センサー情報を提供。

Alibaba Launches New Quark AI Glasses Series in China, Deeply Integrated with Qwen(外部)
Alibabaの公式発表による製品ラインナップと価格情報。S1とG1のバリエーション、Qwenアプリとの統合について詳述。

AI glasses market poised to hit 10 million units in 2026, Omdia forecasts(外部)
Omdiaによる市場予測レポート。2025年に510万台、2026年に1,000万台超、2030年に3,500万台という成長予測を提示。

Global Smart Glasses Shipments Soared 110% YoY in H1 2025, With Meta Capturing Over 70% Share(外部)
Counterpoint Researchによる市場シェア分析。2025年前半の市場は前年比110%成長し、Metaが73%のシェアを獲得。

Meta Ray-Ban Display Review: First Generation Heads-Up Mobile Computing(外部)
Meta Ray-Ban Display Glassesの詳細レビュー。799ドルの価格、Meta Neural Bandによるジェスチャーコントロール、実用性と課題を評価。

Xiaomi enters ‘smart glasses war’ with first AI-powered eyewear(外部)
Xiaomiの初のAIグラスの詳細。1,999元(約278ドル)という価格設定、12MPカメラ、Qualcomm AR1チップ、8.6時間のバッテリー寿命を紹介。

China New Growth: Smart glasses captivate consumers, sales surge(外部)
中国市場におけるスマートグラスの急成長を報告。Rayneo、Xreal、Meizuなど国内メーカーの販売実績、産業用途での効率改善事例を紹介。

【編集部後記】

スマートグラスは、スマートフォンに次ぐ「次世代デバイス」として長らく語られてきましたが、ようやく実用的な段階に到達しつつあります。Alibabaの参入は、この市場が投機的な実験段階から、本格的な競争フェーズへ移行したことを示しています。Meta、Google、Xiaomi、そしてAlibabaと、主要プレイヤーが揃い踏みする今、各社がどのような差別化戦略を取るのか、そしてどの企業のビジョンが消費者に受け入れられるのか、注目する価値があるでしょう。みなさんは、情報をどのように取得したいですか?画面を見下ろすのではなく、視界の中に自然に情報が現れる未来に、可能性を感じますか?それとも、プライバシーや社会的受容性への懸念の方が大きいでしょうか?ぜひ、ご自身の視点で考えてみてください。

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Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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