YouTubeが無断AI複製を対象とする「No FAKES法案」への支持を表明した。この発表は2025年4月9日に同社のブログ記事で行われた。No FAKES法案(Nurture Originals, Foster Art, and Keep Entertainment Safe Act)は、許可なく個人の音声や肖像を使用してAI生成コンテンツが作成された場合に、当事者が訴訟を起こす権利を与える超党派の法案である。
この法案は2023年に起草され、クリス・クーンズ上院議員(民主党-デラウェア州)、マーシャ・ブラックバーン上院議員(共和党-テネシー州)、エイミー・クロブチャー上院議員(民主党-ミネソタ州)、トム・ティリス上院議員(共和党-ノースカロライナ州)によって上院に提出された。
法案は映画俳優組合-アメリカテレビラジオ芸術家連盟(SAG-AFTRA)、アメリカレコード協会(RIAA)、映画協会(MPA)など多くの創造産業の関係者から支持を得ている。また、YouTube、TikTokなどのプラットフォームからも支持を得ており、AIが主導するこの時代において、アーティストとテック業界の間で重要な連携が見られている。
YouTubeのCEOニール・モーハンは「私たちはコミュニティを有害なAIコンテンツから保護するためのポリシー、ツール、執行メカニズムの開発に尽力してきたが、無断でのデジタル複製から人々を保護するには法律も必要だと考えている」と述べている。
法案が成立すれば、初めて連邦知的財産権としてパブリシティ権の保護が確立され、個人の名前、画像、肖像、声の無断使用に制限が課されることになる。現在、これらの権利は州レベルでのみ保護されており、全国的に一貫性のない法的枠組みとなっている。
法案には、「真正なニュース」、「公共の問題」、「スポーツ放送」、ドキュメンタリーや歴史的・伝記的な方法での使用、批評、パロディなど、言論の自由に関する懸念とのバランスを取るための例外規定も含まれている。
from YouTube is supporting the ‘No Fakes Act’ targeting unauthorized AI replicas
【編集部解説】
皆さん、YouTubeが「No FAKES法案」を支持するというニュースは、AIと創作の未来に大きな意味を持つ動きです。この法案は単なる有名人保護の枠を超え、すべての人々のデジタルアイデンティティを守る重要な一歩となる可能性があります。
法案の背景と本質
No FAKES法案(Nurture Originals, Foster Art, and Keep Entertainment Safe Act)は、2023年に初めて提案されました。この法案の核心は、個人の音声や肖像をAIで複製する際に本人の許可を必要とする点にあります。これまで米国では、パブリシティ権(自分の名前や肖像の商業的利用をコントロールする権利)は州レベルでしか保護されておらず、全国で一貫した法的枠組みがありませんでした。この法案が成立すれば、初めて連邦レベルでのパブリシティ権保護が確立されることになります。
特筆すべきは、この法案が超党派で支持されている点です。民主党と共和党の上院議員・下院議員が共同で提案しており、政治的な分断が激しい米国において、珍しい協力関係が見られています。
テック企業と創作者の連携
今回の法案に対して注目すべき点は、YouTubeやTikTokといったプラットフォームが支持を表明していることです。これは創作者とテック業界の間で重要な連携であり、AIが主導するこの時代において意義深い動きと言えるでしょう。
YouTubeのCEOニール・モーハンは「コミュニティを有害なAIコンテンツから保護するためのポリシー、ツール、執行メカニズムの開発に尽力してきたが、無断でのデジタル複製から人々を保護するには法律も必要」と述べています。この発言は、プラットフォーム側も技術だけでは解決できない問題があることを認識していることを示しています。
法案の具体的な内容と影響
No FAKES法案には、プラットフォームの責任を明確にする条項も含まれています。YouTubeのようなユーザー生成コンテンツを扱うプラットフォームは、無断AI複製の通知を受けた場合に迅速に対応すれば、法的責任を免れることができます。これはデジタルミレニアム著作権法(DMCA)の「通知と削除」の仕組みに似ており、プラットフォームと権利者のバランスを取る試みと言えます。
また、法案には表現の自由に配慮した例外規定も含まれています。「真正なニュース」、「公共の問題」、「スポーツ放送」、ドキュメンタリーや歴史的・伝記的な使用、批評、パロディなどは例外として認められる予定です。これは言論の自由との適切なバランスを取ろうとする努力の表れでしょう。
技術的対応の進展
YouTubeは既に、AIによる無断複製に対処するための取り組みを進めています。2023年には、クリエイターがAIツールを使用して「改変または合成されたコンテンツ」を作成した場合に開示できる機能を導入しました。また、「リアルな」改変コンテンツを作成した場合の開示を義務付け、識別可能な人物をシミュレートするAI生成コンテンツの削除をユーザーが要求できる仕組みも整えています。
さらに2024年4月の時点で、YouTubeはハラスメントポリシーを更新し、実在する識別可能な人物を性的に客体化するAI生成コンテンツを禁止しています。これらの技術的対応と法的枠組みの両方が、AIの時代における個人の権利保護には不可欠なのです。
実例から見る問題の深刻さ
AIによる無断複製の問題は、すでに現実のものとなっています。例えば、ドレイクとザ・ウィークエンドの声をAIで複製した「Heart on My Sleeve」という曲が、YouTubeやSpotifyなどのプラットフォームで数十万回再生された事例があります。
また、メリーランド州のボルティモアでは、学校の校長の声をAIで複製し、人種差別的で侮辱的なコメントを含む偽の音声録音を作成した事件も発生しています。これらの事例は、AIによる複製が有名人だけでなく、一般の人々にも影響を与える可能性を示しています。
個人の経験から見る両面性
AIの活用には両面性があります。適切に使用されれば創造性を拡張する素晴らしいツールになりますが、悪用されれば個人のアイデンティティを侵害する危険な武器にもなり得るのです。
カントリー音楽のレジェンドであるランディ・トラヴィスは、2013年に脳卒中で自分の声を失いましたが、AIを使って自分の声で新しい音楽を作る可能性を示しています。これは、本人の同意と協力のもとでAIを活用する良い例と言えるでしょう。
日本への影響と今後の展望
日本においても、AIによる無断複製の問題は無縁ではありません。日本では肖像権やパブリシティ権に関する法整備が米国とは異なりますが、グローバルプラットフォームであるYouTubeやTikTokがこの法案を支持することで、日本のユーザーにも影響が及ぶ可能性があります。
また、日本のコンテンツ産業(アニメ、マンガ、ゲーム、音楽など)は海外でも人気が高く、クリエイターの権利保護は重要な課題です。米国での法整備が進めば、日本を含む他の国々にも同様の動きが広がる可能性があります。
今後は、AIの発展とともに、創作者の権利保護と技術革新のバランスをどう取るかが世界的な課題となるでしょう。No FAKES法案は、その一つの解答を示す試みと言えます。私たちinnovaTopiaは、テクノロジーの発展が人間の創造性を尊重し、拡張するものであるべきだと考えています。AIは人間の代わりになるものではなく、人間の可能性を広げるツールであるべきなのです。
皆さんも、自分の声や顔がAIによって無断で使用される可能性について考えてみてはいかがでしょうか。テクノロジーの進化とともに、私たち一人ひとりのデジタルアイデンティティの重要性はますます高まっていくはずです。
【用語解説】
No FAKES法案(Nurture Originals, Foster Art, and Keep Entertainment Safe Act):AIによって無断で作成された個人の声や肖像の複製から人々を保護するための米国の法案。許可なく自分の声や肖像がAIで複製された場合、訴訟を起こす権利を与える。
パブリシティ権:有名人の氏名や肖像などに生じる顧客吸引力を中核とする経済的な価値(パブリシティ価値)を本人が独占できる権利。日本では特許法や著作権法のような明文では規定されておらず、裁判例を通じて権利性が承認されてきた。
ディープフェイク:AIを使用して、実在する人物の顔や声を別の映像や音声に合成する技術。「deep(深層学習)」と「fake(偽物)」を組み合わせた言葉。
Content ID:YouTubeの既存の著作権保護システム。コンテンツ所有者が自分の作品を登録し、プラットフォーム上で無断使用されていないか監視できる仕組み。
【参考リンク】
YouTube(外部)世界最大の動画共有プラットフォーム。Google LLCの子会社が運営している。
SAG-AFTRA(外部)米国の俳優や放送関係者の労働組合。No FAKES法案を支持している。