Microsoft、物議を醸すAI Recall機能をCopilot+ PCに展開開始 

[更新]2025年8月18日17:58

Microsoft、物議を醸すAI Recall機能をCopilot+ PCに展開開始 - innovaTopia - (イノベトピア)

Microsoftは、2025年4月11日、物議を醸したAI機能「Recall」をWindows 11のCopilot+ PC向けに展開し始めた。Recallは、ユーザーのPC操作のスクリーンショットを自動的に撮影し、後で内容を説明するだけで特定の情報を見つけられるようにする機能である。

この機能は、2024年5月20日のMicrosoft Build イベントで発表された後、プライバシーの懸念から一時中止されていた。その後、限定的なユーザーグループでのテストを経て、現在はWindows Insiderプログラムのリリースプレビューチャンネル(ビルド26100.3902、KB5055627)で提供されている。

Recallは、Copilot+ PCと呼ばれる特定の要件を満たすPCでのみ利用可能である。Copilot+ PCの要件には、最低16GBのRAM、256GBのストレージ、そして40 TOPS(1秒あたり40兆回の演算)以上の性能を持つNPU(ニューラル処理ユニット)が含まれる。

現時点で、この要件を満たす唯一のモバイルプロセッサはQualcommのSnapdragon X EliteとPlusである。MicrosoftのCEOであるSatya Nadella氏は、これらのプロセッサを搭載した最初のCopilot+ PCが、Apple社の新しいM3プロセッサ搭載MacBook Airよりも58%高速だと主張している。

Microsoftは、Recallをグローバルに展開する予定だが、EU圏内の利用者は2025年後半まで待つ必要がある。ユーザーはこの機能をオプトインで選択でき、いつでもスナップショットの保存を一時停止できる。ただし、Copilot+ PCからRecallをアンインストールすることはできない。

また、MicrosoftはRecallと共に「Click To Do」という新機能も導入している。これは、Googleの「Circle-to-Search」に似た機能で、Windowsキー+マウスクリックを使って画面上のテキストやメディアに対して追加のオプションを提供する。

from:Windows 11’s controversial AI Recall feature is coming to your Copilot PC very soon

【編集部解説】

MicrosoftのAI Recall機能は、AIとプライバシーの境界線を再定義する挑戦的な取り組みといえます。この機能の本質を理解するためには、その技術的仕組みとプライバシーへの影響を多角的に検討する必要があります。

Recall機能は、単なる「履歴機能」の進化版ではありません。従来のブラウザ履歴が訪問したウェブサイトの記録に留まるのに対し、Recallはユーザーの全PC操作を3秒ごとにスクリーンショットとして記録し、AIで解析・インデックス化します。これにより「先週読んでいた太陽光インバーターの設定に関するPDF」といった自然言語での検索が可能になります。

技術的には、これらのスナップショットはSQLiteデータベースに保存され、オンデバイスのAIモデルを使って検索・取得されます。注目すべきは、この処理がすべてローカルで行われ、インターネット接続やMicrosoftアカウントへのログインを必要としない点です。

しかし、セキュリティ専門家からは重大な懸念が示されています。2024年11月の報告によれば、このSQLiteデータベースは暗号化されておらず、マルウェア攻撃や不正アクセスに対して脆弱である可能性があります。特に物理的なデバイスアクセスがあれば、保存されたスナップショットにアクセスできる危険性があります。

プライバシーの観点からは、パスワードや健康情報などの機密データも記録される点が問題視されています。Mozillaのプライバシーチームを率いるJen Caltrider氏は、これらの情報が将来的に法執行機関やMicrosoft自身によってアクセスされる可能性を警告しています。

一方で、Microsoftは複数の安全対策を講じています。Recallを使用するには、スナップショット保存に明示的に同意し、Windows Helloによる本人確認を設定する必要があります。また、ユーザーはいつでも機能を一時停止したり、特定のアプリやウェブサイトを記録対象から除外したりできます。

興味深いのは、この機能に対する評価の二極化です。Laptop Magの寄稿者Shubham Agarwal氏は、当初はプライバシーへの懸念から躊躇したものの、実際に使用した結果「ゲームチェンジャーであり、デスクトップ生産性の未来の一端」と評価しています。

AI技術の進化とプライバシー保護のバランスという観点から見ると、Recallは重要な試金石となるでしょう。ローカル処理によるプライバシー保護と、強力なAI機能の両立を目指す取り組みは、今後のパーソナルコンピューティングの方向性を示唆しています。

規制の面では、英国の情報コミッショナー事務局(ICO)がMicrosoftに対して調査を開始しており、ユーザープライバシー保護のための安全策について説明を求めています。EUでは2025年後半までリリースが延期されるなど、各国・地域の規制当局の対応も注目されます。

長期的には、Recallのような機能が一般化することで、私たちのデジタル記憶の拡張方法が根本的に変わる可能性があります。情報過多の時代に、過去に接した情報を効率的に検索・活用できる技術は大きな価値を持ちます。しかし同時に、常に記録されているという意識がユーザーの行動に与える「萎縮効果」も無視できません。

【用語解説】

NPU(Neural Processing Unit)
NPUは、AI処理に特化した専用プロセッサである。従来のCPUやGPUが汎用的な計算処理を行うのに対し、NPUはニューラルネットワークの演算に最適化されており、AI処理を高速かつ低消費電力で実行できる。

Copilot+ PC
Microsoftが2024年5月に発表した新しいPC区分で、AI処理に特化したNPUを搭載し、Windows 11の高度なAI機能を快適に動作させることができるPCである。Copilot+ PCの認定を受けるには、最低16GBのRAM、256GBのストレージ、そして40 TOPS以上の性能を持つNPUが必要となる。

AI Recall
ユーザーのPC操作を定期的にスクリーンショットとして記録し、後から自然言語で検索できるようにするWindows 11の新機能である。例えば「先週見た青い背景の資料」といった曖昧な記憶からでも関連コンテンツを見つけ出せる。デジタル版の「記憶補助ノート」のようなものと考えるとわかりやすい。

Click to Do
Windows 11の新機能で、画面上のテキストや画像を選択し、Windowsキーとマウスクリックを組み合わせることで、コンテキストに応じたアクションを提案してくれる機能である。Googleの「Circle to Search」に似た機能だが、Windows環境に最適化されている。スマートフォンの長押しメニューのPCバージョンと考えるとわかりやすい。

【参考リンク】

Microsoft Copilot+ PC 公式サイト(外部)
Copilot+ PCの特徴や利点、対応モデルなどを紹介する公式サイト。購入ガイドも掲載されている。

Microsoft Learn Click to Do 管理ガイド(外部)Click to Do機能の詳細な説明と企業環境での管理方法を解説した技術文書。

【編集部後記】

 皆さん、AI Recallのようなテクノロジーは、便利さとプライバシーのバランスを私たち一人ひとりに問いかけています。「自分のPC操作を記録されることに抵抗がある」という方もいれば、「過去の作業を簡単に思い出せるのは便利」と感じる方もいるでしょう。あなたなら、この機能をどう使いこなしますか?あるいは、どんな懸念がありますか?ぜひSNSでご意見をお聞かせください。テクノロジーとの付き合い方を一緒に考えていければと思います。

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4月26日から展開がスタートしました
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TaTsu
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