TikTokは2025年9月13日から適用される新しいコミュニティガイドラインを発表した。今回の更新は、AI生成コンテンツによる偽情報対策とユーザー安全の向上に重点を置いている。
主な変更点として、自動化ツールやスクリプトを使用したシステム回避行為に対する厳格な禁止措置を強化し、違反者にはアカウント禁止などの処罰を科すとした。AI生成コンテンツについては、従来の「偽の権威ある情報源」という表現から「公共的に重要な事項について誤解を招くコンテンツや個人に害を与えるコンテンツ」へと適用範囲を拡大した。
また、ギャンブルや薬物、銃器などを「規制商品・サービス」として統一ポリシー化し、各ルールの概要を示す「rules-at-a-glance」要約を新設した。執行面では、AIと人間モデレーターの連携により、現在85%以上のコンテンツが自動で削除され、99%が報告前に対処されている。クリエイターからの要望に応え、より明確で一貫した執行を目指すとしている。
From: TikTok Updates Community Guidelines To Address AI Misinformation
【編集部解説】
今回のTikTokガイドライン更新の背景には、世界各国で強化されている規制への対応という重要な側面があります。英国のOnline Safety Act(オンライン安全法)、EUのDigital Services Act(デジタルサービス法)、米国のTAKE IT DOWN Actなど、プラットフォーム事業者に対する法的責任が拡大する中で、TikTokは先手を打って自主規制を強化したといえます。
特に注目すべきは、AI生成コンテンツの取り扱いにおける大幅な変更です。従来は「偽の権威ある情報源」という限定的な表現でしたが、新ガイドラインでは「公共的に重要な事項について誤解を招くコンテンツ」と範囲を大幅に拡張しました。これにより、政治的なディープフェイク動画から健康に関する偽情報まで、より広範な合成メディアを規制対象とすることが可能になります。
技術的な観点では、TikTokが導入したパーソナライゼーション技術の透明性向上も重要な変更点です。検索結果やコメント表示が個人の行動履歴に基づいてカスタマイズされることを明文化したことで、ユーザーは自分が見ている情報がフィルターバブル内に限定されている可能性を理解できるようになりました。
一方で、この厳格化には潜在的なリスクも存在します。AIモデレーションの精度向上により誤判定による表現の自由の制限や、クリエイターの創作活動への萎縮効果が懸念されています。実際に、現在85%以上のコンテンツ削除が自動化によって実行されているという状況は、人間の判断を介さない機械的な規制の拡大を意味しています。
長期的には、この動きは他のソーシャルメディアプラットフォームにも波及する可能性が高く、業界全体でのコンテンツモデレーション基準の統一化が進むと予想されます。特に、AIが生成するコンテンツと人間が作成するコンテンツの境界線がますます曖昧になる中で、透明性の確保と創造性の保護のバランスをどう取るかが、プラットフォーム運営の重要な課題となるでしょう。
【用語解説】
TikTok:ByteDance傘下の短動画共有プラットフォーム。15億人のユーザーを擁し、AI推薦アルゴリズムによる個人最適化されたコンテンツ配信が特徴。
コミュニティガイドライン:ソーシャルメディアプラットフォームが定める利用規約。コンテンツの投稿基準、禁止行為、処罰内容などを明文化したルール集。
AI生成コンテンツ(AIGC):人工知能技術を用いて作成された画像、音声、動画等のメディア。ディープフェイクや合成音声も含まれる。
パーソナライゼーション技術:ユーザーの行動履歴や嗜好データを分析し、個人に最適化されたコンテンツを配信する技術システム。
AIモデレーション:人工知能を活用してソーシャルメディア上の不適切コンテンツを自動検出・削除する仕組み。人的審査の効率化が目的。
ディープフェイク:AI技術により人物の顔や音声を別人に置き換えた偽造動画。政治的悪用や名誉毀損のリスクが指摘されている。
フィルターバブル:アルゴリズムによって類似情報のみが表示され、多様な視点に触れる機会が減少する現象。情報の偏りを生む要因。
【参考リンク】
【参考記事】
【編集部後記】
TikTokの新ガイドラインは、AIコンテンツの透明性確保と創作の自由のバランスという現代的な課題を浮き彫りにしています。85%の自動削除という数字は効率的に見えますが、機械判定による誤削除リスクはどの程度なのでしょうか。また、検索結果やコメントの個人最適化が明文化されたことで、ユーザーは自分だけの情報環境に閉じ込められる可能性が高まります。一方で、他のプラットフォームも同様の規制強化を迫られる中、クリエイターは複数のルールセットに対応する必要に迫られるでしょう。果たして、このような厳格化は真に安全なデジタル環境を生み出すのか、それとも表現活動を萎縮させるだけなのか、皆さんはどう思われますか。