2025年8月22日、MetaのチーフAI責任者アレクサンダー・ワング氏は、同社がMidjourneyと技術提携契約を締結したと発表した。
Metaは生成AI企業Midjourneyの「美的技術」を将来のモデルと製品にライセンス供与する。この技術提携には両社の研究チーム間の技術協力が含まれる。
ワング氏は元Scale AI創設者兼CEOで、現在は新設されたMeta Superintelligence Labs(MSL)の責任者を務める。Midjourneyは2,000万人のユーザーを持つサンフランシスコの自立採算スタートアップで、テキストプロンプトから画像や動画を生成する技術で知られる。同社創設者デビッド・ホルツ氏は、Midjourneyがコミュニティに支えられ、外部投資家を持たない独立した研究機関であり続けると強調した。
8月にMetaはAI業務を研究、訓練、製品、インフラストラクチャの4つのトラックに分割する再編を実施した。契約の財務条件や具体的な統合時期は公表されていない。
From: Meta is partnering with Midjourney and will license its technology for ‘future models and products’
【編集部解説】
今回のMeta-Midjourney提携は、AI画像生成業界において「技術買収ではなくライセンシング」という新しいパートナーシップモデルを示す象徴的な事例と言えるでしょう。従来のテック大手による買収戦略とは明らかに異なるアプローチです。
この提携が注目される理由は、Midjourneyが持つ「美的技術(aesthetic technology)」の独自性にあります。同社は3年間で2,000万人のユーザーを獲得し、2023年には年間収益2億ドル軌道に達していると報じられている規模まで成長しています。テキストプロンプトから人間の感性に響く画像を生成する技術で業界標準となっており、特にアーティストやクリエイターから高く評価される視覚的品質は、他のAI画像生成ツールとは一線を画すものです。
Metaにとってこの技術は、同社のAI戦略における重要なピースとなります。シニア人材の退職やLlama 4モデルの反応が芳しくなかったことを受けて新設されたMeta Superintelligence Labs(MSL)の下で展開される包括的アプローチ(all-of-the-above approach)の一環として、内製技術だけでは補えない美的センスと創造性を外部から取り込む戦略です。
技術的な観点から見ると、Midjourneyの強みは単なる画像生成技術にとどまりません。2ヶ月前に追加された画像から動画への変換機能は、静止画生成から動的コンテンツ制作への技術進化を示しており、Metaのメタバース戦略やInstagram、Facebookの創作ツール強化に直結する可能性があります。
競合状況を見ると、OpenAIのSora、Black Forest LabのFlux、GoogleのVeoなど業界トップクラスのAI画像・動画モデルとの競争が激化しており、この提携はMeta社の競争力強化の重要な一手となります。
一方で、この提携には潜在的なリスクも存在します。Midjourneyは「コミュニティ支援、投資家なし」の独立性を企業価値の核としてきました。テック大手との密接な関係が、同社の創造的自由度や独立したイノベーションに影響を与える可能性は否定できません。
また、規制面では興味深い展開が予想されます。AI生成コンテンツの著作権問題や、プラットフォーム上での生成画像の真偽判定など、既存の法的枠組みでは対応しきれない課題が浮上する可能性があります。
長期的な視点では、この提携がAI業界における新しい協業モデルの先駆けとなるかもしれません。完全買収ではなく技術ライセンシングによる戦略的提携は、イノベーションを維持しながら大規模展開を実現する手法として、他の企業にも影響を与える可能性が高いでしょう。
【用語解説】
美的技術(aesthetic technology)
Midjourneyが独自に開発した、人間の感性や美的センスに響く画像を生成するAI技術。従来の技術的精度だけでなく、視覚的魅力や芸術性を重視した生成アルゴリズムである。
Meta Superintelligence Labs(MSL)
2025年8月にMeta社内で新設されたAI専門部門。シニア人材の退職やLlama 4の課題を受けて設立され、同社のすべてのAI研究、開発、製品化を統括し、人間の知能を超える「超知能」の実現を目指す組織である。
【参考リンク】
Midjourney公式サイト(外部)
テキストプロンプトからAI画像を生成するサービスの公式サイト
Meta公式サイト(外部)
Facebook、Instagram、WhatsAppを運営するMeta社の企業情報サイト
Scale AI公式サイト(外部)
アレクサンダー・ワング氏が創設したAIデータラベリング企業の公式サイト
【参考記事】
Meta and Midjourney: A Visual AI Revolution for Social Media(外部)
AInvestによる詳細分析記事で、Midjourneyの2023年年間収益2億ドル軌道について解説
Meta partners with Midjourney on AI image and video models(外部)
TechCrunchによる提携詳細分析記事、OpenAI、Black Forest Labsとの競合状況を解説
Meta Partners with Midjourney to License AI Image and Video(外部)
Meta社のLlama 4モデル課題やMeta Superintelligence Labs設立背景を分析
Meta (META.US) partners with Midjourney to integrate AI aesthetic technology(外部)
Futunnによる提携発表記事で、Meta社内の人事異動やAI戦略転換点について詳述
【編集部後記】
今回のMeta-Midjourney提携は、AI画像生成の世界が「技術の独占」から「技術の協調」へと転換する象徴的な出来事かもしれません。皆さんも日常でInstagramやFacebookを使う際、生成された美しい画像がより自然に溶け込んでくることを実感されるのではないでしょうか。
一方で、この変化は私たちクリエイターや一般ユーザーにとって、どのような意味を持つのでしょうか。AIが作った画像とオリジナル作品の境界線は今後どこに引かれるべきか、また、創造性の定義そのものが変わっていく中で、私たちはどんな価値を大切にしていけば良いのか。SNSで皆さんのお考えやご経験をお聞かせいただけたら、とても参考になります。