OpenAI新モデル「GPT-4b micro」、山中因子改良で幹細胞生成効率50倍—Retro Biosciencesとの共同研究成果

[更新]2025年8月25日11:21

OpenAI新モデル「GPT-4b micro」、山中因子改良で幹細胞生成効率50倍—Retro Biosciencesとの共同研究成果 - innovaTopia - (イノベトピア)

OpenAIは2025年8月22日、長寿バイオテクノロジー・スタートアップのRetro Biosciencesと協力してタンパク質工学に特化した小型モデルGPT-4b microを開発したと発表した。

このモデルは山中因子と呼ばれるタンパク質群の新規変異体を設計し、従来の野生型コントロールと比較して幹細胞リプログラミングマーカーの発現を50倍以上向上させることに成功した。

山中因子はOCT4、SOX2、KLF4、MYCの4つのタンパク質で構成され、成人細胞を多能性幹細胞に変換する能力で2012年にノーベル賞を受賞した。

GPT-4b microはGPT-4oのスケールダウン版を基に、タンパク質配列と生物学的テキスト、トークン化された3D構造データで追加訓練された。研究チームは改良されたRetroSOXおよびRetroKLF変異体を開発し、30%以上のRetroSOX変異体と約50%のRetroKLF変異体が従来品を上回る性能を示した。

実験は複数のドナー、細胞タイプ、送達方法で検証され、派生したiPSC株の多能性と遺伝的安定性が確認された。また改良版は従来の山中因子よりもDNA損傷修復能力が向上し、より高い若返りポテンシャルを示した。

From: 文献リンクAccelerating life sciences research | OpenAI

【編集部解説】

今回のOpenAIとRetro Biosciencesの共同研究は、AIが生命科学分野で実用的な革新を起こした画期的な事例として注目すべきでしょう。

従来の山中因子の効率性は深刻な課題でした。通常、治療を受けた細胞のうち多能性幹細胞に変換されるのは0.1%未満で、プロセスには3週間以上を要していました。この低効率は、特に高齢者や疾患患者からの細胞ではさらに顕著となり、実用化への大きな障壁となっていたのです。

GPT-4b microが解決したのは、これまで人類が直面してきた「組み合わせ爆発」の問題です。SOX2は317個、KLF4は513個のアミノ酸で構成されており、可能な変異体の数は10^1000のオーダーに達します。従来の指向進化スクリーンでは、一度に少数の残基しか変異させることができず、この膨大な設計空間のごく一部しか探索できませんでした。

今回の成果で特に重要なのは、AIが平均100個以上のアミノ酸を変更した大胆な設計変更を提案し、なおかつ30%以上の成功率を達成したことです。従来手法の10%未満という成功率と比較すると、この効率性は革命的と言えるでしょう。

この技術が実用化されれば、再生医療の分野で劇的な変化をもたらす可能性があります。より効率的な幹細胞生成により、パーキンソン病や糖尿病、心筋梗塞といった難治性疾患の治療選択肢が大幅に拡大するでしょう。さらに、lab-grown organ(人工培養臓器)の実現により、深刻な臓器不足問題の解決も期待されます。

一方で、潜在的なリスクも慎重に検討する必要があります。タンパク質の大幅な改変により予期しない副作用が生じる可能性や、長期的な安全性についてはまだ十分な検証が行われていません。また、Sam AltmanがRetro Biosciencesに1.8億ドルを投資しているという利益相反の懸念も指摘されています。

規制面では、このような革新的なバイオテクノロジーを既存の薬事承認制度にどう組み込むかが重要な課題となります。AI設計タンパク質の安全性評価基準や臨床試験プロトコルの確立が急務でしょう。

長期的な視点では、この技術は人類の健康寿命延伸という壮大な目標への第一歩となる可能性があります。DNA損傷修復能力の向上により、細胞レベルでの老化プロセスを逆転させることができれば、真の意味での「若返り治療」の実現も夢ではありません。

ただし、技術的な課題も残存しています。皮膚細胞での成功が他の細胞タイプや異なる種でも再現できるかは未知数です。また、アクセシビリティの問題から、この革新的技術が富裕層や先進国に限定される可能性も懸念されています。

【用語解説】

GPT-4b micro
OpenAIが開発したタンパク質工学に特化した小型の言語モデル。GPT-4oをベースに、タンパク質配列や生物学的データで追加訓練されており、64,000トークンという前例のないコンテキストサイズを持つ。

山中因子(Yamanaka factors)
OCT4、SOX2、KLF4、MYCの4つのタンパク質の総称。成人細胞を多能性幹細胞に変換する能力で2012年にノーベル賞を受賞した。しかし従来の効率は0.1%未満と極めて低く、プロセスに3週間以上を要する課題があった。

iPSC(人工多能性幹細胞)
induced pluripotent stem cellsの略。成人細胞から作製された幹細胞で、胚性幹細胞と同様にあらゆる細胞に分化する能力を持つ。再生医療の重要な基盤技術である。

RetroSOX/RetroKLF
GPT-4b microによって設計された山中因子SOX2とKLF4の改良版。従来の野生型と比較して平均100個以上のアミノ酸が変更されている。

【参考リンク】

OpenAI(外部)
ChatGPTやGPT-4oを開発したAI企業。今回のGPT-4b microによるタンパク質工学研究を発表した。

Retro Biosciences(外部)
人間の健康寿命を10年延ばすことを目標とする長寿研究バイオテクノロジー・スタートアップ。OpenAIのサム・アルトマンが投資家として参画している。

【参考動画】

【参考記事】

OpenAI has created an AI model for longevity science | MIT Technology Review(外部)
MIT Technology ReviewによるGPT-4b microの技術解説。タンパク質工学における従来手法の限界と、AIによる革新的アプローチの意義を分析している。

AI Meets Longevity: OpenAI & Retro’s GPT-4b Micro | TeckNexus(外部)
GPT-4b microの技術的詳細と長寿研究への影響を解説。従来の指向進化スクリーンの10%未満という成功率に対し、AIが30-50%の成功率を達成した点を強調している。

AI-Engineered Proteins Achieve Breakthrough in Stem Cell | Complete AI Training(外部)
今回の研究成果の実用化可能性と、再生医療分野への潜在的インパクトを分析。特にDNA損傷修復能力の向上による細胞若返り効果に注目している。

Potential Breakthrough in Cell Reprogramming as OpenAI and Retro Biosciences(外部)
OpenAIとRetro Biosciencesの共同研究による50倍の多能性マーカー発現向上について詳細に報告。細胞リプログラミング分野の潜在的ブレークスルーとして位置づけている。

【編集部後記】

今回のAIによる山中因子の改良は、私たちの人生設計にも大きな影響を与える可能性があります。もし将来、効率的な幹細胞技術により心臓や肝臓の再生治療が実現したら、私たちの健康観や老後への備え方も変わってくるかもしれません。

皆さんは再生医療の進歩によって、どのような病気や症状の治療を最も期待されているでしょうか?また、こうした革新的な医療技術が実現した時、アクセシビリティや費用面での課題をどう解決していくべきだと思われますか?ぜひSNSで、あなたの考えや期待をお聞かせください。私たちも読者の皆さんと一緒に、この技術が描く未来について考えていきたいと思います。

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TaTsu
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