2025年10月14日、Windows 10のサポートが終了する。そして同年後半、Windows 11 25H2が正式リリースされる。この一連の流れを見て、正直に思うことがある。
「結局、僕らはMicrosoftの手のひらで踊らされているんじゃないか?」
文句を言いながらも、明日もWindows PCを立ち上げ、Officeでメールを書き、Teamsで会議をする。なぜなら、それが現実的な選択だからだ。71%という圧倒的市場シェアを持つMicrosoftの戦略は確かに巧妙で、時に強引に見える。しかし冷静に考えてみれば、彼らなりの合理性もあるのではないだろうか。
Windows 11 25H2が示す「現実的な進化」
イネーブルメントパッケージという賢い選択
Windows 11 25H2の最大の特徴は、「イネーブルメントパッケージ(eKB)」方式の採用だ。これまでのような大型アップデートによる「OSスワップ」から、わずか1回の再起動で完了する軽量アップデートへと方針転換している。
正直に言えば、この変化はユーザーにとって朗報だ。24H2で多発したトラブルや、何度も繰り返される再起動に辟易していたユーザーも多いはずだ。サービススタック更新プログラム(SSU)と累積更新プログラム(LCU)の統合により、ダウンロード容量も約40%削減される。
「アップデートのたびに何度も再起動など普段使っていて困っている部分を改善してくれるのがうれしい」という開発者の声もあるように、これは実用性を重視した良い判断と評価できるのではないだろうか。
24H2との共通基盤が生む安定性
25H2は24H2と同じ「Germanium」プラットフォームを共有している。これは一見すると「手抜き」にも見えるが、実際には互換性問題のリスクを大幅に軽減する賢明な設計だ。
24H2から25H2への移行は「月例パッチレベルの手軽さ」となり、企業のIT部門にとっても導入しやすい。「配信管理にかかる負荷が軽減」「業務中断リスクが低下」するメリットは、実務を考えれば非常に大きい。
新機能は既に24H2に無効化された状態で埋め込まれており、25H2は「スイッチを入れる」だけの作業。これを「囲い込み」と批判することもできるが、安定性を優先した現実的なアプローチとして捉えることもできる。
システム要件厳格化の「言い分」
TPM2.0は本当に悪なのか?
25H2では、一時的に緩和されていたシステム要件が再び厳格化される。TPM2.0、セキュアブート、第8世代以降のCPU—これらの要件を「デジタル階級制度」と批判する声もある。
しかし、セキュリティ脅威が日々深刻化する現代において、これらの要件は本当に「悪」なのだろうか?
2019年以前のPCが対象外になることは確かに辛い。だが、6年以上前のハードウェアでは、現代のサイバー攻撃に対する適切な防御が困難なのも事実だ。特に企業や政府機関を狙った高度な攻撃が増加する中、「古いPCでも動く」ことよりも「安全に動く」ことを優先する判断は理解できる。
環境負荷vs.セキュリティのジレンマ
「まだ使えるPCを廃棄させるのは環境破壊だ」という批判もある。これは確かに正論だ。しかし同時に、セキュリティが脆弱なPCがボットネットに組み込まれ、サイバー攻撃の踏み台になるリスクも考慮すべきではないだろうか。
環境負荷とセキュリティリスクの間で、Microsoftは後者を選択した。賛否はあるだろうが、「より大きな被害を防ぐ」という視点では合理的な判断とも言える。
71%シェアの「重い責任」
独占の弊害と利益の両面
Microsoftの市場支配力を批判するのは簡単だ。しかし冷静に考えてみよう。もし本当に複数のOSが拮抗していたら、果たして今のようなソフトウェア互換性は保てただろうか?
Windows という統一プラットフォームがあるからこそ、世界中の開発者が同じ環境をターゲットにでき、企業は従業員のトレーニングコストを抑えられる。「事実上の標準」であることの利便性を、我々は日常的に享受しているのも事実だ。
代替選択肢の現実的評価
「LinuxやmacOSという選択肢もある」という声をよく聞く。確かにその通りだが、現実的にはハードルが高いのも事実だ。
Linuxのデスクトップシェア5%は確かに過去最高記録だが、一般ユーザーにとっては依然として技術的な壁が存在する。macOSは優秀だが、ハードウェアコストが高く、企業の一斉移行は現実的ではない。
結局のところ、多くのユーザーにとってWindowsは「最も現実的な選択肢」なのだ。それは決して「諦め」ではなく、合理的な判断でもある。
政府契約が示す「相互依存関係」
31億ドル契約の裏側
2025年、Microsoftは米連邦政府との間に31億ドルという巨額契約を締結し、Copilotを1年間無料提供することになった。これを「政府の囲い込み」と批判することもできるが、別の見方もできる。
なぜ政府は1年間という短期契約を選択したのか?実はこれは、政府側も「完全にMicrosoftに依存したくない」という意思の表れかもしれない。OpenAI、Anthropic、GoogleがMicrosoftを下回る価格を提示した事実は、競争が機能していることを示している。
セキュリティ問題への対応
中国系エンジニアによる機密システムサポートを国防総省が禁止した直後の契約締結は、確かに複雑な印象を与える。しかし同時に、Microsoftも問題を認識し、対策を講じていることの現れでもある。
完璧なセキュリティなど存在しない中で、リスクを管理しながら必要なサービスを利用する—これは現代の情報社会における現実的なアプローチだ。
SSD問題から見えた「対話の可能性」
KB5063878アップデートで起きたこと
Windows 11のKB5063878アップデートでは、一部環境でSSDが一時的に認識されなくなる現象が報告された。特に50GB以上のファイル転送時や、SSD使用率60%超過時の発生が多く、多くは再起動で復旧したものの、一部では完全回復に至らないケースもあった。
問題はPhisonやMaxio、InnoGritなど複数のコントローラーメーカー製SSDで発生し、興味深いことに報告の多くが日本から寄せられているという地理的偏在も見られた。
企業とユーザーの「建設的な対立」
この問題で興味深かったのは、Microsoftが「徹底的な調査の結果、関連性は確認されなかった」と発表した一方で、実際のユーザー環境では散発的に問題が発生し続けたことだ。
Phison社も4,500時間を超える検証で問題の再現に至らなかった一方で、個人による21台のSSD検証では12台で一時的な認識不能が確認された。この「実験室では起きないが実環境では発生する」現象は、決してMicrosoftの隠蔽工作ではなく、現代IT環境の複雑さを物語っている。
重要なのは、ユーザーコミュニティの技術力の高さだ。Reddit /r/Windows11での検証プロジェクトやMicrosoft Learnでの詳細な技術考察は、「企業が一方的に決める」のではなく、「ユーザーも対等に検証・議論する」新たな関係性を示している。
AI時代におけるMicrosoftの「現実的戦略」
Copilotという賭け
OpenAI投資とCopilot統合について、「AIによる支配」という見方もあるが、実際は極めてリスクの高い賭けでもある。AI技術は日進月歩で、今日の優位性が明日も続く保証はない。
Copilotが収集するデータについても、確かにプライバシーの懸念はある。しかし同時に、適切に活用されれば生産性向上の強力なツールにもなり得る。重要なのは、その使い方をユーザー自身がコントロールできることだ。
エコシステム戦略の合理性
Windows → Office → Azure → AIという統合エコシステムは、確かに「囲い込み」の側面がある。しかし同時に、シームレスな連携による利便性も提供している。
問題は、この利便性と引き換えに我々が何を失うかを理解し、適切な選択をすることだ。完全に依存するのも、完全に拒絶するのも、どちらも現実的ではない。
Windows 11 25H2時代の「現実的な付き合い方」
完璧を求めない智慧
Windows 11 25H2は確かに「完璧なOS」ではない。しかし、「現時点で最も実用的な選択肢」である可能性は高い。重要なのは、その限界を理解しながら上手く付き合うことだ。
「25H2は安定性重視のアップデート」という評価もあるように、派手な新機能よりも「軽くて安定したOS」を目指している姿勢は評価できる。PowerShell 2.0やWMICの削除も、レガシー技術からの脱却として前向きに捉えることができる。
実践的な対応策
感情的な批判でも盲目的な受容でもなく、現実的なリスク管理が必要だ
- 段階的導入:企業では25H2を慎重に検証してから展開
- データバックアップの徹底:SSD問題のような予期しない事態への備え
- 代替手段の研究:LinuxやクラウドOSの動向を継続的にチェック
- コミュニティ参加:技術検証や問題報告への積極的な貢献
建設的な対話の継続
最も重要なのは、Microsoftを「敵」ではなく「改善すべきパートナー」として捉えることだ。彼らがオープンソース分野で見せた変化(VS Code、TypeScript、WSLなど)は、適切な圧力と対話があれば改善する可能性を示している。
SSD問題で見せたユーザーコミュニティの技術力も、この対話を対等にする重要な要素だ。
それでも明日、僕らはWindowsを立ち上げる
Windows 11 25H2について長々と議論してきたが、結局のところ明日も我々の多くはWindowsを使うだろう。それは「諦め」でも「洗脳」でもない。
現実的な選択として、利便性とリスクを天秤にかけた結果として、そして時には「他に選択肢がない」現実として—様々な理由があるだろう。
だからこそ、その選択を少しでも良いものにするために、我々は声を上げ続ける必要がある。完璧なOSなど存在しないが、より良いOSは実現可能だ。Microsoftの31億ドル政府契約でさえ1年契約なのは、彼らも「永続的な支配」が不可能だと理解している証拠かもしれない。
Windows 11 25H2の軽量アップデート方式、SSD問題での迅速な対応検討、そしてユーザーコミュニティとの技術対話—これらはすべて、「より良い共存関係」への可能性を示している。
批判すべきは批判し、評価すべきは評価し、そして建設的な対話を続ける。それが、Windows 11 25H2時代を生き抜く現実的な智慧なのかもしれない。
【用語解説】
イネーブルメントパッケージ(eKB)
Windows 11 25H2で採用された軽量アップデート方式。従来の大型OSアップデートと異なり、既に無効化された状態で埋め込まれている新機能を有効化するだけで済むため、1回の再起動でアップデートが完了する。
TPM2.0(Trusted Platform Module 2.0
ハードウェアベースのセキュリティ機能。暗号化キーの安全な保存やシステムの整合性検証を行う専用チップで、Windows 11の動作要件の一つ。2016年以降の多くのPCに搭載されている。
共有サービスブランチ
複数のWindowsバージョンで共通のコアコンポーネントを共有する開発手法。25H2は24H2と同じ「Germanium」プラットフォームを使用することで、互換性問題のリスクを軽減している。
GSA OneGovイニシアチブ
米国連邦調達庁(GSA)が2025年4月に発表した政府全体のIT調達を一元化する戦略。各政府機関がバラバラに契約していたIT製品・サービスを統合し、スケールメリットによるコスト削減を目指す。
NANDフラッシュコントローラー
SSD内部でNANDフラッシュメモリを制御し、データの読み書きやエラー訂正、摩耗均一化などを管理する集積回路。SSDの性能や信頼性を左右する中核的部品で、Phison、Maxio、InnoGritなどが主要メーカー。
SMART機能
Self-Monitoring, Analysis and Reporting Technologyの略。ストレージデバイスが自身の健康状態を監視し、温度、不良セクタ数、書き込み回数などを記録して故障の予兆を検出する機能。
Windows Subsystem for Linux(WSL)
Windows上でLinux環境を動作させるMicrosoft製の互換レイヤー。開発者がWindowsとLinuxの両方の利点を活用できるようにする機能で、Microsoftのオープンソース戦略の象徴的存在。
FedRAMP
Federal Risk and Authorization Management Programの略。米国政府機関がクラウドサービスを安全に利用するためのセキュリティ評価・認証制度。厳格な基準により政府データの保護を図る。
【参考リンク】
Microsoft Corporation(外部)
世界最大級のソフトウェア企業。Windows、Office、Azure、Copilotなどを提供し、PC市場で71%のシェアを持つ業界のリーダー
Windows 11(外部)
Microsoftの最新オペレーティングシステム。2021年リリースで、TPM2.0やセキュアブートなどの厳格なシステム要件が特徴
Microsoft Azure(外部)
Microsoftが提供するクラウドコンピューティングサービス。IaaS、PaaS、SaaSを幅広く提供し、前年比31%成長を記録
Microsoft 365(外部)
Word、Excel、Teams、SharePointなどを統合したクラウドベース生産性スイート。サブスクリプション形式で提供される
Microsoft Copilot(外部)
AI支援機能を統合したMicrosoftの次世代生産性ツール。自然言語でのやり取りにより業務効率化を実現する
GSA(米国連邦調達庁)(外部)
米国政府の中央調達機関。政府全体の不動産管理、調達サービス、技術サービスを提供し、年間1100億ドル以上の契約を管理
Phison Electronics(外部)
台湾に本社を置くNANDフラッシュメモリコントローラーの世界的メーカー。多くのSSDブランドにコントローラーチップを供給
OpenAI(外部)
ChatGPTを開発したAI研究企業。Microsoftから巨額投資を受け、同社のCopilot開発において重要なパートナー関係にある
【編集部後記】
「それでも明日もWindowsを使う」—この記事のトーンを考えながら、私たち自身の日常を振り返ってみました。確かに文句を言いながらも、結局は便利さを選んでいる現実があります。
でも、それって悪いことでしょうか?完璧ではない選択肢の中から、最もマシなものを選ぶ—それも一つの智慧なのかもしれません。Windows 11 25H2の軽量アップデート方式のように、批判を受けて改善される部分もあるのですから。
重要なのは、「文句を言いながらも使い続ける」のではなく、「建設的な対話を続けながら使う」ことなのかもしれませんね。皆さんの「現実的な付き合い方」もぜひ教えてください。