米連邦航空局(FAA)は2025年9月12日金曜日、エアタクシーの展開を加速するパイロットプログラムを開始すると発表した。
電動垂直離着陸機(eVTOL)分野の主要企業Archer AviationとJoby Aviationがこのプログラムへの参加を表明した。発表を受けて両社の株価は金曜日に上昇し、JOBYは0.13ドル(0.93%)上昇、ACHRは0.10ドル(1.14%)上昇した。
このプログラムは州政府および地方政府との官民パートナーシップを通じて少なくとも5つのプロジェクトを設立し、最大3年間にわたってeVTOL航空機の安全な使用を促進する。ショーン・ダフィー米国運輸長官は「航空における次の偉大な技術革命がここにある」と述べた。Archerは来年にも米国で監督下での試験を開始できる可能性があると発表し、Jobyは来年初頭にFAA飛行試験を開始する予定である。
この発表はドナルド・トランプ大統領が6月6日に発出した「Unleashing American Drone Dominance」(米国ドローン優位性の解放)と題する大統領令に続くものであり、米国におけるeVTOLの安全な開発と展開を促進する内容が含まれている。ArcherのCEOアダム・ゴールドスタインは発表を「画期的な瞬間」と称し、United Airlinesなどのパートナーとの航空機試験協力を可能にするものだと評価した。
両社は中東でのパートナーシップを通じて製品試験を進展させている。
From: Joby and Archer join FAA’s eVTOL pilot testing program
【編集部解説】
今回のFAAによるeVTOLパイロットプログラム発表は、空飛ぶクルマ業界にとって極めて重要なマイルストーンです。このプログラムの背景には、トランプ政権が6月6日に発出した「Unleashing American Drone Dominance」という大統領令があり、米国の航空技術分野での世界的優位性を確保する戦略的意図が込められています。
特に注目すべきは、このプログラムが企業に正式なFAA認証取得前から実際の運航試験を可能にする点です。従来の航空機認証プロセスでは、完全な型式証明(Type Certificate)取得まで実運用は一切認められませんでした。しかし今回の枠組みでは、「成熟した設計」を持つ企業に限り、監督下での早期運航が認められます。
このアプローチは航空業界では革命的です。通常、初回飛行から型式証明取得まで最低3年を要するため、JobyとArcherのような企業にとって、市場参入時期を大幅に前倒しできる可能性があります。現在JobyはFAA認証プロセスのステージ4を70%完了しており、2026年後半の認証取得が見込まれています。一方Archerは開発開始から認証まで約6年と従来より迅速なペースを維持していますが、2027年後半から2028年の認証取得が現実的とされています。
プログラムの具体的な内容も興味深い点です。州・地方政府との官民パートナーシップを通じて最低5つのプロジェクトを展開し、旅客輸送、貨物配送、緊急対応、エネルギー施設向けサービスなど多様な用途での実証を予定しています。提案期限は2025年12月11日に設定されており、選定されたプロジェクトは合意から90日以内に運航開始が義務付けられています。
ただし、この急速な展開にはリスクも伴います。安全性の確保が最優先課題であり、早期運航で事故が発生すれば業界全体の信頼性に深刻な影響を与える可能性があります。また、両社が中東での実証実験を進めている背景には、米国よりも規制環境が柔軟な地域で技術成熟度を高める狙いがあると考えられます。
長期的な視点では、このプログラムが成功すれば、都市部の交通渋滞緩和や緊急医療搬送の効率向上、離島や山間部への新たなアクセス手段確立など、社会インフラの根本的変革をもたらす可能性があります。特に日本のような島国にとって、この技術の実用化は地方創生や災害対応能力向上の観点からも注目に値するでしょう。
【用語解説】
eVTOL(Electric Vertical Take-off and Landing):電動垂直離着陸機。電動モーターで駆動し、ヘリコプターのように垂直に離着陸できる航空機。従来のヘリコプターに比べて騒音が小さく、排出ガスが出ないため環境に優しい特徴を持つ。
型式証明(Type Certificate):航空機の設計が安全基準を満たしていることを証明するFAAの公式認証。この取得により、その機体の商業運航が可能になる。取得には通常3年以上を要し、厳格な試験と審査が必要である。
AAM(Advanced Air Mobility):先進航空モビリティ。eVTOLなどの新技術を活用した都市部および地域間の航空輸送システムの総称。従来の航空機では対応困難な短距離・頻繁運航を可能にする次世代航空サービスを指す。
官民パートナーシップ(Public-Private Partnership):政府と民間企業が協力してプロジェクトを実施する手法。今回のケースでは、州・地方政府とeVTOL企業が連携して実証実験を行う仕組みを指す。
【参考リンク】
連邦航空局(FAA)(外部)
米国の民間航空を規制する連邦政府機関。航空機の認証、パイロットライセンス、空港基準の設定などを担当。
Joby Aviation(外部)
2009年設立のカリフォルニア州拠点のeVTOL開発企業。5座席の電動航空機を開発中で、業界のトップランナー。
Archer Aviation(外部)
2018年設立のカリフォルニア州拠点のeVTOL開発企業。「Midnight」と呼ばれる5座席の電動航空機を開発中。
【参考動画】
【参考記事】
FAA issues Advanced Air Mobility Aircraft Integration Pilot Program industry call(外部)
FAAAMMパイロットプログラムの詳細を解説。最低5つのプロジェクト設立や具体的な要件を報告。
Joby vs. Archer(外部)
JobyとArcherの技術開発進捗を詳細に比較分析。認証取得時期の見通しなどを解説している。
Joby Plans to Jumpstart US Operations through White House eVTOL Integration Program(外部)
Jobyの公式発表。早期統合パイロットプログラムを通じた米国での商用運航開始加速計画を詳述。
Executive Orders Boost Drones, eVTOLs, and Supersonics(外部)
トランプ政権の6月大統領令の法的背景と影響を分析。米国の航空技術分野での優位性確保戦略を解説。
【編集部後記】
今回の記事を読んで、皆さんはどう感じましたか?JobyやArcherの技術が実現すれば、私たちの移動体験は根本的に変わるかもしれません。実は日本でも、ANAとJobyが合弁会社設立を検討中で、100機超のエアタクシー導入計画が進んでいます。2025年大阪・関西万博でのデモ飛行も予定されています。
皆さんの住む地域で空飛ぶクルマが実用化されたら、どんな使い方をしたいですか?通勤や観光での利用を想像してみると、この技術がもたらす変化の大きさを実感できそうです。一方で、安全性への不安や、空の交通ルールはどうなるのかなど、疑問もたくさん浮かんできます。このテクノロジーについて、皆さんと一緒に考えていければと思います。