Cartwheel RoboticsのCEOであるScott LaValley氏が、現在のヒューマノイドロボットの大半は「恐ろしい」と発言した。
同氏は元Boston Dynamicsでハードウェアリードとして7年間PETMAN、Atlas One、Atlas Twoの3つのヒューマノイドロボットを担当し、その後Disney主任イマジニアとして2016年から2021年まで勤務した経験を持つ。
彼はElon MuskがOptimus開発を始めるきっかけを作った可能性があると述べ、ディズニーでBaby Grootプロジェクトに携わった際、Muskが子供たちと訪問し「自分のヒューマノイドチームを始めるべきか」と質問したエピソードを明かした。
LaValley氏は現在、社会的交流を目的とした「Yogi」というヒューマノイドロボットを開発中で、これは「ロボット」ではなく「キャラクター」として設計していると説明している。
同氏は現在の業界が機能性のみに焦点を当て、社会的受容性を軽視していると批判し、Morgan Stanleyの2050年までに5兆ドル市場予測についても懐疑的な見方を示した。
From: Inventor who encouraged Elon Musk to make Optimus says most humanoid robots today are ‘terrifying’
【編集部解説】
現在の業界動向を見ると、Morgan Stanleyの最新予測では2050年までにヒューマノイドロボット市場は約4.7兆ドル(5兆ドル市場規模)の年間収益を生み出し、10億台のロボットが稼働する可能性があるとされています。しかし、これらの数値は2024年のMuskによる楽観的予測(2040年までに100億体)と比較すると現実的な数値に調整されています。
LaValley氏の指摘する「恐ろしい外観」という問題は、実は技術的課題以上に重要な要素です。現在のヒューマノイドロボットの多くが産業用途に特化して設計されており、Amazon、BMW、Hyundaiなどの企業との協力関係が進んでいます。一方で、消費者向けロボットの分野では中国製品が市場を占めており、データプライバシーやセキュリティの懸念が指摘されています。
技術的な観点から見ると、Cartwheel RoboticsのYogiは独自の「Motion Language Model(MLM)」を採用し、リアルタイムで感情的に共鳴する物理的反応を生成できる点が注目されます。これは従来のROS(Robot Operating System)に依存しない独自のソフトウェアスタックによって実現されています。
市場への影響として、2025年から2030年にかけてヒューマノイドロボット業界は試作品から実用展開への移行期に入ると予測されています。Omdia社は2027年までに1万体以上のヒューマノイドロボットが出荷される可能性があると推定しており、主に商業・産業用途での活用が見込まれています。
LaValley氏のアプローチは、機能性よりも社会的受容性を重視する点で革新的です。これまでのロボット開発が「何ができるか」に焦点を当てていたのに対し、「人々がどう感じるか」を最優先に置く姿勢は、家庭用ロボット市場の成功可能性を大きく左右する要素となるでしょう。
Yogiの商業展開については、デビュー時期は未確定となっており、まずは医療機関や大学等でのパイロットテストから開始される予定です。同社では月額サービスモデルの採用を計画しており、初期コストの高さを回避する戦略を取っています。
【用語解説】
PETMAN – Boston Dynamics社が開発した人型ロボットの初期モデルで、化学防護服の性能テストを目的として設計された
Atlas – Boston Dynamics社の二足歩行ヒューマノイドロボット。Atlas OneとAtlas Twoは同社の代表的な研究開発プラットフォームである
DARPA Robotics Challenge – 米国防総省高等研究計画局が主催する災害対応ロボットの競技会で、2012年から2015年にかけて開催された
Motion Language Model(MLM) – Cartwheel Roboticsが開発した独自技術で、リアルタイムで自然な動作軌道を生成するAIモデル
MPC (Model Predictive Control) – モデル予測制御と呼ばれる制御工学の手法で、将来の状態を予測しながら最適な制御入力を決定する技術
アニマトロニクス – 電子技術と機械技術を組み合わせて動物や人間の動きを再現する技術。ディズニーパークのキャラクターなどに広く使用されている
【参考リンク】
Boston Dynamics(外部)
世界をリードするロボティクス企業。SpotやAtlasなどの高性能ロボットを開発する
Cartwheel Robotics(外部)
Scott LaValley氏が設立したロボティクス企業。キャラクター型ロボット「Yogi」を開発中
Robot Operating System (ROS)(外部)
ロボットソフトウェア開発のためのオープンソースフレームワーク
Morgan Stanley – Humanoids Market(外部)
2050年までに5兆ドル規模に成長するとの予測レポートを発表した米国投資銀行
【参考動画】
【参考記事】
Humanoids: A $5 Trillion Market – Morgan Stanley(外部)
2050年までのヒューマノイドロボット市場予測。年間収益4.7兆ドル、10億台稼働を予測
Former Disney Principal Imagineer’s robotics startup(外部)
LaValley氏の経歴とCartwheel Robotics設立背景、Yogiロボット開発コンセプトを解説
Cartwheel Robotics Steps Out of Stealth(外部)
Cartwheel Roboticsのステルスモード脱却と社会的受容性重視のロボット開発戦略
General Purpose Humanoid Robots – Market Report(外部)
2025年から2030年の市場動向。現在20万ドルが2050年に5万ドルまで低下と分析
Disney Imagineering AI Droids Revolution(外部)
Disney ImagineeringのBDXドロイド開発と強化学習AI技術活用について詳細報告
【編集部後記】
いかがでしたでしょうか。LaValley氏の「ロボットではなくキャラクターを作る」という視点は、私たちが思い描く未来のあり方を根本から問い直すものかもしれません。確かにSF映画で描かれる「恐ろしい」ロボットと、愛らしいBaby Grootでは、受ける印象がまったく違いますよね。
みなさんは、もし明日ヒューマノイドロボットが職場や家庭に現れたら、どんな姿であってほしいと思いますか?Tesla Optimusのようなスタイリッシュなデザインか、それともYogiのような親しみやすいキャラクター型か。技術の進歩だけでなく、私たち人間がテクノロジーとどう向き合いたいかも、未来を形作る重要な要素なのかもしれません。