SpaceXは2025年9月23日午前7時32分(東部夏時間)(※日本時間では2025年9月23日午後8時32分)に、フロリダ州NASAケネディ宇宙センターのランチコンプレックス39Aからファルコン9ロケットによる3機の宇宙船打ち上げを予定している。
搭載されるのはNASAの星間マッピング・加速プローブ(IMAP)、米国海洋大気庁(NOAA)の宇宙天気フォローオン(SWFO-L1)宇宙船、NASAのカラザース地球コロナ観測機である。
3機は地球から93万マイル(150万キロメートル)離れた地球-太陽ラグランジュポイント1(L1)に向かう。IMAPは太陽風によって形成される太陽圏の外側境界をマッピングする初の宇宙船で、米国全土のチームが構築し27の国際パートナーが貢献した10の機器を搭載している。
地球に向かう危険な放射線嵐の30分から1時間の事前警報を提供し、2026年のアルテミス2と2027年のアルテミス3ミッションを支援する。NASAの科学ミッション局副局長ニッキー・フォックス氏が9月4日の記者会見で発表した。
From: SpaceX targets Sept. 23 for launch of NASA’s IMAP mission to map the boundaries of our solar system
【編集部解説】
今回のIMAPミッションが持つ意義は、単なる宇宙探査を超えた「人類の生存戦略」としての側面にあります。太陽圏という見えないバリアの正確なマッピングは、地球文明の宇宙進出において不可欠な基盤技術となるからです。
技術的な難易度について説明すると、ラグランジュポイントL1は地球から150万キロメートル離れた重力均衡点で、ここに配置された観測機器は太陽活動を24時間365日監視できる理想的な位置となります。従来のACEやDSCOVRといった古い衛星が設計寿命を大幅に超えて運用されている現状を考えれば、この更新がいかに重要かが分かります。
アルテミス計画への直接的な貢献として、IMAPが提供する30分から1時間の早期警報システムは革命的です。月面や深宇宙での宇宙飛行士は地球の磁気圏による保護を受けられないため、太陽嵐による放射線被曝が生命に関わる脅威となります。実際にアルテミス1のデータ分析では、オリオン宇宙船の遮蔽が有効であることが確認されましたが、それでも事前警報システムは必須です。
宇宙天気予報の精度向上により、地上インフラへの影響も大幅に軽減されるでしょう。GPS、電力網、通信システムなど、現代社会の基盤となるインフラは全て宇宙天気の影響を受けます。SWFO-L1が提供するリアルタイム監視データは、これらのシステムを事前に保護する能力を飛躍的に向上させます。
長期的な視点では、このミッションが火星探査にも応用される可能性が高いことに注目すべきです。火星往復ミッションでは約1年半という長期間、宇宙放射線に曝露されることになり、現在の技術では許容被曝量の上限に近づく計算となっています。IMAPが収集するデータは、将来の火星ミッションの安全性確保にも直結する重要な知見をもたらすはずです。
潜在的なリスクとしては、L1という遠隔地での機器故障時の対応の困難さが挙げられます。しかし、3機同時打ち上げによる冗長性の確保と、27の国際パートナーによる技術的バックアップにより、このリスクは可能な限り軽減されています。
【用語解説】
太陽圏(ヘリオスフィア): 太陽風によって形成される太陽系全体を包む巨大な磁気バブル。太陽系の境界を定義し、外部からの有害な宇宙放射線から地球や他の惑星を保護している。
ラグランジュポイントL1: 地球と太陽の重力が釣り合う地点の一つで、地球から150万キロメートル離れた位置。ここに配置された衛星は太陽を24時間観測でき、宇宙天気監視に最適な場所である。
宇宙天気: 太陽活動が地球周辺の宇宙環境に与える影響の総称。太陽フレアや太陽嵐により、GPS、通信システム、電力網などの地上インフラに障害を引き起こす可能性がある。
星間塵: 恒星間空間に存在する微細な固体粒子。太陽系外から飛来し、太陽系の形成過程や宇宙の物質循環を理解する重要な手がかりとなる。
外気圏: 地球大気の最外層で、月までの距離の約半分まで広がる極めて薄い大気層。水素原子が主成分で、宇宙空間への境界領域である。
【参考リンク】
NASA IMAP Mission(外部)
NASAの公式IMAPミッションページ。10の科学機器による太陽圏境界マッピングの詳細、ミッションの目的と科学的意義を包括的に解説している
SpaceX(外部)
イーロン・マスクが設立した宇宙輸送会社の公式サイト。ファルコン9ロケットの技術仕様、打ち上げスケジュール、火星植民地化構想などを掲載
NOAA宇宙天気予報センター(外部)
米国海洋大気庁の宇宙天気監視・予報サービス。リアルタイム宇宙天気データ、3日間予報、太陽活動の影響評価を提供している
プリンストン大学 IMAPプロジェクト(外部)
IMAP主任研究者デイビッド・マッコマス教授が率いるプリンストン大学の公式プロジェクトサイト。10の観測機器の技術詳細と科学目標を説明
【参考動画】
【参考記事】
Exploring the Sun’s Invisible Shield: NASA’s IMAP Mission to Map the Heliosphere(外部)
太陽圏の「見えないシールド」としての機能とIMAPによる初の包括的マッピングの科学的意義を詳細に解説。宇宙放射線からの保護メカニズムを重点的に説明している
Solar Probes To Help Protect Artemis Crews From Radiation(外部)
アルテミス計画における宇宙放射線の脅威と、IMAPによる早期警報システムの具体的な運用方法を解説。30分から1時間の事前警報能力の技術的詳細を記載
University of Bern involved in NASA mission to explore the heliosphere(外部)
27の国際パートナーの一つであるベルン大学の参加について。ヨーロッパの科学機関がIMAPミッションにどのように貢献しているかを具体的に説明している
Radiation Protection en Route to the Moon(外部)
月面ミッションにおける放射線被曝リスクの定量的分析。火星往復ミッションでは約1年半の被曝期間で許容上限に近づく計算結果を詳述している
Artemis I Radiation Measurements Validate Orion Safety for Astronauts(外部)
アルテミス1で実測された放射線データに基づく宇宙船の遮蔽効果検証結果。深宇宙における宇宙飛行士の安全性確保に必要な技術的要件を具体的に示している
【編集部後記】
今回のIMAPミッションは、私たち一般市民にとっても決して遠い話ではありません。実際に2026年から始まるアルテミス計画では、月面での人類の活動が本格化し、私たちが生きているうちに「月の住人」が誕生するかもしれないのです。
皆さんは、もし宇宙旅行が現実的になったとき、どんな体験をしてみたいでしょうか。また、地球の通信システムや電力網を守るこの技術について、どのような活用法が考えられると思いますか。宇宙は「選ばれた人だけのもの」ではなく、私たち全員の未来に関わる身近な存在になりつつあります。ぜひ皆さんのご意見やアイデアをお聞かせください。