NASA・戦争省のFUSEプロジェクト、目視外飛行で貨物ドローンの未来を切り拓く

NASA・戦争省のFUSEプロジェクト、目視外飛行で貨物ドローンの未来を切り拓く - innovaTopia - (イノベトピア)

NASAと戦争省が自律ドローン運用の境界をテストする協力プロジェクトを実施した。

カリフォルニア州シリコンバレーのNASAエイムズ研究センターの研究者が、目視外飛行(BVLOS)と呼ばれる概念を実証するライブフライトデモンストレーションに参加した。

貨物ドローンがノースダコタ州のグランドフォークス空軍基地とキャバリア宇宙軍基地間の75マイル以上を横断し、様々な積荷を運搬した。この実証実験は戦争省のUAS物流・交通・研究・自律性(ULTRA)取り組みの一環として実施された。

NASAのUASサービスサプライヤー(USS)技術により、複雑で共有された空域での安全運用が実証された。飛行データはリアルタイムでNASAシステムに送信され、完全な状況認識が確保された。

この協力関係は連邦USS統合取り組み(FUSE)として知られている。NASA長官の上級顧問トッド・エリクソン氏とNASAエイムズのFUSEプロジェクトマネージャーのテレンス・ルイス氏がコメントを発表した。

NASAエイムズは戦争省調達・維持担当次官事務所と協力し、ULTRAは複数の機関と商業パートナーとの多機関パートナーシップである。

From: 文献リンクNASA, War Department Partnership Tests Boundaries of Autonomous Drone Operations

【編集部解説】

今回のNASA戦争省の協力プロジェクトは、ドローン技術における重要な転換点を示しています。目視外飛行(BVLOS)は文字通り「操縦者が直接ドローンを見ることができない距離での飛行」を意味し、これまで安全性の観点から厳しく制限されてきた領域でした。

75マイル(約120キロメートル)という飛行距離は、商用ドローン運用において画期的な数値です。現在の商用ドローンの多くは数キロメートル程度の運用範囲に留まっており、今回の実証実験はその約40倍の距離を実現したことになります。この距離により、都市間の物流や緊急時の医療品配送といった実用的なサービスが現実味を帯びてきます。

特筆すべきは、UASサービスサプライヤー(USS)技術による「複雑で共有された空域」での安全運用の実証です。従来の空域では有人航空機が優先されるため、ドローンは限定的な運用しか許可されていませんでした。しかし今回のシステムにより、既存の航空交通と調和した運用の可能性が示されています。

このプロジェクトが軍事物流から始まっているのには理由があります。軍事用途では飛行経路が比較的限定されており、民間航空機との接触リスクをコントロールしやすいためです。また、25キログラムの積載能力は医療品や緊急物資の配送には十分な容量と言えるでしょう。

一方で、この技術の民間転用には課題も存在します。FAA(連邦航空局)による規制整備が追いついておらず、現在も段階的な検証が進められている状況です。また、自律飛行システムへの依存度が高まることで、サイバーセキュリティリスクや技術的故障時の対応策についても慎重な検討が必要です。

長期的な視点では、この技術は都市航空モビリティ(UAM)の実現に向けた重要な基盤となる可能性があります。現在検証されている交通管理システムは、将来的に空飛ぶタクシーやドローン配送サービスが日常的に運用される際の安全インフラとして活用されることが期待されています。

【用語解説】

BVLOS(Beyond Visual Line of Sight)
目視外飛行と呼ばれるドローン運用方式で、操縦者が直接目視できない距離での飛行を指す。従来のVLOS(Visual Line of Sight)では操縦者が常にドローンを目視する必要があったが、BVLOSでは自律航行システムやセンサー技術により目視範囲外での運用を可能とする。

UAS(Unmanned Aerial Systems)
無人航空機システムの略称で、ドローン機体だけでなく地上制御システム、通信リンク、操縦者などを含む包括的なシステム全体を指す概念である。

USS(UAS Service Supplier)
UASサービスサプライヤーの略で、ドローンの飛行計画や空域利用に関する情報を管理し、航空交通管制との調整を行うシステムまたはサービス提供者のことである。

FUSE(Federal USS Synthesis Effort)
連邦USS統合取り組みの略称で、NASAと戦争省が共同で実施している、民間および軍事用途のドローン交通管理システムの研究開発プロジェクトである。

【参考リンク】

NASA Ames Research Center(外部)
カリフォルニア州シリコンバレーに位置するNASAの主要研究センター。航空学、宇宙探査技術の世界トップクラスの研究開発を実施。

U.S. Department of War(外部)
アメリカ最大の政府機関で国家安全保障を担当する省庁。ドローン技術や自律システムの軍事応用研究を推進している。

【参考記事】

Project ULTRA drone cargo flights Increased Contract Ceiling(外部)
ULTRAプロジェクトが1億ドルの契約上限増額を獲得し、週次の貨物ドローン飛行を開始した進展を報告。

GrandSKY’s Project ULTRA: Enabling Military BVLOS Ops(外部)
グランドスカイ社が主導するULTRAプロジェクトの軍事BVLOS運用について技術的課題と解決策を分析。

NASA’s UTM BVLOS project sees potential for more complex drone operations(外部)
NASAのUTM BVLOSプロジェクトがより複雑なドローン運用の可能性を示した技術的進歩と商用展開への影響を詳述。

【編集部後記】

今回のNASAと戦争省のドローン実験は、私たちの身近な生活にも大きな変化をもたらす可能性を秘めています。75マイルの自律飛行が実現できれば、災害時の緊急物資配送や離島への医療品輸送、そして近い将来には日常の宅配サービスまで一変するかもしれません。

皆さんはこの技術の進歩をどのように感じられますか。便利さへの期待と同時に、プライバシーや安全面での不安もお持ちではないでしょうか。innovaTopia編集部として、これらの新技術が私たちの暮らしにどのような影響を与えるのか、引き続き読者の皆さんと一緒に見守っていきたいと思います。ぜひSNSで皆さんの率直な感想をお聞かせください。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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