米国防高等研究計画局(DARPA)が「Smart-Red Blood Cells(Smart-RBC)」プログラムに関する特別通知を発表した。このプログラムは、赤血球を生体工学的に改造することで、人間の生理機能に新しい生物学的特徴を安全かつ確実に付与しようとする試みである。
これは短期的には人間のパフォーマンス向上と血液凝固(止血)の機能強化、長期的には極限環境での体温調節改善、高度適応向上、万能血液の作成を目標としている。Smart-RBCは細胞外バイオマーカーを感知し、代謝や生理機能を変化させるエフェクター分子を作成する3層の生物学的回路を含む設計を特徴とする。
プログラムは36か月間で実施され、2つの18か月フェーズに分かれる。第1フェーズでは幹細胞の設計能力実証、第2フェーズでは機能性実証と能力デモを行う予定である。正式な提案依頼は今後数週間のうちに出される可能性がある。
From: DARPA eyes ‘smart’ blood cells for tougher troops
【編集部解説】
今回発表されたDARPAの「Smart-RBC」プログラムについて、実はこれは2つの関連する研究プログラムの発展形であることが明らかになりました。
まず背景として、DARPAは既に「RBC-Factory」という別のプログラムを2024年から開始しており、これは医療機器を用いて赤血球に生物学的に活性な成分を挿入する技術の開発を目指しています。今回のSmart-RBCプログラムは、この技術をさらに発展させた次世代版と考えられます。
注目すべきは、このプログラムの技術的野心の高さです。従来の薬物投与とは根本的に異なり、赤血球自体を「スマート」にしようとしています。具体的には、細胞外の生体指標を感知し、状況に応じて必要な分子を産生する「生物学的回路」を赤血球内に組み込む構想です。
これが実現すれば、極限環境での体温調節、高地適応の促進、止血機能の向上など、従来は外部機器や薬物に頼っていた機能を血液そのものが担うことになります。軍事的な視点では、重装備を必要とせずに過酷な環境で活動できる兵士の育成が可能になるかもしれません。
ただし、この技術には重大な倫理的課題が伴います。人間の生理機能を根本的に改変する技術であり、長期的な安全性や予期しない副作用のリスクは未知数です。また、軍事利用を前提とした人体改造技術は、国際的な生命倫理規範との整合性についても議論が必要でしょう。
正式な提案依頼の締切は2025年10月31日に設定されており、今後数週間で詳細な募集要項が公開される予定です。36か月という比較的短期間での実用化を目指している点も、この技術への期待の高さを物語っています。
民生応用の可能性も注目されます。医療分野では持続的な薬物投与システムや、特定の疾患に対する標的治療への応用が期待できます。宇宙探査においても、極限環境での人体保護技術として重要な役割を果たす可能性があります。
【用語解説】
DARPA(国防高等研究計画局)
米国防総省の研究開発機関。インターネットの前身であるARPANETやGPSなど、軍事技術から民間に転用された多くの革新的技術を生み出してきた。
生体工学(Bioengineering)
生物学的システムを工学的手法で改変・設計する分野。遺伝子工学、組織工学、合成生物学などが含まれる。
細胞外バイオマーカー
細胞外に存在し、生理状態や病理状態を示す生化学的指標。血糖値、酸素濃度、炎症マーカーなどが含まれる。
【参考リンク】
DARPA公式サイト(外部)
米国防高等研究計画局の公式ウェブサイト。最新の研究プログラムや技術開発情報を提供
RBC-Factoryプログラム(外部)
DARPAが推進する赤血球関連技術の先行プログラム詳細情報を掲載
【参考記事】
Future Program Smart-Red Blood Cells(外部)
DARPAの公式契約情報。提案依頼締切や実施期間などの具体的情報を記載
Military Researchers Are Trying to Hack Troops’ Blood(外部)
軍事専門メディアによるDARPAの血液改変技術とRBC-Factory関連報道
DARPA Exploring How Blood Biohacks Could Help Warfighters(外部)
ビジネスインサイダーによる血液バイオハック技術の民生応用可能性分析
【編集部後記】
この記事を読んで、皆さんはどのような未来を想像されましたか?軍事技術から生まれた革新は、私たちの日常生活にどのような変化をもたらすのでしょうか。
皆さんは、このような技術の発展についてどう感じられますか?特に、軍事技術として開発されるものが、将来的に医療現場や災害対応にどのような影響を与えると思われるでしょうか。また、人体を直接改変する技術に対する期待と懸念について、ご意見をお聞かせください。技術の光と影の両面を、読者の皆さんと一緒に考えていけたらと思います。