眼鏡不要の老眼治療が実用化|FDA承認の点眼薬「Vizz」1日1回で10時間効果持続

[更新]2025年10月27日12:50

眼鏡不要の老眼治療が実用化|FDA承認の点眼薬「Vizz」1日1回で10時間効果持続 - innovaTopia - (イノベトピア)

10月24日付けのDaily Galaxyの記事によると、アメリカ食品医薬品局(FDA)が2025年7月に承認した老眼治療用の点眼薬Vizz(アセクリジン眼科用溶液1.44%)について、テキサス州ヒューストンなどで既に早期採用が進んでいる。

これはLENZ Therapeuticsが開発した1日1回使用の点眼薬で、朝に両目に各1滴ずつ点眼することで約10時間にわたり近距離視力を改善する。アメリカでは約1億2800万人の成人が老眼に悩んでおり、Vizzはアセクリジンベースの点眼薬としては初めてかつ唯一のFDA承認製品となる。有効成分のアセクリジンは瞳孔選択的な縮瞳薬として作用し、虹彩括約筋を収縮させることで瞳孔を2mm以下に縮小し、ピンホール効果により焦点深度を拡大する。

サンプルは2025年10月から提供が開始され、商業製品は2025年第4四半期半ばまでに広く入手可能となる見込みである。一部地域のクリニックでは既に早期採用が始まっており、使用者からは眼鏡不要となったとの報告がある。

From: 文献リンクFDA Approves Miraculous Daily Eye Drops That Restore Vision Without Glasses or Surgery

【編集部解説】

この点眼薬が注目される理由は、その独自のメカニズムにあります。有効成分のアセクリジンは、瞳孔選択的な縮瞳薬として機能し、虹彩の括約筋に作用して瞳孔を2mm以下に収縮させます。これはカメラの絞りを絞るのと同じ「ピンホール効果」を生み出し、焦点深度を拡大することで近距離視力を改善します。

重要なのは、毛様体筋への刺激が最小限に抑えられている点です。2021年10月に承認された先行製品Vuityはピロカルピンを使用しており、瞳孔収縮と毛様体筋刺激の両方の作用を持ちますが、Vizzは主に瞳孔に作用し毛様体筋への影響は最小限に抑えられるため、近視化シフトを引き起こさずに近距離視力を改善できます。

臨床試験CLARITY 1および2では、点眼後約30分以内に統計的に有意な近距離視力の改善が見られ、その効果は最大10時間持続しました。試験では71%の参加者が30分後と3時間後に3段階の視力改善を達成し、93%が30分以内に20/40以上の近距離視力を達成しています。

副作用としては、一時的な眼刺激感、軽度の頭痛、低照度条件での視力低下が報告されていますが、3万日以上の治療日数を通じて重篤な治療関連有害事象は観察されませんでした。

世界保健機関によれば、2030年までに世界中で20億人が老眼になると予測されており、非侵襲的治療への需要は今後さらに高まるでしょう。

この技術の登場により、眼鏡やコンタクトレンズ、手術といった従来の選択肢に加えて、日常的に使用できる薬理学的アプローチが確立されました。ただし、効果は一時的であり、継続的な使用が必要となる点、夜間運転時の視力低下のリスクがある点は注意が必要です。

【用語解説】

アセクリジン(Aceclidine)
瞳孔選択的な縮瞳薬として作用する化合物である。虹彩括約筋に作用して瞳孔を収縮させるが、毛様体筋への刺激は最小限に抑えられている。この特性により、近視化シフトを引き起こさずに近距離視力を改善できる。

縮瞳薬(Miotic Agent)
瞳孔を収縮させる作用を持つ薬物のクラスである。瞳孔を狭めることで「ピンホール効果」が生まれ、焦点深度が拡大し、近距離視力が改善される。カメラの絞りを絞るのと同じ原理である。

ピンホール効果(Pinhole Effect)
小さな穴を通して見ることで焦点深度が深くなり、像が鮮明に見える光学現象である。瞳孔を収縮させることで周辺光線が制限され、近距離画像の鮮明さが高まる。

【参考リンク】

VIZZ公式サイト(外部)
Vizz(アセクリジン眼科用溶液1.44%)の製品情報を提供する公式サイト。1日1回の点眼で最大10時間近距離視力を改善する処方眼薬の適応症、使用方法、安全性情報などを掲載。

LENZ Therapeutics公式サイト(外部)
カリフォルニア州サンディエゴに本社を置く製薬会社の公式サイト。Vizzの開発・商業化に焦点を当て、臨床試験データ、投資家情報、プレスリリースなどを提供している。

FDA医薬品データベース – Vizz処方情報(外部)
FDAが提供するVizzの完全な処方情報文書。有効成分、臨床薬理学、使用方法、禁忌、副作用、臨床試験結果などの詳細な医学的情報を記載している。

【参考記事】

LENZ Therapeutics Announces US FDA Approval of VIZZ for the Treatment of Presbyopia(外部)
2025年7月30日付けのLENZ Therapeuticsの公式プレスリリース。臨床試験CLARITY 1および2の結果として、71%の参加者が視力改善を達成したことを報告。

Vizz Becomes First, Only FDA-Approved Aceclidine-Based Eye Drop for Presbyopia(外部)
2025年8月6日付けの薬学専門誌による記事。Vizzの作用メカニズムについて詳細に解説しており、瞳孔選択的な縮瞳薬として機能する点を強調している。

LENZ Therapeutics Announces Commercial Product Availability of VIZZ in the United States(外部)
2025年9月29日付けのプレスリリース。Vizzのサンプル配布が全米の眼科医療専門家向けに開始され、2025年第4四半期半ばまでに広く入手可能になることを発表。

【編集部後記】

老眼は誰もが避けられない現象ですが、その対処法は今、大きく変わろうとしています。眼鏡を常に持ち歩く必要がなくなる、朝の点眼だけで一日中快適に過ごせる—そんな選択肢が現実になりつつあります。

ただし、この技術にも夜間視力への影響や継続的なコストといった側面があります。みなさんがもし老眼に悩んでいるとしたら、どのような解決策を求めますか?便利さと引き換えに受け入れられるトレードオフはどこまででしょうか?私たちも読者の皆さんと一緒に、この新しい選択肢が生活にもたらす変化について考えていきたいと思います。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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