Honda初の電動乗用芝刈機ProZision Autonomous、ティーチング方式で最大15エーカーを自律走行

[更新]2025年10月28日14:00

19.2kWhという大容量バッテリーは、電動工具としては異例の規模です。240V充電で6.5時間で満充電となり、最大15エーカーの作業が可能とされています(作業条件により変動します)。 - innovaTopia - (イノベトピア)

Hondaは2025年10月15日、同社初となるバッテリー駆動の業務用乗用芝刈機「ProZision」シリーズを発表した。このシリーズは、10月21日から24日まで米国ケンタッキー州ルイビルで開催されるEquip Exposition 2025で世界初公開される。ラインナップは自律走行機能を搭載した「ProZision Autonomous」と手動運転モデルの「ProZision」の2機種で、2026年内に発売される予定だ。

ProZision Autonomousは、GNSS(全球測位衛星システム)で自らの位置を正確に認識する。オペレーターが手動運転で作成した mowing route(芝刈りルート)を記憶し、その後は無人でルートを再現して自律走行を行う(ティーチング&プレイバック方式)。車載のレーダーとLiDARセンサーが周囲360度を常に監視しており、障害物を検知すると自動で減速または停止する安全機能を備えている。

カッティングデッキには、Honda独自のMicroCut®ツインブレードが3組搭載されており、芝を細かく裁断して美しい仕上がりを実現する。運転モードは、作業状況に応じて「Rapid(高速)」「Normal(通常)」「Precise(精密)」の3種類から選択可能だ。

動力源には、6つのリチウムイオンバッテリーで構成されるシステムを採用し、合計で電圧48V、容量19.2kWhを発揮する。これにより、一度の充電で最大15エーカー(約60,700平方メートル)の広大なエリアでの作業が可能(作業条件により変動)。充電時間は、240Vの業務用電源で約6.5時間、120Vの家庭用電源で約16.5時間となっている。

From: 文献リンクHonda to Present World Premiere of ProZision™ Autonomous, at Equip Exposition 2025

【編集部解説】

Hondaが発表したProZision Autonomousは、同社にとって単なる新製品投入以上の意味を持っています。自動車で培った自律走行技術を、まったく異なるフィールドへ展開する戦略的な一手といえるでしょう。

一部技術メディアは価格を$32,999と報じていますが、メーカー希望小売価格(MSRP)は後日発表される予定です。いずれにせよ、商業用途を前提とした本格的な業務用機器の価格帯となるでしょう。

商業用ロボット芝刈機市場は今後年平均15%程度の成長が見込まれており、労働力不足を背景に需要が拡大しています。商業施設やゴルフ場などの大規模な芝生管理では、自律走行機が複数の作業員を代替できる可能性があり、人件費削減効果が期待されています。

技術的な注目点は「ティーチング&プレイバック」方式の採用です。オペレーターが一度手動で走行させて経路を教え込むと、以降はその経路を自律再現します。これは完全自律型よりも柔軟性が高く、敷地ごとの個別事情に対応できる利点があります。

19.2kWhという大容量バッテリーは、電動工具としては異例の規模です。240V充電で6.5時間で満充電となり、最大15エーカーの作業が可能とされています(作業条件により変動します)

ただし課題も存在します。自律モードでは最高速度が6mph(約9.7km/h)に制限され、手動の10mphより40%遅くなります。また傾斜角も10度までと、手動の15度より制約があります。これは安全性とのトレードオフですが、作業効率への影響は避けられません。

この製品が示すのは、自律化技術の適用領域が急速に拡大している現実です。自動車、ドローン、そして今度は芝刈機へ。センサー技術の低価格化とバッテリー性能の向上が、こうした展開を可能にしています。

Hondaが2050年カーボンニュートラルを掲げる中で、パワープロダクツ部門の電動化は重要な柱となります。ProZisionシリーズは、その具体的な形を示す製品といえるでしょう。

【用語解説】

GNSS(全球測位衛星システム)
Global Navigation Satellite Systemの略称で、衛星を利用した測位システムの総称である。米国のGPS、欧州のGalileo、ロシアのGLONASS、日本のみちびきなどが含まれる。複数の衛星からの信号を受信することで、地球上の正確な位置を特定できる。

LiDAR(ライダー)
Light Detection and Rangingの略称で、レーザー光を照射し、反射光を測定することで対象物までの距離や形状を検出するセンサー技術である。自動運転車やドローン、ロボットなどで広く採用されている。

ティーチング&プレイバック方式
ロボットや自律走行機器に動作パターンを教え込む手法である。人間が手動で一度操作して経路や動作を記憶させ(ティーチング)、以降はその記憶に基づいて自動で同じ動作を再現する(プレイバック)。産業用ロボットで広く用いられている技術である。

MicroCut®ツインブレード
Hondaが開発した芝刈り用ブレードシステムで、2枚の刃が組み合わさって芝を細かく裁断する。従来の単一ブレードと比較して、刈り取った芝をより細かく裁断できるため、芝生への栄養還元効果が高まり、仕上がりの美観も向上する。

トラクションコントロール
車輪の空転を防ぎ、路面との摩擦力を最適化する制御技術である。傾斜地や不整地でも安定した走行を可能にする。自動車分野で発展した技術が、芝刈機にも応用されている。

【参考リンク】

Honda ProZision Autonomous 製品ページ(外部)
ProZision Autonomousの詳細な製品情報、仕様、自律走行機能の解説や安全機能についての詳細が確認できる公式ページ。

Honda Global – ProZision Autonomous技術解説(外部)
自律化技術、センシング技術、バッテリーシステムなど詳細な技術情報を掲載したHondaグローバルサイトの技術解説ページ。

Equip Exposition 2025公式サイト(外部)
ProZision Autonomousが世界初公開された造園・ランドスケープ業界向け北米最大級の展示会公式サイト。

Honda Design Interview – ProZision Autonomous(外部)
作業性を高めるためのデザイン思想や、操作性と快適性を両立させた設計プロセスを紹介するデザイン開発インタビュー記事。

【参考記事】

Honda announces ProZision ZTR and Autonomous mowers(外部)
ProZision Autonomousの発売時期が2026年夏であること、製造施設の所在地、傾斜角対応について詳しく報じている業界メディアの記事。

Honda’s $33K Robot Mower Needs Human Teachers First(外部)
ProZision Autonomousの価格$32,999を明記し、ティーチング&プレイバック方式の動作原理を詳しく解説している技術メディアの記事。

Landscaping Labor Shortage: What To Do About It(外部)
米国造園業界における労働力不足の実態を報告し、業界全体で深刻な人材確保の課題に直面していることを示す分析記事。

Commercial Robotic Lawn Mowers Analysis 2025(外部)
商業用ロボット芝刈機市場が2033年まで年平均15%の成長が見込まれることを報告する市場調査レポート。

【編集部後記】

自律走行する芝刈機と聞いて、みなさんはどんな未来を想像されますか?

特に日本国内に目を向ければ、その活躍の舞台としてゴルフ場が思い浮かびます。広大なフェアウェイやラフの管理は、常に高い品質が求められる一方、コース管理の現場は人手不足と高齢化という深刻な課題に直面しています。芝刈りという定型的な作業だからこそ、自律走行技術との親和性は極めて高いと言えるでしょう。

オペレーターが一度ルートを教え込む「ティーチング&プレイバック方式」は、ゴルフコースのように区画化されたエリアでこそ真価を発揮すると予想します。熟練スタッフの経験をデジタルデータとして蓄積し、何度でも正確に再現する。これはまさに、匠の技をテクノロジーが継承する姿なのではないでしょうか。

夜間に静かに作業を終え、翌朝には完璧に整えられた緑の絨毯が広がる。自律化技術は、作業者の負担を減らすだけでなく、ゴルファーの体験価値をも向上させる可能性を秘めています。

家庭用ロボット掃除機が私たちの暮らしを変えたように、こうした業務用ロボットが社会インフラを支える現場を変えていく。次に自律化の波が押し寄せるのは、どの領域でしょうか。みなさんが「テクノロジーに任せたい」と考える身近な課題は何ですか? ぜひSNSであなたのアイデアを教えてください。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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